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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第九話 王家の秘密
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同じでなくていい

 リアリとシュラーギンスワントです。

 王城では、シュラーギンスワント、ライラ、マジュヌーンが揃って待機していた。

 ラザは最後通告をして、リアリの身柄を彼らに預けると、素っ気ないくらい別れの余韻などなにもなく背を返していってしまった。

 リアリは再会をはしゃぐ二頭の砂漠虎を抱きしめて、頭を撫でると、ついておいでと従えた。

 シュラーギンスワントがぴったりと傍につく。

 珍しく、言い澱んでいる様子にリアリはちっ、と舌打ちして先に問い質した。


「エドゥアルド?」

「はい」

 

 シュラーギンスワントが躊躇なく応じる。


「ナインツェールとルキトロス?」


 ライラとマジュヌーンが元気よく吠える。

 リアリは砂漠虎二頭の頭を撫でた。


「もっと早く教えてくれればよかったのに。なんて、無茶ね。私が覚醒前だったんだし」

「……正直、俺はオランジェ――エルジュ王に同情的でした。だから、守備も甘くなってしまった。ディックランゲア王子に対しては、リアリ様が王族には手を出すなとおっしゃったので、手出しを控えました」

「そうね、わかってる。私も同じよ、エルジュ王がオランジェとわかってからは、なんとなくひけめがあって、拒むに拒めない距離の近さがあったんだけど、ラザが嫌がるから、もうできるだけ傍に寄らないようにするわ。王子とも、二人きりになるのは避ける」

「それがいいと思います」

「シュラは」

「はい」

「いつから、覚醒していたの」

 

 唐突な問いだったが、シュラーギンスワントはすぐに応じた。


「俺は、アッシュに家を潰されたあと、少しずつ断片的に思いだしていきました。前世と現世の人物像が一致したのは割とごく最近です。はじめの頃は、なによりまず星脈の存在が強烈で、気流に酔って覚醒どころの話じゃなかった。引きずられないようにするのが精いっぱいで、覚醒は、そうしなければもっていかれてしまう危険があった。ほとんど無理矢理の自己覚醒でしたね。だから、リアリ様が方舟で同調連鎖をはじめたときも、覚醒なさったあとが心配だったんです」


 リアリは肩をすくめるしぐさをした。


「気流酔いはしなかったわ。いまのところ大丈夫。まだ深く潜っていないせいもあるだろうけど、星脈は、少なくともいま私を拒んではいない」

「さすが、リアリ様です」

 

 シュラーギンスワントはリュカオーンの名を表沙汰にすることを、伏せている。

 リアリはありがたく思った。


「でも、慎重に調べる必要があるわ。あとで付き合ってちょうだい」

「はい」


 リアリは頷いて、足元に眼を落した。


「ライラとマジュヌーンはいつから?」

「彼らはもっと前からだと。そうでなければ、砂漠虎が砂漠を離れてひとに懐くはずもない。その点に関しては、俺も以前から不思議に思っていました」

「そうよね。ありがとう、ずっと守っていてくれたのね」


 二頭の砂漠虎はリアリの掌に擦り寄って甘えてくる。

 獰猛な気質と巨体からは想像もつかないほどおとなしい、従順な謎が、ようやく解けた。

 おそらく他にも、陰から支えられていることはたくさんある。

 リアリは身内と知人、隣人、カスバの住人、ローテ・ゲーテの民、いや、この世界に満ちる命のすべてを思った。

 一度は確かに失われかけた。

 だが長い時を経て、再びひとの世を築き上げた。

 そしていま、真の危機に直面している。


「ラザが心配なの。レニアスだけで大丈夫かしら」

「それは俺も気になって。どうもハイド・レイドが周囲をうろついているらしいんです」

 

 リアリはリュカオーンの記憶を辿って眼をぱちぱちさせた。

 かつて方舟を託した能力者たちの中に、そんな名前の男がいたことを思い出したのだ。


「――ハイド・レイド。懐かしい名前ね」

「ただ、奴の目的が不明です。どうもラザ様の近辺をうろついているようなのですが、レニアスが仕掛けても応ぜずに姿を消したと。しかしその後もつかず離れずでくっついているようなのです。いかがしますか。つかまえて、問い質しますか」

「ラザに害を与えるようなら放っておけないわね。でも、そうじゃないなら、様子をみてもいいわ。ハイドだって、だてに九千年も放浪していたんじゃないでしょ。ひとを、守ってきたはずよ、彼なりにね」

 

 シュラーギンスワントは渋い顔で異論を唱えた。


「奴は殺し屋ですよ」

「ふん。ローテ・ゲーテの住人なら、誰も似たり寄ったりでしょ。私も、あんたも」

「……それも、そうですね」

「話を戻すけど、シュラもラザについてくれない? 私は平気だから」

「だめです」

「どうしてよ。私が本当に平気だって、わかっているでしょう」

 

 リアリは無表情という表情をつくってシュラーギンスワントを一瞥した。

 シュラーギンスワントはわかっている、という具合に首を小さく縦に振ってから、眼を伏せた。


「リアリ様が力を回復されていることは、知っています。でも俺は、ラザ様にあなたを託された。これは俺の仕事です。お傍を離れるつもりはありません。ライラとマジュヌーンも同じです。それにラザ様になにかあれば、レニアスが知らせて来るでしょう」

「それはそうなんだけど……なんだか危なっかしくて。たぶん、美形に弱いなんて変な習癖のせいだわ。なんであんなになって転生してきたのかしらね」

「さあ。しかし俺だって、こんなですからね」


 リアリくっと笑った。


「ごめん。そうね、私だってこんなだわ」


 ライラとマジュヌーンが我も我もと吠えたてる。


「それでいいのよね。だって、前世と同じである必要なんてこれっぽっちもないんだもの。私は私、皆は皆。昔は昔、いまはいま。ああ――笑ったら、気が楽になったわ」


 リアリは深呼吸して、緊張をほぐし、言った。


「いまから王弟妃に会いに行くの。つきあってちょうだい」


 二日お休みしちゃいました。すみません。

 連続投稿いきます。お暇な方はどうぞおつきあいください。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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