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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第八話 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)
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瞬間移動

 医術師レベッカ=ベルナンロッサです。

 娘は手をひと振りして、仲間を解散させた。

 ふわ、と軽やかに上昇し、作業を再開する。

 レベッカはきまりの悪い顔で頭を掻いている。

 ラザは彼らを斜めに眺めながら身体を楽にした。


「……カイザの命を救ってくれたあなたです。僕はあなたの話ならば聞きます」

「私は医者としての務めを果たしただけさ。おまえさんに話せるようなことはないよ」

「なにも?」

 

 レベッカの眼が不安定に泳ぐ。

 ややあって、肩で呼吸を整えてから言った。


「……本当を言うとなにをどこまで話せばいいのか、わからないんだよ。それに私の口から話していいことなのかどうかも、わからない。さっきも言ったが、たぶんリアリはおまえさんにはなにも知られたくないはずだ」

「なぜそう思うんです?」

「私がそうだからさ。――なにも知らずにいてほしい。自分の恰好悪い姿や醜い顔など見せたくない。怖がらせたくない。誰だってそんな存在のひとりや二人、いるだろう」


 その言葉の真意がどこにあるのか秘めたまま、レベッカのまなざしは少し離れたところで険悪にやり取りするロキスとアレクセイの二人に向けられた。


「――そっとしておいてやれないのかい?」


 交渉は決裂したようで、ロキスとアレクセイは睨み合いながら戻って来た。


「なにが解決します?」


 アレクセイは指に嵌めていた黒い楕円の形の指輪の台座を捻った。

 上に掌を翳し、全大陸語を自在に話せるラザにも理解不能な言語で、短い単語を添える。するとモニタースクリーンの一部が切り替わり、スライセンをとらえた。

 スライセンからカスバへ、画面がクローズ・アップを図ると同時に映し出される場所も転々と移動し、やがて聖徒殿をとらえた。

 次々と展開される映像の中に全壊した書庫と救出に奔走する聖徒たちの姿があって、光の加減などからも、これは現在の状況なのだと知れた。


「この手前の樹木を見ていてください」


 オリーブの樹だった。

 書庫の前庭に植えられていて、運よく被害を免れていた。

 なにも起こらなかった。

 眼に見える限りでは、なにも。

 だが一枝、斜めに伐られ、落ちた。


「見ましたか? この大陸のどこにいようとも、同じことができますよ。ほら」


 先程落ちた枝が、火に包まれる。

 瞬く間に黒ずみ、風のひと吹きで、ほろっと崩れた。


「ね?」

 

 アレクセイの眼は死者の眼そのもののように生きた光を宿していなかった。

 ラザの気配がいっそう凄みを増す。

 

「どうしろと?」

主長(ギャス・レイ)に会い、命令に従うのです。それが次期後継者たるあなたの義務です」


 ラザの全身から純然たる殺気が放たれた。

 そのあまりの凄まじさに免疫のないものは落雷の直撃を受けたかのように宙から落下した。

 悲鳴が重なる。

 かろうじて落下を免れたものも、恐怖にひきつった顔で壁際まで後退する。

 対峙する二人の周囲だけ闇が巣食い、空気が過度に重い。


主長(ギャス・レイ)はどこです」

「案内します」

 

 アレクセイは浮遊する青い球体の真下へいった。

 球体の落とす影の中を示す。


「そこへ立って」

 

 険しい表情のまま、むっつりとラザは指示に従った。


「いまから扉を開けます。あなたは動かないでください」


 一歩下がったアレクセイは、忠実に使命を全うしようという番人の顔だった。

 胸の位置まで持ち上げられた左手には金色のプレートが握られ、右手はそれを優しく撫ぜた。

 ロスカンダル語で七重に張られた開封の暗号を順に唱えてゆく。

 韻は複雑で、微妙な高低が眠気を誘うほど甘い。

 ラザの足元が鈍く、うっすらと輝く。

 細かな光彩が忙しく交差する。

 そして突然、ぱあっと白銀の光が筒状に弾けてラザを包み、呑み込んだ。


 登場人物が多いー! とクレームの幻聴が聞こえる。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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