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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第十話 星の鼓動
97/130

結束

 鎮魂祭の翌朝です。

 リアリが眼を覚ましたとき、傍にいたのはアンビヴァレントの仲間たちだった。

 ベスティア、パドゥーシカ、ナーシル、グエン、それにシュラーギンスワントとライラとマジュヌーンが枕元にべったりと張りついている。


「皆、どうしたの」

「お嬢様が泣いていらしたので、心配なんです」と、パドゥーシカ。

「泣いて……?」

 

 ぼんやりと、ここはどこだろうと考える。

 天井の様子で、王城の私室だとわかった。


「私、いつ帰ったの?」

「今朝早く。ラザ様が運ばれてきました」と、ベスティア。

「そう。ラザ、どこに行くか、なにか言ってた?」

「いや。けど、ずいぶん長い間お嬢の寝顔、眺めていたぜ」と、グエン。

「これを残していかれました」

 

 ナーシルが躊躇気味に細い布包みを両手で差し出してきたが、リアリは受け取らなかった。


「短剣ね」

 

 ローテ・ゲーテでは、“縁を斬る”証しである。


「捨てて」

「はい」

 

 起き上がろうとして、眩暈にやられる。

 身体の節々も悲鳴をあげている。

 痣だらけだ。

 どこもかしこも、ラザがつけた痕が残っているはずだ。

 記憶にある限り、あんなに乱暴に求められたことはない。

 本当に死ぬかと思ったくらい、ゆさぶられ、何度も失神した。

 少し思い出すだけで、血が滾るような情事だった。


「……別れを切り出しながら、ひとをあんなに好き放題して、私が退くとでも思っているのかしら」

 

 全身で愛していると叫んでいた。

 追い詰められているのはこっちなのに、まるで立場が逆のように、切羽詰まった眼で無言の攻めを繰り返した。


「ラザがなにも言わないなら、それはそれでいいわ。私だってなにも言ってないんだもの、お互いさまよ。私に非があるのは確かだけど、でも、だからって諦めてなんてやるものですか。くそくらえよ」

 

 ベスティアは着替え一式を差し出した。


「わ、わたしたちになにかできることありますか」

 

 グエンが横入る。


「おう。なにがあったか知らねぇけど、喧嘩の仲裁なら俺ァ本職だぜ」

 

 ナーシルが咳払いをして、語調鋭く告げる。


「ラザ様の行先はわかりませんが、レニアスの居所はおさえてあります。奴ならラザ様の居所も知っているかと思います」

 

 次にパドゥーシカがグエンを押し退けて訴える。


「あの、お嬢様。このようなときになんですが、言わせてくださいませ」

「なに」

「わたくし、お食事は家族全員揃ってしたいです。その時間が一番好きなんです。最近は皆様ばらばらで……だから、また前のように一緒に食卓を囲みたいんです。そのためだったら、なんでもします。どうぞおっしゃってください」

「店をたたむわ」

 

 固唾を呑む気配。

 だが、リアリはかまわず続けた。


「“方舟”に行く。逃げる準備をして。大切なものはなにも残さないで、要らないものはひとつも持たないで、なにも訊かないで、いますぐはじめてちょうだい」

「……同じようなことを、レベッカも言っておりました。乗船を決して断るな、と念を押されたんです」と、ナーシル。

「ま、残念だが、生きていればまた次があるだろうよ」と、グエン。

「いままで結構色んなことがありましたけど、楽しみましたわ」と、パドゥーシカ。

「寂しくなりますね」と、ベスティア。

 

 全員が意気消沈したところへ、珍しくシュラーギンスワントが口をひらいた。


「だがひとりじゃない。仲間がいる。俺たちが力を合わせれば、たいていのことはどうにかできるし、なんだってやれる。どこへだっていけるだろう。違うか?」

 

 彼の言葉に呼応するように、砂漠虎二頭が吠えた。

 吹き出し笑い。

 皆の顔がほころんでいく。


「確かに、ひとりじゃねぇな」

 

 言って、グエンが横のナーシルをどつく。


「大切なものを残すなだとよ。お嬢のお達しだ。とっととレベッカ捜して連れて来い」


 パドゥーシカとベスティアが賛同を唱える。


「ありがとうございます。そうさせてもらいます。あとで合流しますから」


 背中を押されて、ナーシルは即行踵を返し、駆けだした。


「私も行くわ。悪いけど、店の方は頼むわね。片づけが済み次第移動するから、とにかく急いでほしいの。全部終わったら手を貸して。やることが山積みなのよ」

 

 ベスティアは腕捲りをして、パドゥーシカは髪を括りあげ、グエンは上着を脱いで、リアリの要請に応える姿勢を示した。

 この瞬間、全員が臨戦態勢に入った。

 

「任せろ」


 平日だけどお休みなので、連続投稿行きます。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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