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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第九話 王家の秘密
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謁見

 リウォード王には、モデルがいます。この物語で唯一。私が日本一かっこいいと思っている俳優です。ふははははは(なぜか高笑い)。

 王の間は金色に輝いていた。

 壁を覆う金のタペストリー群、金の豪奢な絨毯、天蓋付きの玉座も金箔。

 そしてそこに坐す王も。

 リアリは畏まって跪いた。右隣にはリーハルト、左隣にはディックランゲア、後ろにキースルイ、シュラーギンスワント、ライラとマジュヌーン。

 エルジュだけは入り口横の壁に凭れかかって腕など組んでいる。


「面を上げよ」

 

 王城で寝起きするようになってしばらく経つが、王に拝謁するのはこれがはじめてだった。

 ローテ・ゲーテ国、第三六四代リウォード王。

 孔雀の羽根にみる深い緑のカフタンに黒のヒザームを締め、黒いブーツを履き、黒いターバンを巻いている。

 肩からゆるく羽織った金色のマント、首から下げた金の装飾品、耳には身分の示す意匠を凝らした金環、指にはトルコ石と金細工の指輪。

 太りすぎず、痩せすぎず、体躯は堂々たるもので、顔は、ぐっとくるほど色気があった。

 三白眼で、ややギョロ眼。

 ごつごつした輪郭と、陽に焼けた肌、無骨な鼻と厳しい口元、顎にまばらに生えた髭は濃く、全体的に粗野な感じが男らしい。

 恰好いい。

 リアリは素直に惚れ惚れした。

 砂漠が似合いそうだ、と思った。


「シェラチェリーア殿に生き写しだな」

「美しいでしょう。きれいでしょう。かわいいでしょう。私の娘ですよ!」

「わかった、わかった。しかし、その若さでこれほどの美貌とは、眼の毒だ。求婚者が掃いて捨てるほど続出しそうだな」


 リウォード王は無造作にマントを払い、襞を脇へ流しながら、玉座の肘掛けに肘をおき、折った手首に頬杖をついた。

 眼力の強い王家の碧青(ミルヒ・クレイスター)がリアリを射抜く。その姿勢は他愛のないものなのに、痺れるくらい絵になった。

 そこへ、弾けるような笑声が転がった。


「世にも美しい義理の娘ができるなんて、あなたも嬉しいのではなくて?」

「美しい義理の娘を欲しがっていたのはそなただろう」


 リウォード王が上体を起こし、手を差し伸べる。


「紹介しよう。妻のダァナだ」

 

 王妃ダァナは袖口の広い橙色のドレスに臙脂(えんじ)色帯を締め、ドレスと対の仕様の裾まで届く長いベールを被り、首からは三重の金鎖を下げていた。

 耳には金環、すべての指に異なる宝石の指輪を嵌め、胸に小さな赤い箱をしっかりと抱え持っている。

 糸杉のように背が高く、しなやかで、覇気のある物腰。

 美貌は清々しさの中に艶が含まれていて、左の眼元のほくろが悩ましい。

 王子は王妃様似だわ、とリアリは納得した。


「あら、だって息子の嫁ですよ。私たちの孫を産んでくれる姫ですよ。美しいに越したことないではありませんか。もっとも、心映えが一番大切ですけれど」

「どうかな」

 リウォード王は笑ってリアリに一瞥を流した。

「直答を許す」

「リ・アリゼーチェでございます。リアリとお呼びください。畏れながら申し上げます。私は、心映えはもとより、この身も潔白というわけではありません。過去の所業からして健全でもなく、王家の掟がどうあれ、王子と婚姻を結ぶつもりはございません」


 ダァナは眼をぱちくりして、息子であるディックランゲアを見た。


「まあ、もう振られたの」

「最初から振られっぱなしです」

「人聞きの悪いことおっしゃらないでください。丁重にお断りしているだけではないですか」

「だから、断るなと言っているのだ。断われやしないのだから」

「お断りです」

「やはり振るのではないか」

「あ、またそうして拗ねる。いくらそんな善人面でいじけてみせても、だめなものはだめですからね。第一、わかっていらっしゃらないようですけど、本っ当に、御身が危ないんですったら」

「い、いじけてっ? 待ちなさい、私がいつそんなそぶりをしたと――」

 

 ダァナはぱちぱちと拍手した。


「結構、その意気です。王子たるもの、しつこいぐらいがちょうどよい。なかなか息も合っているようだし、そのまま仲睦まじくするのですよ。そうそう、もし薬を所望するならば母に言いなさい、特別に効くものを用意しましょう」

 なんの薬だ、とはリアリは敢えて訊かなかった。怖すぎる。

「お願いがあって参りました」

「待て」

 リウォード王は鋭く制して、「人払いを」と告げた。

 辺りから、陽炎(カゲロウ)の気配が消える。

 キースルイ義父も席をはずそうとしたが、リーハルトがこれを止めた。

 唯一の他国籍者であるエルジュにリウォード王がそっけなく退室を求めたので、リアリは横入りし、同席の許可を請うた。

 互いの腹を探り合うような、沈黙。

 リアリはリウォード王に視線をぶつけ、口を切った。


「“秘密の間”へ案内してください」


 長い一場面になりそうなので、区切りました。

 引き続きよろしくお願いします。

 安芸でした。

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