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実在する村の話をします。

作者: マーシャ

 これは僕が住んでいる村の話です。

 僕の村は山奥にあり、人口が多くないため、村の人はみんな親戚のように仲がいいです。田舎すぎて多少の不便はありますが、自分の家で作った野菜を食べたり、星空を見てから眠る生活は悪くありません。絵に描いたようなスローライフを送っています。

 僕は村のことを気に入っていますが、困ったこともあります。

 村の周辺の森には時々、人の形をしているけれど人ではない、タトと呼ばれる生き物が現れるそうです。タトはいつ出現するかわからないので、子どもの頃から注意するように教え込まれて来ました。

 タトと出会ったときのルールがあります。


①タトを見つけても自分から近寄らない。

②タトは人間の言葉で話しかけてくるが、返事をしてはいけない。

③タトに追いかけられても、村に戻ってきてはいけない。村の位置をタトに知らせてはいけない。


 これは村中のみんなが守っているルールです。

 タトは子どもが好きで、子どもを拐いに来ると脅されて育ちました。実際、タトに捕まって帰ってこなかった子どももいました。僕の友達のサトルくんです。サトルくんはタトから逃げきれず、捕まって、担がれて、どこかに連れていかれたそうです。そして戻ってくることはありませんでした。

 かくいう僕も、タトに会ったことがあります。

 僕が初めてタトと出会ったのは、6歳くらいのときです。親からは森に近付くなと言われていたのですが、ダメと言われるほど気になってしまうのが子どもの性というもの。まだ明るいし、すぐ戻れば大丈夫だと思って、僕は森の中に入りました。

 見たことがない木や川、知らない鳥がいて、僕は夢中になって森を散歩していました。

 その時、前方に何やら蠢く物を見つけました。熊にしては細身で、何やら服のような物を着ている生き物でした。

 目を凝らして見ると、それは人間のように見えました。僕はそれがタトだと気付きましたが、恐怖で足がすくんでしまい、逃げられなくなりました。

 タトはゆっくりと振り返り、僕と目が合った瞬間に勢いよく走って来ました。


「子どもだ!子どもがいるぞ!」


 タトは本当に言葉を話しました。

 僕はとにかく必死で逃げました。足が震えて何回も転び、手や膝からは血が流れていましたが、痛みは感じないほどの恐怖でした。

 タトは素早い動きで僕の後ろにピッタリとくっついて来ました。そして僕がもう一度転んだとき、タトは僕のことを抱き上げました。

 タトは顔中に玉のような汗を浮かべ、肩で呼吸をし、ギョロギョロとした目で僕のことをじっと見つめました。


「まさか本当に子どもがいるなんて。どこから来たんだ?」


 僕は唇を噛み、ルールに則って返事をしないようにしました。

 僕が返事をしなくても、タトは一方的に話続けました。


「なんだ、喋れないのか?お前、他に友達とかはいないのか?どこに住んでいるんだ?」


 次の瞬間、僕はタトの顎を思い切り蹴り上げました。タトはうめき声を上げて僕から手を離し、尻餅をつきました。素早く立ち上がった僕は、そのまま村へと一目散に逃げました。

 タトは僕に向かってずっと叫んでいました。


「助けてやる!助けてやるから戻ってこい!」


 途中で何度も振り返りましたが、幸い、タトは着いてきませんでした。

 村に戻った僕は、泣きながら母にタトと遭遇した話をしました。母は顔色がサッと変わり、たくさんの人に電話をかけ始めました。きっと、村中の人達にタトが出たことを知らせたのだと思います。

 この事件以来、僕が森に近づくことは二度とありませんでした。

 その後もタトはたまに現れ、村人を怯えさせました。僕が出会ったタトはおじさんの見た目をしていましたが、もっと若い見た目のタトや、たまに女性のタトも現れるようです。見た目はそれぞれでも、子どもを探しているという共通点があります。

 僕はもう15歳になるので、村に新しく来た子ども達にタトのことを教える立場になります。

 村に来た子ども達は、最初は泣いたり騒いだりしますが、すぐに村に馴れます。僕も来たばかりの頃は泣きわめき、会ったばかりの母を困らせました。

 村に馴れてきたら、タトの話を教えます。また怯えさせてしまうのは可哀想ですが、タトのことを知っておくのは大事なことです。

 しっかり教えておかないと、たまにタトに自ら捕まりに行ってしまう子どもが現れるのです。この前、タトに向かって「パパ!」と叫び、タトに抱きついた子がいました。もちろん、そのままタトに連れ拐われて行きました。タトは追いかける苦労がなく子どもを捕まえられたことに、涙を流して喜んでいました。

 子どもが減るのは村にとって大きな損失です。僕の父は子どもを連れてくるというとても大事な仕事を村から任されているのですが、最近の子どもは警戒心が強くて難しいとぼやいていました。

 すみません、子どもをどこから連れてくるかは僕も知らないですし、村ではそのことに触れるのはタブーなので詳しくは話せません。

 最後になりますが、タトは省略した呼び方で、正式名称はタトモノと言います。タトモノは村に入れてはならない、このルールは絶対です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 情報が遮断されるって怖いですね。 読ませていただきありがとうございました。
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