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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第八話 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)
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創世神話の真相

 二十一人の超越者たち、そしてリアリ=リュカオーンが星の活動を一時的に抑えるため、自己犠牲を払った、その後です。

 


 エコーレ山の噴火が予知されていた朝――エンデュミニオンを先陣に、石竜(ゼ・フロー)の群れと共に二十一名の“超越者”たちが“方舟”を離れた。

 リュカオーンのみが残った。

 

 ジリエスター博士は彼らが石竜(ゼ・フロー)を下ろし、“道”をつくり、“道”に星力が通り、星脈が次第に沈静化してゆく様を目の当たりにした。

 それは同時に彼らの死を意味するもので、とても堪えがたかった。


「リュカオーン、どうか君だけでも生き残ってくれ」

「だめです。“道”は不安定で少しの衝撃で破裂してしまいます。封印が必要なんです」

「しかし私はこんなことのために君を引き取ったわけではない。君が、君たちが、我らひとのために犠牲を払う必要などないのだ」

「私たちもひとです。そうおっしゃってくださったのは博士ではありませんか」


 リュカオーンは微笑んだ。


「いきます。かなうならば、未来でお会いしましょう」

「どうしても行くのかね」

「……もし次があるなら、私、博士のような優しいひとの子供に生まれたいです」

「わかったよ。私も行く。なにもできないが、せめて見届けさせてくれたまえ」

 

 リュカオーンの手にジリエスター博士の手が重ねられ、二人は“方舟”の頂きに移動した。

 博士を内部に残し、リュカオーンは外に。

 そしてなにかを迎えるように腕を大きくひろげた。

 恐ろしい色合いの空だった。

 天地開闢の再現にも似て、黒と灰色、橙色と山吹色、青と薄い青色、かすかに朱が混じり、全体を濃淡のある紫が蔽っていた。

 風も荒れ狂っているようで、リュカオーンの長い赤い髪が乱舞している。

 ほどなくして、細い身体が発光しはじめた。

 気がつくと、傍に妻がいた。

 胸に生まれたばかりの息子を抱いている。

 子供たちもいた。

 ジリエスター博士は家族を両腕に抱きながら、徐々に明るさを増すリュカオーンを見守った。

 鋭く、大きな閃光が放たれた。

 リュカオーンの最期だった。


「リュカオーン!」


 葬儀は“方舟”の庭園で行われた。

 リュカオーンの亡骸は棺に納められ庭園の土に埋められた。

 傍には名を記した石碑と、彼ら“超越者”二十二名が描かれた絵が捧げられた。

 月日の経過と共に、星は落ち着きを取り戻し、急速に蘇っていった。

 荒廃した大地に緑が萌え、アレクセイ、ヒューライアーをはじめとした“能力者”たちの尽力もあり、ひとはまた土の上で暮らせるようになった。

 生き残った人々はしばらくの間は犠牲となった二十二名の命を尊んでいた。

 彼らが礎となった地で暮らしはじめた。

 “道”の真上に、やがて二十一カ国へと発展する国の基礎たる集落をつくったのだ。

 人々は日々の生活に追われる間に、災厄の記憶を過去のものとして押しやった。

 ジリエスター博士は未来を慮った。

 記録を残すことを決意した。

 “盾”の製作を開始した。

 時は瞬く間に過ぎていった。


 博士の子供が青年へと成長した頃、ようやく“盾”が完成した。

 博士は息子に薬物投与し、“盾”とコントロール・キー・プレート、それにすべてを綴った日記を託した。

 そして家族に別れを告げて“方舟”を内部から封じた。

 息子の名はロキス・ローヴェル。

 聖徒殿(ビリーヴァ・ザ・リア)の設立者である。

 

 突然の空白。


 場面が現在のローテ・ゲーテに切り替わった。

 ついで、視点がぐっと持ち上がり、ローテ・ゲーテを離れ、大陸の輪郭がわかるくらい上空から俯瞰した。


 緑の大陸。

 山脈や河川。

 都市群。

 海。

 

 爆発は、ルクトールからはじまった。

 火が噴き上がる。

 強烈な光芒が弾ける。

 大地震が発生し、地中が捲れ、大地に深い亀裂が奔る。

 活火山のほとんどが噴火し、湖に、川に、都市に赤い溶岩流が押し寄せる。

 爆発は連鎖し、ローテ・ゲーテも、そして他の十九の国々すべてにも及んだ。

 灼熱地獄が終焉を告げた頃、今度は未曽有の大寒波が襲った。

 極寒の冬が訪れた。

 大氷河期時代の到来だった。

 生命は死に絶えた。

 星は沈黙した。



 もう少しで、ひとくくりです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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