結束
鎮魂祭の翌朝です。
リアリが眼を覚ましたとき、傍にいたのはアンビヴァレントの仲間たちだった。
ベスティア、パドゥーシカ、ナーシル、グエン、それにシュラーギンスワントとライラとマジュヌーンが枕元にべったりと張りついている。
「皆、どうしたの」
「お嬢様が泣いていらしたので、心配なんです」と、パドゥーシカ。
「泣いて……?」
ぼんやりと、ここはどこだろうと考える。
天井の様子で、王城の私室だとわかった。
「私、いつ帰ったの?」
「今朝早く。ラザ様が運ばれてきました」と、ベスティア。
「そう。ラザ、どこに行くか、なにか言ってた?」
「いや。けど、ずいぶん長い間お嬢の寝顔、眺めていたぜ」と、グエン。
「これを残していかれました」
ナーシルが躊躇気味に細い布包みを両手で差し出してきたが、リアリは受け取らなかった。
「短剣ね」
ローテ・ゲーテでは、“縁を斬る”証しである。
「捨てて」
「はい」
起き上がろうとして、眩暈にやられる。
身体の節々も悲鳴をあげている。
痣だらけだ。
どこもかしこも、ラザがつけた痕が残っているはずだ。
記憶にある限り、あんなに乱暴に求められたことはない。
本当に死ぬかと思ったくらい、ゆさぶられ、何度も失神した。
少し思い出すだけで、血が滾るような情事だった。
「……別れを切り出しながら、ひとをあんなに好き放題して、私が退くとでも思っているのかしら」
全身で愛していると叫んでいた。
追い詰められているのはこっちなのに、まるで立場が逆のように、切羽詰まった眼で無言の攻めを繰り返した。
「ラザがなにも言わないなら、それはそれでいいわ。私だってなにも言ってないんだもの、お互いさまよ。私に非があるのは確かだけど、でも、だからって諦めてなんてやるものですか。くそくらえよ」
ベスティアは着替え一式を差し出した。
「わ、わたしたちになにかできることありますか」
グエンが横入る。
「おう。なにがあったか知らねぇけど、喧嘩の仲裁なら俺ァ本職だぜ」
ナーシルが咳払いをして、語調鋭く告げる。
「ラザ様の行先はわかりませんが、レニアスの居所はおさえてあります。奴ならラザ様の居所も知っているかと思います」
次にパドゥーシカがグエンを押し退けて訴える。
「あの、お嬢様。このようなときになんですが、言わせてくださいませ」
「なに」
「わたくし、お食事は家族全員揃ってしたいです。その時間が一番好きなんです。最近は皆様ばらばらで……だから、また前のように一緒に食卓を囲みたいんです。そのためだったら、なんでもします。どうぞおっしゃってください」
「店をたたむわ」
固唾を呑む気配。
だが、リアリはかまわず続けた。
「“方舟”に行く。逃げる準備をして。大切なものはなにも残さないで、要らないものはひとつも持たないで、なにも訊かないで、いますぐはじめてちょうだい」
「……同じようなことを、レベッカも言っておりました。乗船を決して断るな、と念を押されたんです」と、ナーシル。
「ま、残念だが、生きていればまた次があるだろうよ」と、グエン。
「いままで結構色んなことがありましたけど、楽しみましたわ」と、パドゥーシカ。
「寂しくなりますね」と、ベスティア。
全員が意気消沈したところへ、珍しくシュラーギンスワントが口をひらいた。
「だがひとりじゃない。仲間がいる。俺たちが力を合わせれば、たいていのことはどうにかできるし、なんだってやれる。どこへだっていけるだろう。違うか?」
彼の言葉に呼応するように、砂漠虎二頭が吠えた。
吹き出し笑い。
皆の顔がほころんでいく。
「確かに、ひとりじゃねぇな」
言って、グエンが横のナーシルをどつく。
「大切なものを残すなだとよ。お嬢のお達しだ。とっととレベッカ捜して連れて来い」
パドゥーシカとベスティアが賛同を唱える。
「ありがとうございます。そうさせてもらいます。あとで合流しますから」
背中を押されて、ナーシルは即行踵を返し、駆けだした。
「私も行くわ。悪いけど、店の方は頼むわね。片づけが済み次第移動するから、とにかく急いでほしいの。全部終わったら手を貸して。やることが山積みなのよ」
ベスティアは腕捲りをして、パドゥーシカは髪を括りあげ、グエンは上着を脱いで、リアリの要請に応える姿勢を示した。
この瞬間、全員が臨戦態勢に入った。
「任せろ」
平日だけどお休みなので、連続投稿行きます。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。