王と王弟と王子と書記官
短め。
すぐ次につなぎます。
リウォードが王。
リーハルトが王弟で宰相。
キースルイはリーハルトの書記官です。
王子が王弟で宰相のリーハルト・ギルス・ディル・ラールシュティルダーの執務室をノックして入室したとき、そこにはリーハルトの書記官のキースルイ・ダーチェスターと、父王リウォードの三人が顔を揃えていた。
「なんだ、珍しい」
と言ったのはリウォードで、王子は眼の端を吊り上げた。
「またさぼりですか」
「ちょっと休憩だ」
「父上」
「なんだ」
「仕事は山積み、父上以外のものは休日返上で働いているというのに、どうして父上だけ、そんなにのんびりと構えているんですか」
「皆が優秀だからなあ。私はそれほど必要あるまい」
「そんなわけがないでしょう」
王子が父王を氷のまなざしで睥睨すると、リーハルトが助け船を出すように話を促した。
「なにかご用ですか、王子?」
相変わらず、いつみても、薄気味悪いくらい卓越した美貌の宰相だ。
王子は渋々糾弾を中断し、矛先を変えた。
「いや、リーハルト殿ではなく、キースルイ殿に頼みがあるのだ」
「――私に? はい……なんでしょう」
「城下町でひと捜しをしたいのだが、手伝ってはもらえないか? あ、いや、あなたに直接手伝ってもらわずともよいのだ、ただ、知恵か助言か人手を貸してほしい」
「……ひと捜し、ですか」
王と宰相と書記官は黙って目配せを交わした。
王子も黙っていた。
ややあって、キースルイは簡易地図を描き、一言添えた紙を王子に手渡した。
「“アンビヴァレント”という店があります。受付に娘がおりますので、ご相談ください」
「すまぬ。恩にきる。ではな」
「お気をつけて」
無愛想に頷いて、王子はさっさと退室した。
が、すぐには扉を離れず、そっと聞き耳を立てた。
「……よろしいのですか?」
「よろしいもよろしくないも、親が成人した息子のなにに口を出すというのだ。ましてやひと捜しなどと、とぼけおってからに、しゃらくさい」
「会議が近くなって、黙っていられなくなったのだろうなあ。ほら、誰に似たのやら、あの子は我々と違い、真面目だから」
「むろん、私の息子なのだから、私に似たのだ。私が真面目だから、真面目なのだ。真面目でなにが悪い、この国では風化しかかっている美徳だろうが」
「は? 誰が真面目?」
「お二方、それ以上喧嘩腰にならないでくださいね。私、両成敗いたしますので。そうではなく、私が懸念申し上げているのは王子が“公主”を捜すことではない問題です」
「……ああ、それか」
「……ああ、それね……」
王子は、「それ」がどれを指すのかわからなかった。
そのまま会話は他にすり替わったので、すっきりしない気分のまま、やむなく王子はその場を離れた。
それから支度をして、午後一番に、王子は“アンビヴァレント”の扉を叩いた。
次話、王子とリアリが相まみえます。そこへラザの介入。
……黙。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。




