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前進

 駅中のマスバーガーを横切ると、杜若さんと藤原を見かけた。

 俺とフレイヤは近くの席を取り、聞き耳を立てた。


「――そうだったんだ。あたし、杜若さんはてっきり他人に興味がない人だと思ってた」

「……(ふんふん)」


 シェイクをちゅーちゅー吸う藤原に、杜若さんはノートで筆談していた。

 柳眉を逆立て口を真一文字に結んでいたがおそらく、杜若さんは緊張している。

 流石、やからとして定評がある藤原。先方の鋭い眼光に物怖じした様子がない。


「ただの人見知り? すぐ緊張して顔が怖くなる? それ、ウケるし」


 藤原、クスクスと笑う。


「……っ!」

「あー、ごめんね。なんか、イメージと真逆だったからつい……杜若さん、氷の女王って評判じゃない? いつも、愚かな庶民を冷笑してるって感じ?」

「……(ふんふん)」


 俗世の有象無象が蠢く様子を俯瞰してる感じな。分かるってばよ。

 でも、本当はただの恥ずかしがり屋さんなの。だって、女の子だもん。

 うんうんと、俺がつい女性目線に共感していると。


「じゃあ、大原に弱みを握られてセクハラされてたわけじゃないのね」

「……(こくこく)」

「羞恥心を克服する特訓? ふーん、それは邪魔して悪かったわ」


 どうやら、杜若さんが俺の清廉潔白を訴えているようだ。

 おたく、ヒロインの鑑や! めっちゃ素敵やん。

 せや、ワイは杜若はんの悩みを克服するため心を鬼にしただけや!


 断じて、下心で臨んでおらへんのや!

 似非関西弁が出る程度に、興奮したさかい。ほな!


「でも、あいつは不純な動機であなたに近づいたに決まってる。いつも気持ち悪い顔で女子の胸とか太もも眺めてるし。気持ち悪い顔だし」


 藤原。二度言うの、やめろ。


「隆が邪な顔なのは元々だし、気にする必要ないわ。邪な顔はデフォよ」


 フレイヤ。二度言うの、やめろ。

 前後に敵しかいなかった。

 俺を悪者に仕立て上げたところで、世界は平和にならないぞ?

 とりあえず、自宅に帰ったらさわやか相談室に電話しようと思いました。


「杜若さん、大原にセクハラされたらすぐ言って。あたしがとっちめる」


 おいおい、藤原くん。話を聞いていなかったのかね?

 俺は誠実だよ、冗談は暴力性だけにしてくれたまえチミィ。


「……(こくこく)」


 杜若さんがギラリと目力を光らせた。


「そ。じゃあ困ってるなら、あたしも話聞くから。連絡先、交換しよ」

「……っ!」


 杜若さんが慌ててバッグからスマホを取り出した。別に、連絡先は逃げないぞ。

 友達が一人、追加された。解脱の域に達しそうなほど、ヒロインは放心状態。


「え、ラインの交換方法が分からない? ちょっと、貸して。あたしがやる」


 この前、俺も同じやり取りしたなあ。懐かしいぜ。

 よし。世話焼き上手な藤原さんにここは預けよう。

 俺はくるりと踵を返すや、マスバーガーを退店した。


「隆のセクハラ事案から、ヒロインの友達作りが進行したじゃない。ここまでは狙い通りかしら?」

「共通の敵? が、いるからな。助走はつけた。あとは、本人が必死に足を動かしてくれ」

「このまま藤原渚の助力でヒロインの問題が解決したら、今度はあなたがピンチだけどね」


 俺は、ラブコメ主人公の実績を積まなければならない。ゆえに、ヒロインのお悩みを解決するのである。


「……」


 フレイヤがひそひそ耳打ちする。いと、こそばゆし。


「誰が見ても、主人公の手柄だと主張できる形にしなさい。わたしも、そう望んでるわ」

「善処する。ほんと、手柄だけ頂いちゃいたいもんさ」


 杜若皐月は私が育てた!

 私ですっ、人見知り解消は全部私のおかげじゃなぁ~い。

 人の褌で相撲を取る。そんな厚顔無恥な人間でありたい。

 やっぱ、主人公って辛ぇーわ。


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