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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第十話 星の鼓動
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鎮魂祭

 ナーシルとレベッカです。

 特設舞台の壇上に、聖白の聖布で織られた、華麗な衣装を身につけたラザ新聖徒殿主長がゆるゆると上ると、わあっと歓声が起こった。

 同時入場した聖徒による竪琴と笛の楽隊が、空へと伸びるような細い旋律を奏でる。

 ラザは聖句を切って聖歌を歌いながら、静かに舞いはじめた。

 奉納の舞――双頭の巨人(ゾルベット・トール)と二十一公主が滅びの(ゼクトラーレ)を退治した伝承になぞらえて、その偉業と高潔なる魂を称え、鎮魂を祈るための舞踊である。

 二十一章から成る歌曲を、一日ずつ消化していくのが本来だが、このたびは一日ですべて歌いきり、舞いきるという、強引な進行だった。

 舞手は十五人の副主長、及び、聖徒第一位の上位五名。

 ラザの美しく軽やかな舞が終わると、俄かに衆人は活気づいた。

 理由はともかく、一日限りの鎮魂祭を楽しもうと、手に手を取り、歌い、称え、踊り、祈り、食べ、飲み、騒いだ。

 多くの祭り同様、賑やかに盛り上がる。

 明日の夜明けまでは無礼講。

 スライセンは喧騒にみちた。


 ナーシル・グラトリエーレは王城に居残っていたレベッカ・オルシーニをようやく捜しあてた。

 監視の塔のバルコニーから、浅く身を乗り出し、太陽と風を浴びている。


「……どうしてこんなところにいるんです」

 

 レベッカは少し驚いたように眼をぱちぱちさせたが、横から差し出された杯を受け取る。


「ここが一番、よく見えるからね」

「なにか面白いものでも?」

「ひとさ」

 

 ナーシルはレベッカと自分の杯に酒を注ぎ、二人は二十一公主と主神ナーランダーの名の下に献杯した。


「ひとがたくさん集まっているのを見るのが、好きなんだ」

「そうですか」

「あんたは、なぜここに?」

「愚問ですね。あなたの傍にいたいからです」

 

 レベッカはふ、と笑った。

 おかわりを要求する。


「とんだ物好きだね」

「なんとでも言ってください」

「ナーシル」

「なんですか」

「……頼みをひとつ、きいてくれるかい」

「なんでも」

 

 レベッカは頷いた。

 普段まともに眼を合わすことのない二人の視線がかち合う。


「近々、船に乗ることを勧められると思う。そのとき、決して断らないでおくれ。必ず全員を連れていくんだ。いいね」

「は? ええと、船、ですか? 全員?」

「ああ。アンビヴァレントの他の連中も、あんたが大事だと思う人間は残らずだ」

「よくわからないけど、まあいいです。ただ条件があります。あなたが一番に乗船してください。私はあなたの傍にいるためなら、どこにでもいきますよ」

 

 レベッカの返答には間があった。

 だがすぐに微苦笑して、何度も小さく頷く。


「それは――ああ、そうだね。よし、わかったよ。そうしよう。ところで、真昼間だけど、私は少し疲れているんだ。ひと眠りしてくるけど、一緒にいくかい……?」


 鎮魂祭・一です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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