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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第九話 王家の秘密
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キー・プレート

 次話、いよいよ秘密の間が開きます。

「そなたにその資格があると、申すのか」

「はい」


 リウォード王の眼が威圧を放ち光る。


「ジリエスター公の再来と、認めるのか」

 

 リアリは間を空けず訂正した。


「正しくは、ジリエスター公の再来ではありません。強いて言うならば、真の創世神話に携わる者、というのが本来の立ち位置です」

「真の創世神話、か」

「滅びのゼクト・ラーレと双頭の巨人ゾルベット・トールの戦いとは、寓話になぞらえたもの、ということはご存じでしょう。

 その昔、人類を襲った絶滅の危機――そのとき、その場に居合わせたのが私たちです。

 ジリエスター公をはじめとした各国の建国の祖は、あくまでも、その後の時代を担った人物なので、一緒にされるのはどうも違和感があって……まあ、細かい話はいいですね。いずれにしても、私には資格があります」

 

 リウォード王の三白眼が眇められる。

 おもむろに席を立ち、檀上から降りて来て、リアリの手を取り起立させた。


「そなたが真の創世神話を語ることができるならば、本物だ。このときを待っていた。我らローテ・ゲーテ王家が古き血の楔から解き放たれ、自由の身となることを」

 

 ダァナ王妃がやってきて、両手に持っていた赤い小箱をリウォード王へと差し出す。これを受け取って、言った。


「参ろう」

「“秘密の間”へ赴くのに、王と公主だけではなくてよいのですか?」

 

 キースルイの懸念を、リウォード王は一蹴した。


「九千年の長き時――ジリエスター公との誓約を守るため、何万という聖徒が我が王家を支えてくれた。“秘密の間”を守ってこられたのも、そちたちの功績があればこそだ。立ち会うことになんの不足があろう、聖徒殿陽炎の総統よ」

「しかし」

「自分の立場を問題視するならば、娘が心配だからついていったと思えばよかろう。なあリーハルト」

「無論です。親が娘を心配するのは道理です。心配で心配で心配で、とても眼など離せません。是が非にでもついていかなければ……」


 ぶつぶつ呟くリーハルトを無視して、リウォード王は玉座の真後ろ、壁にかかるタペストリーを吊るす紐を引いて、巻き上げた。

 地下へ続く階段が現れる。


「そなたは残れ」


 王妃ダァナは頷いた。

 気丈な面がすこし不安そうに陰っている。

 地下階段はリウォード王がはじめの一段を踏むと、明るくなった。


「ほぉ」


 と、リーハルトが感心したように唸り、訊ねる。


「どういう仕組みです?」

「古代魔法だ」

 

 自分でも納得のいっていない口調で述べて、リウォード王は首を竦めた。

 リアリは黙っていたが、体温探知機が稼働したのだとわかった。

 同時に空調設備も正常に働いている。

 石竜(ゼ・フロー)を保護していた件といい、この王城の建設には能力者が関係している。

 それは間違いない。

 けれど、いったいなにを隠しているのだろう。

 “真実の書”とは、なんなのだ。

 

 階段は長く、地下へ、地下へと伸びていた。

 途中踊り場があり、何度か曲がったものの、難なく最下層に到着した。

 だが行き止まりで、扉どころか、なにもない。

 そこに待っていたのは、古き知人と顔なじみの二人。

 ふてぶてしさの拭えない琥珀の瞳、癖のない長い金髪、まったく衰えたところのない容貌は時の流れを感じさせない。  

 覚醒前、何度か顔を合わせたときも思ったことだが、政務宮の藍色の制服制帽がしっくりと似合っている。


「久しぶりね、アレクセイ・ヴィトラ」

「遅いですよ、リュカオーン」


 開口一番、アレクセイはがみがみと文句を言った。


「オランジェやエドゥアルドがついていながらなにをぐずぐずしているんです。とっとと来なさい。私は忙しいんです。色々やらなければならないことがあるんです。私の王子に頼まれた仕事が――あっ、王子!」

「なぜおまえがここにいる」


 ディックランゲアがいかにも不審そうに糾弾するが、アレクセイは犬のようにまとわりついて、はしゃぎ続け、まるで聞く耳を持っていない。

 リアリは胡散臭いものを見る目つきでアレクセイを眺め、ついで、もうひとりを見た。

 皮肉を込めて、礼儀正しくお辞儀する。


「ご無沙汰しております、センセイ」

「もう『センセイ』はよしてくれないか」

「そうね。じゃ、聞かせてほしいわ。あんたいったい誰なの」

「ロキス・ローヴェル。いや、ジリエスター・ローヴェルの息子、と言った方がわかりやすいかな」

 

 リアリは仰天した。


「えっ。じゃあまさか、ジリエスター博士の子供? 確かに博士には生まれたばかりの息子がいたけど――まだ生きていたの?」

「ひどい言い草だな」

「だってちょっと信じられない話よ? あれからどれだけ経ったと思っているの。ざっと――ええと――」

「九千年」と、シュラーギンスワント。

「そんなに?」

「ただ生きながらえていたわけじゃない。父が、あなたがたをどうしても助けたいと言うから、遺伝子に延命処置をして、あなたがたが甦るのをずっと待っていた。俺だけじゃない、そこにいるアレクセイも、ヒューライアーも。他にもまだ、な」

「……なぜ……?」

「未来に希望を、託すのだろう?」

 

 ロキスの眼が優しく和む。

 掲げた手に閃く、一枚のキー・プレート。


「扉を開けろよ。俺たちが守ってきたものを、受け取ってくれ」


 登場人物が交錯してきました。

 どうぞ、お付き合いくださいませ。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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