鎮魂祭
ナーシルとレベッカです。
特設舞台の壇上に、聖白の聖布で織られた、華麗な衣装を身につけたラザ新聖徒殿主長がゆるゆると上ると、わあっと歓声が起こった。
同時入場した聖徒による竪琴と笛の楽隊が、空へと伸びるような細い旋律を奏でる。
ラザは聖句を切って聖歌を歌いながら、静かに舞いはじめた。
奉納の舞――双頭の巨人と二十一公主が滅びの竜を退治した伝承になぞらえて、その偉業と高潔なる魂を称え、鎮魂を祈るための舞踊である。
二十一章から成る歌曲を、一日ずつ消化していくのが本来だが、このたびは一日ですべて歌いきり、舞いきるという、強引な進行だった。
舞手は十五人の副主長、及び、聖徒第一位の上位五名。
ラザの美しく軽やかな舞が終わると、俄かに衆人は活気づいた。
理由はともかく、一日限りの鎮魂祭を楽しもうと、手に手を取り、歌い、称え、踊り、祈り、食べ、飲み、騒いだ。
多くの祭り同様、賑やかに盛り上がる。
明日の夜明けまでは無礼講。
スライセンは喧騒にみちた。
ナーシル・グラトリエーレは王城に居残っていたレベッカ・オルシーニをようやく捜しあてた。
監視の塔のバルコニーから、浅く身を乗り出し、太陽と風を浴びている。
「……どうしてこんなところにいるんです」
レベッカは少し驚いたように眼をぱちぱちさせたが、横から差し出された杯を受け取る。
「ここが一番、よく見えるからね」
「なにか面白いものでも?」
「ひとさ」
ナーシルはレベッカと自分の杯に酒を注ぎ、二人は二十一公主と主神ナーランダーの名の下に献杯した。
「ひとがたくさん集まっているのを見るのが、好きなんだ」
「そうですか」
「あんたは、なぜここに?」
「愚問ですね。あなたの傍にいたいからです」
レベッカはふ、と笑った。
おかわりを要求する。
「とんだ物好きだね」
「なんとでも言ってください」
「ナーシル」
「なんですか」
「……頼みをひとつ、きいてくれるかい」
「なんでも」
レベッカは頷いた。
普段まともに眼を合わすことのない二人の視線がかち合う。
「近々、船に乗ることを勧められると思う。そのとき、決して断らないでおくれ。必ず全員を連れていくんだ。いいね」
「は? ええと、船、ですか? 全員?」
「ああ。アンビヴァレントの他の連中も、あんたが大事だと思う人間は残らずだ」
「よくわからないけど、まあいいです。ただ条件があります。あなたが一番に乗船してください。私はあなたの傍にいるためなら、どこにでもいきますよ」
レベッカの返答には間があった。
だがすぐに微苦笑して、何度も小さく頷く。
「それは――ああ、そうだね。よし、わかったよ。そうしよう。ところで、真昼間だけど、私は少し疲れているんだ。ひと眠りしてくるけど、一緒にいくかい……?」
鎮魂祭・一です。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。