第2話【偶像の設計図】
ラウンジ「Nostalgia」は、渋谷の裏路地にひっそりと佇む。大手ではないが、内装は洗練されているが、客層も若く、ややスレている——そんな場所だった。
「まぁ、ラウンジはクラブとかよりラフな感じだからさ。気楽にして」
「そうなんですか…ちょっと緊張してます」
そこに黒髪でまだ幼さを感じる女の子が座る。年齢は19。理央よりもやや歳下、夜の世界にもあまり慣れていない感じがする女の子だ。
全く完璧さがない女の子。そう。しずくとは正反対である。名前はマイ。
*
俺と理央の接触は、週に一度の面談や遊びという名目で続いていた。
理央は俺に懐いていた。
「俺、最近彼女とうまくいってないんですよね」
理央はそんなふうに言うようになっていた。俺が話を聞くふりをしながら投げる小さな否定の種。
「地下アイドルって、普通の恋愛とかできないんじゃない?それって本当に“付き合ってる”って言えるのか?」
「……まぁ、そうなんですよね。イベントとかレッスンで全然会えないし、夜はSNS頑張りたいからって理由で連絡も多いとは言えません」
「確かに彼女は顔は良いかもしれないけどさ。君って、もっと大事にされるべきタイプだと思うよ」
そうやって、理央の“彼氏としての自尊心”にゆっくりと傷を入れていく。
「そう言えば、この前のマイちゃんと連絡取ってるの?」
「それが、マイちゃんってなんか可愛らしいんですよね。彼女と違って甘え上手っていうか…連絡も頻繁にくれるし」
「そうなんだ。確かに、君ってしっかりしてるし、マイちゃんみたいなタイプが合うと思うよ」
「そうっすかね」
理央はまんざらでもない表情を浮かべていた。
*
その間も、俺はしずくの現場に通っていた。
むしろ、以前よりも回数を増やしていた。
複数のSNSアカウントで“ファン”を演じ、SNSを盛り上げ、以前よりもチェキを撮り、客を招待し、会場を盛り上げた。
「透さんと最近たくさん会えて嬉しい」
ある日、しずくが微笑んで言った。
「ライブの度に安心するっていうか、ステージから透さんが見えると嬉しくなる。私今、とても幸せ」
俺は笑って、「そんなことないよ」と返したが、内心では——計画の第2段階に入ったことを悟っていた。
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理央は順調に歪んでいた。
「今度マイちゃんとデート行くことになったんすよ」
彼はそう言って笑った。最近、マイとの関係が進んでいるらしい。俺が与えた“たまたまの縁”を、彼は「運命」だと感じ始めている。