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おやくそく

「さて、どうしたものか」


 今更、考えても無駄だと思うが、俺はフィーリングで解決できるタイプにあらず。

 提供された設定に乗っかり、与えられたシチュエーションに流され、ご期待に沿ったリアクションをする。そんな名バイプレイヤーな主人公でありたい。


 矛盾を乗り越えることが、主人公の条件だ。って、ハウトゥー本に書いてあった。

 斬新なアイディアを閃くなら風呂が一番だ。って、同著に書いてあった。

 湯船に浸かって、今後のラブコメ対策を練ろう。

 予習と復習はテスト前だけにしてくれ、と愚痴りつつ洗面所へ足を運んでいく。


 いつもの調子で脱ぎ散らかした衣服を、洗濯機へダンク。

 稀によくあるのだが、俺はボーっと無意識に陥ることがある。1分ほど記憶が飛び、突如目の前の光景が刷新されて驚愕してしまう。格好良く言えば、ゾーン状態に入る。


 ――気付いた時には、浴室のドアを開け放っていた。

 湿った空気が顔の辺りを突き抜けていく。


「……っ!?」


 目が合った。

 誰と?


「な――っ!」


 フレイヤは、シャワーを浴びていた。

 薄桃色のロングヘアーから肌に水滴が伝わり、身体を包み込んだ石鹸の泡が床に垂れ落ちていく。線の細いボディライン、くびれた腰つき、長い脚が蠱惑的だった。


 美女の裸体が視界に映り、俺はボルトで固定されたかのごとく首が回らなかった。

 たわわに実ったおっぱいが、ピシャーンッ!

 下腹部と白い太ももが描くデルタ地帯は、ピシャーンッ!


「おい! ピシャーンッ! って、何だよ!」


 SE・ピシャーンッ!

 謎の白い光が、フレイヤの大事な部分を邪な視線から完全防御した。

 これ、知ってる! モザイク処理だ! BDだと取れるやつっ!


「隆っ! わたしでお風呂シーンを試すなんて、とんだ覗き魔ね」


 蹲るように胸を両手で隠した、フレイヤ。

 羞恥心で頬を紅潮させまして、此度は意表を突かれたご様子で。


「ち、ちがっ……これは事故だ! 俺は、組織にハメられたんだ」


 あたふたと慌てた、俺。今回はまだ、素のリアクションじゃよ。

 けれど、そのポーズ。胸の谷間がムニュッと強調されて、良いと思います。


「わたしにラブコメを仕掛けるなんて、100年早いのよっ! このヘンタイッ!」


 眉根を寄せたフレイヤは、ケロリーンなオケを投げつける。


「バッハッ!?」


 別に、音楽の父はお呼びじゃない。

 顔面にクリーンヒットした俺は、洗面所で仰向けに倒れ込んでいく。


「フン。素人のくせに、わたしの隙を突くなんて健闘するじゃない。でも、ここで見たものは忘れなさい! 絶対だからね!?」


 ラブコメのギョウカイ神は、プイっとそっぽを向いてしまう。

 そそくさとバスタオルを巻くや、洗面所を後にするのだった。

 足音が聞こえなくなり、俺はヒリヒリする顔を押さえた。


「これが、ラブコメギョウカイの洗礼か……ぐふ」


 図らずも、年頃の乙女(年齢不詳)の素肌を目撃してしまった。

 これぞ、ラブコメ主人公のなせるわざか?

 ククク、これからも美少女の痴態を拝んでピシャーンッ!


 ……おい、俺の眼差しにモザイク処理やめろ!

 どうやら、謎の光はラブコメ主人公の下心を監視しているようだ。

 ピシャーンッ!


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