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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第十話 星の鼓動
99/130

世界会議

 予定より、短く切りあげました。

  

 ローテ・ゲーテ王城、外務宮の一室に設けられた会議場に、二十ヶ国の国王は放り込まれていた。

 どの顔も、機嫌が悪い。

 それもそのはずで、ほとんど例外なく問答無用で連行された挙句、面子が揃わないことを理由にしばらく放置されているのだ。


「だいたい、会議はもう少し先の話だろう。こっちは来年度の予算審議の真っ最中だぞ」

「訴えてやる。訴えてやるからな。これはあからさまな拉致だ。国家治安保障連合に名指しで訴えて損害賠償、人権侵害賠償、不法入国賠償を払わせてやる」

「まだ寝巻きのままなのに……」

「しかしいったいどんな技を使えば一瞬でこんな遠くへ移動できるのかねぇ」

「いますぐ国へ返せ!」

 

 喧々囂々、怒気は高まり、各国の言語が入り乱れ、唾が飛ぶ。

 そこへ二十一カ国中第一位の国ルクトールのエルジュ王が現れた。

 顎を持ち上げ、ゆっくり、泰然とした足運び。

 漆黒の衣装に身を包み、無駄のない所作で指定の席に就く。

 無言の威圧。

 その面に表情は皆無で、双眸は冷ややかだ。

 会議場は、しん、とした。

 呼吸すら音を立てぬよう、ひそめられた。

 玉座に就くため、親族縁者すべてを虐殺した男。

 最強の赤の魔法使いを常に傍に置き、警護にあたらせているという。

 いまその姿は見当たらないが、おそらく近くにいて、見張っているのだろう。


「これで揃いましたね。皆様、着席願います」


 リウォード王、並びにその嫡子ディックランゲア王子がようやく姿を見せた。

 怒りと不満の集中砲火が浴びせられる寸前で、リウォード王が制止を示す手を上げる。


「苦情はのちほど。まずは話を聞いていただきたい。騒がれる方は問答無用で黙ってもらう。必要とあらば、縄で縛って床に転がす。なにぶん、時間が惜しいのでね。邪魔をしないで、おとなしく会議に参加してもらいたい」

 

 ディックランゲアが会議場の中央の壇上に進む。

 傍に、およそ場違いな身なりの娘を連れ添っている。

 薄茶の髪に薄茶の瞳、薄着で裸足という軽装はローテ・ゲーテの民ではないことを言外に告げていた。


「紹介します。二十一公主がひとり、オルディハ殿です」

「はじめまして」

 

 オルディハは一礼し、場を和ませるよう、にこっと微笑した。


「本日お集まりいただいたのは、他でもありません。皆様が“滅びの(ゼクトラーレ)”と“双頭の巨人(ゾルベット・トール)”の戦いと称する、天変地異の件についてです」

 

 ざわめき。

 オルディハは続けた。


「大災厄は起きます。まもなくです。早ければ明日にでも」

「急すぎる!」と、誰かが喚いた。

「事実です。ご覧ください」

 

 オルディハは手元のプレートを操作して、空中に全方位スクリーンを出現させた。

 そこに投影されたのは大陸の立体地形図で、赤く点滅している個所と、青く点滅している個所、黄色く点滅している個所で覆われていた。

 未知の叡智、技術力をまのあたりにして戸惑いの声が上がる。

 だがそれも、オルディハが次の言を次ぐことでうやむやにされた。


「赤い点が地盤沈下、青い点が津波被害、黄色い点が火山噴火を示します」

「ほぼ全域じゃないか!」

「我々はどうなるのだ」

「本当なのか」

 

 どよめきを「静粛に」とオルディハが断つ。


「もう少し説明しますと、赤い点がこの一点を起点に“道”のように枝分かれしているのがおわかりになりますか。二十一の道、二十一カ国に続く道です。私たちは“星脈”と呼んでいます。この“道”の破裂が引き金となり、大地震、大陥没、大雨、洪水、噴火、あらゆる天災が発生します。そして注目すべくは、この“道”の上に各国の首都があることです」

 

 参加者たちははっとして注目した。

 真実ならば、このままでは、崩壊は自分たちの足元からはじまる。


「なんとかならんのかね。その、“道”とやらの破裂を防ぐことはできないのか」


 オルディハは無為に手をひろげた。


「九千年前、我々は既に一度それを試みました。星の爆発を抑え、ひとの未来を残したのです。のちに、あなたがたは我々を二十一公主と呼ばれた。もっとも、建国時に生き残っていたひとびとの名と混同されてはおりますし、当時はそんな大層な呼び名などありませんでしたけど」

 

 二十一公主――。

 その伝承の中の存在が、一際現実味を帯びた。


「確かに……あなたがたの存在は史実に認められるもので、我らも探し求めるところではあった。しかし、公主の復活は滅亡の予兆と言う伝承まで真実だとは……」

「我々はどうなる。助かる策はあるのか」

 

 あわや騒然となりかけた場は、鋭く重い一喝でおさめられる。


「見苦しい」

 

 ルクトールのエルジュ王が殺気すら迸らせて、睨みつける。

 逆らえば命を断たれるという本能的な危機を感じて、全員がまた着席する。

 オルディハは切羽詰まり混乱した眼で、無言で問い質す王たちを眺めて、頷いた。


「陸海空、とにかく散らばって逃げることです。“道”より少しでも遠くへ。もう準備されている国もあるようですが、海へは船を出してください。陸へは小隊を組んで赤い点のない地域へ誘導してください。空へは、“円船”を用意しました。人選は任せますので、乗船させてください。大事なのは、水と食料。なによりも、一刻も早い避難です」

「“円船”とはなんだね」

「空飛ぶ船です。ご覧にいれましょう。外を見てください――」



 オルディハ奮闘中。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

 

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