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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第八話 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)
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守護番人

前話、千里眼ロキス・ローヴェル登場。

そして。


「出力上げて、そのまま」

 

 いま眼の前にある“もの”に、言葉を失う。

 ラザは立ち竦み、食い入るように“それ”を見つめた。

 あまりにも馴染みのない、日常を超越した異質な光景がひろがっていた。

 

 真白い空間に、無数の謎の機器類。

 移動操縦機がいくつも稼働し、所狭しと並ぶモニターパネルと映写スクリーンは外部よりもたらされる情報を記憶形状装置へと絶え間なく送り込んでくる。

 中央に、天を衝くような巨大な卵型の青い球体が宙に静止していて、外殻に稲妻の如く強烈な光がジグザグに奔った。

 一際、鈍い青の閃光。

 球体の天辺が割れ、そのまま花びらのようにゆっくりとひらきはじめる。

 青い蓮の花のようだ、とラザは思った。

 そしてその得体の知れない物体を、こともなげに身体を浮かせた状態で、何名もの人間が取り巻いている。


「六番翼部が遅いわ。作動不良を起こしている。ジルフェイ、再点検を。ゼレバーニス、ちょっと来てちょうだい。コントロールパネルを見て、気になる箇所が――」


 ラザにはじめに気づいたのは、てきぱきと指示を与えている若い娘だった。


「――エンデュミニオン」


 かすかな呟きに劇的な反応が示される。

 その場にいたほとんど全員が一斉にラザを振り返った。


「エンデュミニオン!」

 

 そして、かつてない経験をラザにもたらした。

 わっと抱擁したのだ。

 奇声と歓声を上げながらラザを揉みくちゃにし、叩き斬られずに済むという離れ業を成し遂げた。

 わけがわからず手を出すのを我慢していたが、それも限界というところで、声がかかる。


「それ以上手を出すのはおよし。危ないから」

「あら。ベルナンロッサ、あなたもう顔見知り?」

「まあね。ほら皆、離れた、離れた。平気かい、ラザ。反撃もせずによく堪えてくれたね。感謝するよ」

「……あなたの姿が見えたので。レベッカ、ここでなにをしているのです」

「おまえさんこそ、なぜここに? ひとりかい? いや、そんなわけは……」

「俺が連れて来た」


 と、わざとらしく咳払いをして、ロキス。


「あなたがたこそ、いつからここへ?」


 応えたのはこの場の采配を仕切っているらしい茶髪茶瞳の若い娘だった。


「実は昨日なの。アレクセイが案内してくれたのよ」

「あの番人め。こっちが先だと言っておいたのに」

主長(ギャス・レイ)の指示です。仕方ないでしょう」


 文字通り降って湧いた声にも、ラザは驚かなくなっていた。

 斜め前に突如として現れたのは、琥珀の瞳に長い金髪を束ねて、政務宮の藍色の制服制帽を軽く着こなし、本来こんなところにいるべきではない地位にある男だった。


「はじめまして、でもないですが、番人のアレクセイ・ヴィトラです」

「あなた、ディックランゲア王子の補佐官じゃないですか」

「そうですよ」

「あなたが番人? 聖徒殿主長の守護番人?」

「そうですよ」

 

 ラザはちょっと考えを巡らせた。


「“アレクセイ・ヴィトラ”という名は、四公主のひとりでは?」

「そんな昔の話を引き合いに出さないでください。どうでもいいです。それよりも、主長(ギャス・レイ)がお待ちかねですよ」

「僕は会いません」

 

 一見柔和で端正ながらも冴え冴えと冷たく、どこか似通った空気の漂うラザとアレクセイとの間に亀裂が入る。

 アレクセイは非難の矛先をロキスへ向けた。


「こんなことを言っていますが」

「強情な男で困る」

 

 とひとりぼやいてから、


「いいかげん折れろ。リアリ嬢も無関係じゃない話だぞ」


 ロキスの痛みのこもった一言に、ラザの顔つきが変わった。


「……なぜリアリの名が出てくるんです?」


 と、ラザが訊ねたのはレベッカだった。

 レベッカは苦々しい仏頂面で、ロキスの言い分を認めながらも補正した。


「……確かに無関係じゃないが、おまえさんには無関係でいてほしいと思うだろうね」

 

 レベッカの隣で、見た目の年齢の割には分不相応な落ち着きをみせる娘が首を傾げる。

 

「そうなの? だったら、覚醒もまだのようだし、私たちに関わらない方がいいんじゃない?」

「なに言ってるんだヨ!?エンデュミニオンだヨ? いないと困るヨ! 機関動力部の――」


 子犬さながらに甲高い声で騒ぎ立てる少年の口に、パンの塊が押し込まれる。


「余計なことは喋らないの」


 低い声で窘めて、娘はラザに微笑みかけた。


「前世を清算するために私たちは甦ったわけじゃない。こうしてまた会えただけで十分嬉しいわ。だからいいのよ、誰も皆、自分の選択をしてくれればそれでいいの。あとのことはなんとかなるわよ」

「そうだな」


 と、相槌を打ったのは、青い球体の上部で小さな薄い金色のプレートを翳しながら、音声と手動でなにか作業中の、はっきりと肌の色の違う南方人種の男で、強面の割には綻ぶ表情は優しい。

 

「いざとなれば端末解析か、最悪初期化でもいい。一から設定し直せばいいだけだ」

「ひー。面倒くさー。僕、嫌だヨ! そんな手間のかかるコトー!」

「誰もおまえをあてにはしとらん」

「えーっ。それもひどいヨ」

「うるさいわよ。いいから皆、作業に戻って。ここはベルナンロッサに任せるわ」


 守護番人アレクセイ・ヴィトラ登場。

 ただの王子狂いではなかったようで。笑。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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