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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第九話 王家の秘密
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それでもいい

 オルディハとエルジュ=オランジェです。

 真実の書がエルジュの手に渡りました。

 オルディハが空中庭園に着いたとき、ちょうどロキスとすれ違った。

 ロキスは片手を上げて去り、そのままオルディハは慰霊碑前まで足を運んだ。

 案の定、そこには求める人物がいて、黒い台座つきのケースに収まった“超越者”二十二名の肖像画にじっと見入っていた。


「オランジェ」

 

 前世の名を呼ばれ、エルジュは眼を上げた。


「なにしているの、こんなところで」

「ロキスから“真実の書”なるものを受け取った」

「なにそれ。どこにあったの?」

「博士のおられたカプセルの中に。当時の記録文書だそうだ」

「読むの?」

「いや」

「リュカオーンに渡すのね」

「最期まで生き残ったのも、今回博士を覚醒させたのも、彼女だ。その資格がある」

「でも喜ばないかもしれないわ。まずあなたが読んでみて、問題なかったら渡せばいいんじゃない?」

「問題?」

「“盾”のことはなにか訊いてる?」

「“盾”?」

「説明するわ。場所を移しましょうよ。私の部屋にいかない? ハルモニア特産の火酒があるの。強いけど、おいしいわよ」


 オルディハは動こうとしないエルジュの腕に手を触れた。

 ちら、と肖像画のリュカオーンに眼を留め、悄然と俯く。


「……今夜一晩だけでいいの。傍にいさせて。あなたのこと、ずっと……」


 好きなの、いまも。

 告げてもなお、エルジュは沈黙を崩さず、オルディハはとうとういたたまれなくなった。


「やっぱり、リュカオーンじゃなきゃ、いや? わ、私のことは、嫌い?」

「嫌ってなどいない。だが、私の心はおまえにない。それでもいいのか」

「いいわ」

「あとで辛くなるぞ。私のように」

「いいの。辛くなりたい。気持ちを押し殺したまま、後悔なんてしたくない。そんなの、一度きりで十分よ」

「持っていろ」


 エルジュはロキスから預かった文書をオルディハに押しやり、身を屈めて、オルディハを腕に抱きあげた。


「きゃあ」

「部屋はどこだ」

「おろして! 私、見た目より重いのよ!」

「喧しい。女はこのぐらい重くてちょうどよかろう。丈夫な赤ん坊が産めそうだ」

「あ、赤ん坊って――」

「部屋は」

 

 凄まれて、オルディハは暴れるのをやめた。

 エルジュの胸は、温かかった。

 

 

 翌朝、日の出と共にローテ・ゲーテ全土に一斉に青い旗が翻った。

 そしてかかる大号令。

 いま、聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)の中央門がひらかれる――。


 実は書の中身を歴然と明らかにする予定がないという。

 文字の羅列、いやかな、と思いまして。削りました。

 次話、新章です。ラザの出番です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

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