舞台袖
「ようやく、ヒロイン登場ね。これでラブコメの幕が上がるわ」
自宅に戻ると、フレイヤが開口一番出迎えた。
「疲れたー。普段やらないことは疲れるな」
「キャラじゃない?」
「せやな」
俺がソファに飛び込むと、フレイヤは頭上から講釈を垂れた。
「キャラじゃなくても、隆はラブコメ主人公を演じなければならない。ヒロインの悩みを解決しなさい。それがあなたの務めなのだから」
「へーい。友達作りに励みます。杜若さん、実はコミュ障でした系」
「ふーん? 友達作りねぇ? へえー」
「その思うところがある感は何だ?」
フレイヤが、怪訝な俺の顔を覗き込みながら。
「いい? 人の願いなんて、本人ほど分からないものよ。それが心の奥にあるほどね。ヒロインの些細な変化に気をつけなさい。これ、アドバイス」
「それができるなら、今頃俺はモテモテだよ」
そうかもねとフレイヤに笑われ、俺はやれやれと肩をすくめた。
徐に、考える。
約一週間で友達99人獲得はほぼ不可能。表面上のお付き合いはきっとノーカン。
友達の定義に難癖を付ければ、ワンチャンいけるが果たして……
つまるところ、どれだけ杜若皐月を満足させられるかサービスの問題であった。