授業中
時間を止めることができる。
急に何を言い出すのかと思うかも知れないが、それが自分の持っている特殊能力だ。何も、姿も大きさも味も違うそれぞれ別々であるはずの林檎をどちらも同様に1と1で表すことに嫌気が差したから、授業を聞くのを止めて妄想に耽ることにした訳では断じてない。ただ、単なる1つの事実としてそういうものがある、というだけの話だ。だがそんなことを突拍子もなく言われたら困惑するのもわかる。だから実際に見せてあげようと思う。因みに脳内ひとりごとなのに説明口調なのは、別に独りが怖い寂しがり屋だとかそういうのではなく、その方が考えが纏まりやすい性分だからである。変な揚げ足ばかり取っていると、近い将来もも肉揚げ続けの刑に処される可能性もあるから気を付けたまえよ。ところで「いったい誰と喋ってるんだ?」とたまに父に聞かれることがある。どうやら自分でも気付かぬうちに脳内ひとりごとの最初の2文字が形骸化してしまうことがあるようだ。しかし、今は授業中。ただでさえ頭のおかしなヤツだと思われがちなんだ。ゲキヤバさんなんてあだ名がつかないように細心の注意を払わなければいけない。さて、もう時間を止めてから随分と経った訳だが、いかがだろうか。勿論この間にも、鉛が植物の繊維に擦り付けられる音は聞こえているし、目の前の脳みそが電気信号を送って筋肉を収縮させたりもしている。あまつさえ、教室の前面中央上部という目立ちたがりスポットに居を構える3兄弟も、ずっとおいかけっこを続けていた。だが、それでも時間は止まっていたのだ。運動を止めることは出来ない。現象もだ。でも時は止まっていた。別に悪魔の証明とかそういう話がしたい訳ではない。そういう能力を持った人間がここにちゃんといるんだよと、ただそれが言いたかっただけだ。大丈夫。まだあの2文字は生きている。でも一番背の高い目立ちたがりはまだ目的地に着いていないようだ。なら、今度は別の話をしよう。
無人島に持っていくなら何を持っていく?
誰しもが一度は聞かれたことがある質問だろう。たとえなかったとしても考えたことくらいはあるだろう。皆がよく「水源」とか「さつまいも」とか言ってるあれだ。そんなよくある質問で色々な回答がある中でも、少し面白かったのが「友達」という答えだ。ありがちではあるが何が面白いと思ったかと言うと、その友達にも「何かを持ってくる権利」が付与されている可能性があるという点だ。そしてその友達も友達を、つまり自分にとっての「友達の友達」を持ってくるかもしれないという所だ。六次の隔たりというのを知っているだろうか。世界中の人間は知り合いの知り合いを辿っていくと6人目で繋がるという考えだ。だからもしかしたら、「友達の友達の友達の友達」くらいにはサバイバルオタクがいて、その友達はブッシュクラフトが大得意で、その友達の友達には自然地理学者がいるかもしれないのだ。でも、一番面白いのはそこじゃない。一番に面白いのは皆が皆友達を呼んだら、無限に人を呼べるという所だ。それこそ世界中の人口の殆ど(喋れる喋れないはいいじゃない)が一堂に会するかもしれないのだ。まさに地球人オフ会だ。でも、そうなると問題が出てくる。果たしてそんな人数が入れる無人島なんてこの地球上に存在するのだろうか。いや、きっとない。だからそうなったら無人島の神様はこう言うはずだ。「やっぱナシで」。そしてこれから先、定番の質問といえば「無人島に持っていくなら何を持っていく?」ではなく、代わりに「無人島に呼ばれる最後の人間になったら何を持っていく?」になるはずだ。因みにその質問を自分がされたら「自己肯定感」と答えるだろう。持ってないものを持っていけば、帰るときに得するだろうからね。あ、いやでも待って。今めっちゃ隣の席の子から見られてる。もしかしたら、もしかしたかも。えーと、じゃあ。「防音室」にします。
おしまい。