謁見
リウォード王には、モデルがいます。この物語で唯一。私が日本一かっこいいと思っている俳優です。ふははははは(なぜか高笑い)。
王の間は金色に輝いていた。
壁を覆う金のタペストリー群、金の豪奢な絨毯、天蓋付きの玉座も金箔。
そしてそこに坐す王も。
リアリは畏まって跪いた。右隣にはリーハルト、左隣にはディックランゲア、後ろにキースルイ、シュラーギンスワント、ライラとマジュヌーン。
エルジュだけは入り口横の壁に凭れかかって腕など組んでいる。
「面を上げよ」
王城で寝起きするようになってしばらく経つが、王に拝謁するのはこれがはじめてだった。
ローテ・ゲーテ国、第三六四代リウォード王。
孔雀の羽根にみる深い緑のカフタンに黒のヒザームを締め、黒いブーツを履き、黒いターバンを巻いている。
肩からゆるく羽織った金色のマント、首から下げた金の装飾品、耳には身分の示す意匠を凝らした金環、指にはトルコ石と金細工の指輪。
太りすぎず、痩せすぎず、体躯は堂々たるもので、顔は、ぐっとくるほど色気があった。
三白眼で、ややギョロ眼。
ごつごつした輪郭と、陽に焼けた肌、無骨な鼻と厳しい口元、顎にまばらに生えた髭は濃く、全体的に粗野な感じが男らしい。
恰好いい。
リアリは素直に惚れ惚れした。
砂漠が似合いそうだ、と思った。
「シェラチェリーア殿に生き写しだな」
「美しいでしょう。きれいでしょう。かわいいでしょう。私の娘ですよ!」
「わかった、わかった。しかし、その若さでこれほどの美貌とは、眼の毒だ。求婚者が掃いて捨てるほど続出しそうだな」
リウォード王は無造作にマントを払い、襞を脇へ流しながら、玉座の肘掛けに肘をおき、折った手首に頬杖をついた。
眼力の強い王家の碧青がリアリを射抜く。その姿勢は他愛のないものなのに、痺れるくらい絵になった。
そこへ、弾けるような笑声が転がった。
「世にも美しい義理の娘ができるなんて、あなたも嬉しいのではなくて?」
「美しい義理の娘を欲しがっていたのはそなただろう」
リウォード王が上体を起こし、手を差し伸べる。
「紹介しよう。妻のダァナだ」
王妃ダァナは袖口の広い橙色のドレスに臙脂色帯を締め、ドレスと対の仕様の裾まで届く長いベールを被り、首からは三重の金鎖を下げていた。
耳には金環、すべての指に異なる宝石の指輪を嵌め、胸に小さな赤い箱をしっかりと抱え持っている。
糸杉のように背が高く、しなやかで、覇気のある物腰。
美貌は清々しさの中に艶が含まれていて、左の眼元のほくろが悩ましい。
王子は王妃様似だわ、とリアリは納得した。
「あら、だって息子の嫁ですよ。私たちの孫を産んでくれる姫ですよ。美しいに越したことないではありませんか。もっとも、心映えが一番大切ですけれど」
「どうかな」
リウォード王は笑ってリアリに一瞥を流した。
「直答を許す」
「リ・アリゼーチェでございます。リアリとお呼びください。畏れながら申し上げます。私は、心映えはもとより、この身も潔白というわけではありません。過去の所業からして健全でもなく、王家の掟がどうあれ、王子と婚姻を結ぶつもりはございません」
ダァナは眼をぱちくりして、息子であるディックランゲアを見た。
「まあ、もう振られたの」
「最初から振られっぱなしです」
「人聞きの悪いことおっしゃらないでください。丁重にお断りしているだけではないですか」
「だから、断るなと言っているのだ。断われやしないのだから」
「お断りです」
「やはり振るのではないか」
「あ、またそうして拗ねる。いくらそんな善人面でいじけてみせても、だめなものはだめですからね。第一、わかっていらっしゃらないようですけど、本っ当に、御身が危ないんですったら」
「い、いじけてっ? 待ちなさい、私がいつそんなそぶりをしたと――」
ダァナはぱちぱちと拍手した。
「結構、その意気です。王子たるもの、しつこいぐらいがちょうどよい。なかなか息も合っているようだし、そのまま仲睦まじくするのですよ。そうそう、もし薬を所望するならば母に言いなさい、特別に効くものを用意しましょう」
なんの薬だ、とはリアリは敢えて訊かなかった。怖すぎる。
「お願いがあって参りました」
「待て」
リウォード王は鋭く制して、「人払いを」と告げた。
辺りから、陽炎の気配が消える。
キースルイ義父も席をはずそうとしたが、リーハルトがこれを止めた。
唯一の他国籍者であるエルジュにリウォード王がそっけなく退室を求めたので、リアリは横入りし、同席の許可を請うた。
互いの腹を探り合うような、沈黙。
リアリはリウォード王に視線をぶつけ、口を切った。
「“秘密の間”へ案内してください」
長い一場面になりそうなので、区切りました。
引き続きよろしくお願いします。
安芸でした。