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XXの手紙

作者: あるかな



いつものメンバー、美香、彩夏、斉藤、篠原との待ち合わせだった。


「チエ、怪我したって」


「マジ? やっぱ例のアレ?」


美香みか彩夏さやかが立ち話をしているのが見える。


「ごめん、遅れた!」


舞は二人にペコリと頭を下げる。


「舞、遅い!」


彩夏からのいつもの小言だ。


「まま、舞の遅刻はいつものこと。それより、チエが怪我したって。聞いてる?」


美香は舞の遅刻よりも話したい事があるようだ。


「お、その話、詳しく!」


斉藤君と篠原君も待ち合わせに遅刻だ。だが二人ともそんなことは気にもせずに噂話にのっかってくる。


ここ最近、皆で集まると必ず出る話題がある。


“不幸の手紙”だ。


この手紙を受け取った人は、指定された日数内に指定された人数に、同じ内容の手紙を送らなければならない。


送らないとどうなるか? 不幸が訪れる、と言われている。いや正しくは、手紙の終わりに「——あなたに不吉なことが訪れます」と書かれているのだ。


だが、このネット全盛、郵便ポストですら探すのに苦労する世の中。こんな手紙を受け取って、誰が真面目に手紙を出すであろう?


先に名前が出たチエ。彼女は数日前『昨日さ、こんな手紙を受け取ったんだ。馬鹿馬鹿しい。今時、こんなイタズラに誰がのるっていうのよ』と、その手紙を周りに見せながら、馬鹿馬鹿しいとせせら笑ったのだ。


そしてチエは怪我をした。


この手紙が周りの知り合いや友人達に届きだしてから、既にひと月ほど経つ。ひょっとしたら、その前からなのかもしれない。ただ、怪我人が出始め、手紙の噂が出始めたのがその頃だった。


偶然に決まっている。

皆、最初はそう思った。

最近怪我をする友人が多いな。

最近変わった手紙が送られてくるらしい。

どうもその手紙を無視すると怪我をするようだ。


そんな噂話が此処彼処から聞こえてきたのが、このひと月ほど。

始めはイタズラ、悪趣味、と誰も気に留めていなかった。

だが、怪我人が増えるにつれ、皆の表情も態度も変わってきた。


表向きは相変わらず“質の悪いイタズラ”で困ったものだ、という体の会話。

ただ、その表情はいつしか“私にはその手紙がこないように”という願いが、見え隠れするものになっていた。


美香と彩夏、それに斉藤君と篠原君。この4人の会話もまさにそれである。


「このイタズラ手紙、いつになったら収まるのかしら?」

「手紙、出しちゃうヤツがいるからこんなことが続くんだよぉ」

「え、それって手紙の内容、信じてない?」

「オレ、信じてないけど気分よくないから、受け取りたくないなぁ」

「でも、どうやって送る相手を決めているんだ? 住所なんてオレたちだってお互いに知らないじゃん」


——住所なんて必要ないのに。


「ちょっと、舞。黙っているけど、あんたのクラス。確か3人ぐらい被害にあっていたよね?」


美香がいきなり話を振ってきた。斉藤君が気にしている「どうやって相手を決めているか」って話題はいいのかな?


「んっと。うん、4人かな。今日も一人怪我で欠席。少し前に手紙を受け取ったって、クラスで話していたから。階段を踏み外したみたいで、どうも骨いっちゃったらしい」

今朝、ホームルームで担任から聞いた話と、クラスの噂話から拾った情報を皆に伝える。


「げげぇ。舞のクラス、被害者多くね?」

篠原君のクラスは確か一人だけだったかな。


「そうよね、舞のクラス、多いよね」

「たまたまだろう。手紙を送りやすい相手が舞のクラスに多かった、ってだけだろ」


美香と斉藤君は、これまでの被害者と思しき人数を数え上げながら、どこのクラスが多い、いやクラスでなくて地域じゃないか、などと盛り上がっている。


「ねぇ、もうこの話題やめない? 今日は皆で新しく出来たかき氷屋に行こう! って決めていたでしょ?」

彩夏が皆に提案する。皆もそろそろこの話題に飽きていたのか、素直に彩夏の言葉に従う。


「うん、そうだね」

美香が自分のカバンを手に取った。


「じゃ、行こっか」

斉藤君、篠原君も自分のカバンを手に取る。


カバンの持ち手にかかったストラップ、少し開いたファスナー。

見つけやすい、入れやすい。


「......うん」

舞は自分のカバンを手にしながら、微笑んだ。



——皆、なんで嫌がるのかな。





——

おめでとうございます!

この手紙を受け取ったあなたは“わたし”から幸運のおすそ分けをもらうことができます。


幸運をもらうためには、この手紙と同じ内容のものを5人、5日以内に出してください。

たったそれだけで、あなたに幸運が訪れるのです!


P.S.

あなたでこの手紙が止まってしまった場合、あなたに不吉なことが訪れます。


——


ひと月前、この手紙を受け取った。カバンの中にいつの間にか入っていた。


“不幸の手紙”の噂は耳にしていた。実際の文面を当時は見たことがなかったので、受け取ったらどうしようかと内心怯えていた。

そして、実際受け取って内容を知ると、拍子抜けした。ぜんぜん“不幸”じゃない、“幸運”をもたらしてくれると書いてある。不幸になるのは、手紙を『止めちゃった』時と書いてあるではないか。


もちろん最初から信じていたわけではない。でも、良い事があるのかもしれないなら、試してみてもいいではないか。

だから私は手紙を書いた。学校ですれ違う人のカバンや持ち物に、こっそりと忍ばせた。


するとどうだろう、ちゃんと良い事があった!

手紙を1通忍ばせるごとに一つ。探していたイヤリングが見つかった、諦めていた懸賞に当たった......。


スゴイ!


手紙を1通、良い事一つ。

気が付けば5通なんてあっという間。何か叶えたい事があるとき、願掛け気分で1通。100%ではないけれど、なにかしらいい結果が返ってくる。


こんな素敵な手紙。どうして皆、嫌がるのかな?

皆にもっと知ってもらいたい。


だから、今日も4通。

今、隣を歩いている美香、彩夏、斉藤君、篠原君。

皆のカバンに、そっと忍ばせておいたんだ。


昔流行った「チェーンメール」。あれって本当に誰が始めるんでしょうね?

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