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ラブコメ環境

 帰宅すると、室内は薄暗く、音一つ鳴らなかった。

 鍵を閉めて、廊下にバッグを放り投げる。

 玄関に並ぶ靴が少なく、どうやら母上様は買い物にでも行ったと予想する。


 俺は明かりをつけ、腹の虫に誘われて冷蔵庫へ一直線。

 炭水化物をくれ。糖分が足りない。カロリーを所望じゃ!


「隆、帰ったら手を洗いなさい。あと、うがいも」

「オメーは、俺のお母さんかよ……」


 フレイヤの小言に出鼻を挫かれ、俺は仕方がなしに洗面所へ向かった。

 否、くるりと踵を返すや。


「って、ちょ待てよ! なんで、この家にいる!? いつ、付いてきたっ」


 一時間前、フレイヤとは校門で別れた。

 俺は一人ぼっ……孤高な帰宅をキメたはずなのに。


「なんで? 逆になんでよ?」


 フレイヤは、冷蔵庫を開けて視線を泳がせた。オレンジジュースに手を伸ばすや、勝手知ったる他人の家と言わんばかりにコップに注ぎ始めた。

 ジュースを勝手に飲むのは別に構わんよ。


 でも、先にちゃんと手を洗え! うがいもしなさい!

 ギョウカイ神が風邪を引くわけないじゃない、とフレイヤ談。

 知らんがな。


「わたしもしばらくここに住むに決まってるでしょ。あなたに協力してあげるんだから、なるべく近くにいた方が良いわ」

「せやかて、ギョウカイ神。突然、知らない女子が家に転がり込んで来るなんて、ラブコメじゃあるまいし」

「これ、ラブコメだけど? あなた、ラブコメ主人公」


 無表情なフレイヤが俺を指差した。

 ……そうでした。忘れたわけじゃないけど、どうにか常識力を保ちたかった。


「いや、やっぱりマズい。俺はトラックに轢かれた後のくだりを体験したゆえ、そういう設定を受け入れるけど、うちの親は結構まともな人たちだ。フレイヤがずっと大原家に入り浸ってたら、家出少女だと勘違いされて厄介な騒動になるぞ」


 フレイヤは、パチクリと瞬いた。ついでに、プリンを食べた。

 おい、それ俺のおやつ! 楽しみに取っておいた限定品やぞ。


「親バレ問題ね……大丈夫、すでに対策済みよ」

「如何に?」

「ふふん。これを見てちょうだい」


 それは、ダイニングテーブルに置かれた一枚の書置き。

 ――隆へ。


 お父さんが仕事の都合で、急遽海外出張が決まりました。長期です。

 お父さんは生活力が乏しく、とても心配なのでお母さんも同行することにしました。

 けっして、シンガポールの高級マンションが生活拠点になり、リゾート施設のカジノやエステに通い放題な特典につられたわけではありません。本当よ?


 あなたは、お母さんに似て生命力が強いので一人残しても平気よね?

 じゃ、そういうわけだから。生活費は、お父さんのへそくり使うように。

 私たちが留守の間、頼んだわ。母より。


「ざけんなッ!」


 俺は、書置きをビリビリと引き裂いた。


「急展開過ぎて、ワロタ! ババア! 今朝、ママ友とホテルビッフェ楽しんでくるわ~って抜かしてただろーが! 突然、シンガポールへ赴くな! マーライオンも展開の速さに、度肝を抜かしたわ!」


 開いた口が塞がらないでヤンス~、とマーライオン談。

 否、オメーはいつも口から水出してんだろ! ふざけろ!

 ノリツッコミである。


「隆。ラブコメ主人公の親は、往々にして家を空けがちなのよ」

「まさか、これもフレイヤの力か?」


 ニヤリと首肯するフレイヤ。


「ギョウカイ神だからね。ジャンルに応じた環境を改変させる。他愛ないわ」

「さいで。オーケー、オーケー。もう何も怖くない」


 俺は、ギョウカイ神の不思議パワーを許容した。抵抗は無駄だ、すこぶる疲れるぞ。


「じゃ、満場一致で決定ね。主人公と共同生活って初めてでちょっと楽しみよ」

「……フレイヤさんが満足したようで何よりです」


 お互い合意の上という建前の下、俺は上下に揺さぶられながら深呼吸した。

 平凡な高校生の俺は、見目麗しい女神様と同棲することになっちゃった!?

 これってすっごく、恋愛奇譚! これから先、どうなっちゃうのぉ~~?

 まるで、ラブコメみたいだなーと思いました。


 そういえば、ラブコメ主人公って何をやればいいのかしら?


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