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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第九話 王家の秘密
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妻問い

 ディックランゲア、求婚する、の図です。

「いや、それは……返答しかねる」

「その覚悟もないのに、安易な詮索などしないで。私たちの戦いは、既にはじまっているんです」


 リアリはぴしゃりと言った。

 侮蔑の視線を投げかけたのだが、さきほど同様、凄み返される。

 王子は距離を詰めてきた。

 すぐ隣に肩を並べ、歩みは止めず、首だけこちらに捻る。


「そんなもの、とうの昔にできている。王家に生まれた者は、民のため、国のために尽くすのが務め。例外はない。中でも我がローテ・ゲーテ建国の祖である、ジリエスター公主が逝去されて以来ずっと、歴代の王が死守してきた三大義務を、あなたはご存じか。即ち、国民・国土、そして血統。この三つについては、多少の禁忌も含んで守り継がれ、いまに至っている」

 

 ディックランゲア王子が深く重く息を吐いて、眼に力を込めたのに、リアリはびくっとした。

 足が止まる。

 威厳と風格、そのどちらも十二分に兼ね備えた次期王位継承者がそこにいた。

 王子も足を止め、身体全体をリアリに正対させた。

 鮮やかな金色の短い髪、王家の碧青の(ミルヒ・クレイスター)、白い肌。

 半カフタンと呼ばれる長袖・前開きの白い鞘型服の上に、群青色の七分袖の膝下まである(フェレーズ)長の胴着を着て、絹の白帯を締めている。

 履物は黒で、身分を示す腕輪と指輪は金。

 原色を好まれるローテ・ゲーテにおいては控えめな身なりだが、堂にいった物腰には相応しいように思えた。

 王子はリアリの眼を見て、静かに、はっきりと言った。


「覚悟? あるとも。民を守り、領土を守り、純血の子孫を残す。それが私に課せられた使命であり、義務なのだ。

 必要ならば戦も辞さないし、相手が滅びの(ゼクト・ラーレ)だろうと数多の禍だろうと迎え撃つ。

 私が返答しかねると言ったのは、あなたの『なにもかも言うことをきく』ということに、あなた自身の危険が含まれている可能性を排除できなかったからだ。

 私は私で役に立つことは引き受ける。

 無論、純血も守る。

 あなたを妻とし、子供をもうける。

 前にも一度説明したことがあると思うが、秘密の間を開けるための絶対条件が王家の純血である以上、私とあなたの結婚は決定事項だ。

 あなたこそ、いいかげんに覚悟を決めてくれないか」

「秘密の間は、私が開けるわ」

「それがなんであるか知りもしないのに?」

「知らなくても、開けられるでしょ。私にその資格があるならね。そして無事に開けられれば、もう純血を守る必要はなくなる。王子と結婚する必要も子供をもうける必要もない――そうでしょ?」

「だとしても」


 王子の眼に一条の哀しみがよぎる。

 まぎれもない恋情。


「私はあなたを妻にしたい」

 

 その真摯な姿勢に不覚にもリアリは胸を打たれた。

 身動ぎもできなかった。


「リアリ殿、私はあなたが……」


 艶を含んだ声に鼓動が速くなる。

 リアリは柄にもなく動揺して、顔を朱に染めながら慌てて先を制した。


「わ、私の結婚相手はラザだけよ」

 

 と、厳しく突っ撥ねると、ディックランゲアは憮然とした顔で腕を組んだ。


「あなたがもしどうしてもと言うのなら、重婚法を適用して第二の夫にすることは認められる。私はあなたを独り占めしたいから、本当はやめてほしいのだが……」

 

 寂しげに口をへの字に曲げ、上目遣いに見つめられて、不覚にもどきっとした。


「その仮面、邪魔だな」

「……外さないわよ」

「頬にキスくらい、許してはくれないか」

「だめ」


 リアリはきっぱり拒むと、前方でしきりにこちらだと手招きしている王弟のもとへと向かう。

 途中、ちらっと後ろを向くと、シュラーギンスワントとライラとマジュヌーンのすぐあとに、悄然とした様子のディックランゲアが続く。

 肩をがっくり落として、やたらに溜め息をついている。

 自分の額を小突いては渋面をつくり、行き過ぎた言動をぶつぶつ言って悔やんでいる様子が窺えた。

 わかりやすい心のありように、笑いを誘われてしまう。

 リアリはいましがたの、王子からの求婚まがいの会話を打ち消した。

 こんなこと、ラザに知られたらまたおおごとだ。


 あえなく玉砕。笑。でも、リアリをときめかせるくらいはできました。

 けど、まだ到底諦めきれない様子ですね。諦めの悪い男は嫌いじゃないです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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