譲れぬ想い
KYな男の乱入。
「リアリは僕のです」
よほどこの場面を見られたことが衝撃的だったに違いない。
リアリは顔色を失くして小刻みに震えた。
そのリアリを壁に縫い留めたまま、首を捻っただけの体勢で、エルジュはラザの視線を受け止めた。
こうして向き合うのは、初対面以来だった。
双生児。
遺伝子を共有し、時を同じくして生まれたものたち。
魂も血肉も容姿もまったく同じでありながら、心だけ異なるもの。
エンデュミニオンでありながら、エンデュミニオンでなきもの。
エルジュは苛烈な憎悪を覚えた。
世界崩壊の危機に晒され、一切の生命の断絶が現実のものになろうとしたとき、我が身を賭して“道”をつくり、星を鎮めて延命を施した。続く未来に、希望を託したのだ。
ひとたる身では、できない所業だった。
ひとならざる身であればこそ、“力”があったからこそ、星に働きかけることができた。
だが恐ろしくないわけではなかった。
葛藤もあり、苦しみもあった。
それでも覚悟を決めた。
消滅の憂き目に遭っても、未来を想えば悔いはなかった。
だが選ばれたのは――。
ラザはミシュラハの下から腕を持ち上げた。
軽く拳を握って、胸の前で水平にひらく。
「リアリの存在のすべてが僕のもの。他の男が横入りする余地はないんです。言われた通り、とっとと諦めてください。僕、とても不愉快です。なんです、その、いかにも口説いていますという体勢は。早く退かないと、首を斬りますよ。いいんですか」
「だめっ。絶対だめ。その鋼糸をしまいなさいよ!」
リアリの叫びに、エルジュは眼を凝らした。
「……糸?なにも見えんが」
「不可視の糸って呼ばれるくらい細くてよく斬れるの。首斬り専用の糸よ。迂闊に扱うと危険だから聖徒は全員手袋を着用するくらい。早くそんなものしまって」
「庇うんですか」
「ここは王城よ」
「王城でなければいいんですか」
「王城でなくてもだめっ」
「やはり、庇うんですね……?」
ラザの声が極限まで低くこもる。
「そんなに必死になって他の男を庇うなんて妬けます。まったく許し難いです。一度ならず二度までも、僕のあなたに迫るなんて暴挙が過ぎます。排除します」
「やめて、ラザ」
数秒待った。
ラザは手に巻きつけた鋼糸をピンと張った。
「……退かないんですね?」
地獄の番犬の血に飢えた咆哮にも似た、背筋も凍りつくような嫉妬に狂ったひと声だった。
ラザの身体がふっと沈み、攻撃目標との距離をほとんど零に詰めたそのとき――
「うわーっ。だめだめだめ――」
と、雄叫びをあげながら突然全裸の男が空中から湧いた。
遮二無二、エルジュとラザの間に割って入る。
「あああああ、よかった。間に合った」
静寂。
遅きに失したが、エルジュはリアリの眼元を掌で覆った。
それから目の前の、四肢を踏ん張って仁王立ちをする男の名を呼ばわった。
「ヒューライアー」
「わあ、しばらくぶりですー」
「挨拶などどうでもよい。服はどうした」
「えーと。拷問で全部ぼろぼろになっちゃいました」
「見苦しい。失せろ。なにか着るまで戻るな。あとで言い訳を聞いてやろう。覚悟をしておけ」
「えええええっ。なんでー。どうしてー。王が危ないと思ってすぐ来たのにひどいー」
「私の言葉が、聞こえなかったのか」
低く恫喝されて、ヒューライアーはしょんぼり肩を落として姿を消した。
現れたときと同様、空に掻き消える。
エルジュは捕らえていたリアリの手首が赤くなっているのに気づくと、詫びるような口づけを肌に落としてから、そっと解放した。
とん、と軽く肩を小突く。
「いけ」
悲哀に陰る瞳に心苦しさを覚えながらも、リアリはエルジュに背を向け、ラザのもとへいった。
エルジュは立ち去った。
想像すると、おかしい。笑。
シリアス、ぶち壊し。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。




