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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第八話 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)
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氷の微笑

 王と王弟と書記官と、更に。

 厳しい沈黙が落ちた。


「シュラ、ライラ、マジュヌーン」


 名を紡がれた男は跪き、砂漠虎ニ頭は伏せた。


「あなたがたには失望しました。いまをもってリアリの警護の任務を解きます。以後、僕の前に顔を見せないでください」

「ちょっと……待ってよ、ラザ!」

「レニアス、リアリを例の場所へ。僕が戻るまで傍についていなさい」

 

 さっき離れないと言ったばかりなのに、とは言わなかった。

 レニアスは不承不承頷いた。


「わかった」

「リアリ」

 

 ラザは身を屈め、リアリの耳元に口を寄せた。


「夕方までには会いに行きます。そのときあなたが不在だったら、城下町(カスバ)の住人をひと呼吸ごとにひとり殺します。それが嫌ならば、おとなしく僕を待っているんです」

「でも」

「ここは黙って言うことをきいたほうがいいって、お嬢」

「だって」

「逆らうな。じゃねぇと、いまあいつら全員瞬殺でやられちまうって」

 

 リアリはぞっとした。

 仰ぎ見たラザの片眼は無表情で、光がなかった。

 明灰色の瞳の奥にひろがる孤高の闇。

 あまり見ることは少ないけれど、“仕事”に携わるときのラザの眼だ。

 纏う空気は紅蓮の炎のように激しく、虚無の如く深淵で、怖い。

 どこまで、聴いたの?

 とは、訊けなかった。

 リアリは恐怖した。

 ラザには、なにも知られたくない。過去のことなど知ってほしくない。

 そう思っていたのに。

 ラザはリアリとレニアスを置いて、シュラーギンスワントとライラとマジュヌーンの前を一瞥もなく、ただ通り過ぎた。

 

 そのまままっすぐに、王の執務室にいった。

 ローテ・ゲーテ国王リウォードは王弟リーハルトと王弟書記官キースルイと共に無断で入室を果たしたラザを、別段驚くこともなく迎えた。


「やはり来たか」

「また来ました」


 ラザは微笑した。

 氷の微笑である。


「今度は首を絞めてでも答えてもらうと、僕、言いましたよね。覚悟はいいですか?」


 リウォードは揶揄するように書記官をつついた。


「キースルイよ、貴様の息子は恐ろしい男だな」

「はい、自慢の息子です」

 

 肩を竦めてリウォードは席を立ち、執務机をぐるっと回ってラザの前を通り、小卓の上の水差しを持ち上げてグラスに水を注いだ。

「用はなんだ」

「千里眼がここにいるはずです。呼んでください」

「会ってどうする」

「予言を撤回させます。ついでに王子とリアリの婚約も解消していただきましょうか」

「欲張りな男だ」 


 リウォードは喉を潤し、水差しの横に置かれた呼び鈴を振った。


「そなたはどこまで知っておるのだ」

「なにも知りませんよ」

「色々と嗅ぎまわっていただろう」

「そんなこと、僕が口を割ると思います?」

「可愛げのない奴だ。親の顔が見たいものだな」


 リウォードの皮肉などまったく意に介さず、キースルイは平然と構えて扉にいった。

 気配を窺いながらゆっくりと開ける。

 ラザは入って来た人物の顔を確認して文句を言った。

「遅いですよ、千里眼」


 次話、千里眼登場。またのちほど。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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