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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第八話 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)
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尋問

 ラザとヒューライアーです。


「起きなさい」


 ラザの呼びかけに返ってきたのは、鼾だった。


「……いますぐに起きなければ縦にぶった切ります」

 

 殺気の塊をまともにくらって、ヒューライアーはびくっと眼を覚ました。

 ひとの気配に首を擡げ、ラザの姿を認めるとほっとしたように言った。


「ああよかった。忘れられているかと思ったよ」

「ええ、すっかり忘れていました。他のことで忙しかったもので」

「やっぱり。でも思い出してくれてよかったよ。僕、帰らせてもらえるのかなあ」

「それはあなた次第ですが……それにしても鼾をかいて熟睡しているくらいです。拷問がぬるかったようですね」

「ぬるくないよ。死ぬかと思ったよ。ただ、僕、疲れたり苦しかったり嫌なことがあるととにかくどこでも寝ちゃうんだよね。ふわあ。ねむねむねむねむ……」

「永眠します?いいですよ、手伝います」


 いまにもばっさり首を落とされそうな気配を嗅ぎ取ったのか、ヒューライアーが急いでかぶりを振る。

 ラザはいかにも残念そうに口をすぼめたが、「まあいいでしょう」と呟いて側近のひとり、ミザイアから一冊の書物を受け取ると、表紙をヒューライアーが見えるように傾けた。


「うーん?」

「創世記です。まあ詳細は省くとして、“滅びの(ゼクト・ラーレ)と双頭の巨人(ゾルベット・トール)”の物語をつまんでみましょう。『かつて文明があった。滅びの(ゼクト・ラーレ)がそれを破壊し、双頭の巨人(ゾルベット・トール)と人間は力を合わせて戦い、勝利こそおさめなかったものの、封じることに成功した。滅びの(ゼクト・ラーレ)との戦いで生き残った勇敢なるひとびとは、二十一人。二十一ヶ国を建国し、治め、いつしか二十一公主と呼ばれるようになった。ひとびとは再び平和を取り戻した』。ざっとこんな具合です。僕が興味を惹かれたのは、討伐指揮をとって戦いを終結へと導いたという、四公主です」


 ラザは慎重に何枚か頁をめくった。

 つきつける。


「ひとりは我がローテ・ゲーテ建国の祖でもある、ジリエスター公主。二人目は、遠くルクトールの地へ去ったヒューライアー公主……あなたの名前ですね?」


 何千年も昔の、神話とも呼べるくらい古い年代記の一節に同一の名前を見出したからといってどうだというのか。

 と、普段なら歯牙にもかけない些細なことも、いまは見過ごせないほど事態は混迷していた。

 ラザは、リアリが王家の姫で、更に二十一公主のひとりジリエスター公主の再来だと知らされて以降、あらゆる手段を用いてひそかに王家と創世神話について調査を進めていた。

 それにより色々とわかったことも多いが、わからないこともままあった。

 特に二十一公主については正確な情報がほとんどなきに等しかった。

 そこで、まず二十一ヶ国それぞれの原典を読み直すところからはじめたところ、大まかな内容は共通していたのだが、国によって微妙に物語が異なったり、登場人物名が列挙されていたり、削除されていたり、謎の寓話が差し込まれていたり、暗号と思われる一文があったり、創世記とはいえ、種々様々であることが判明した。

 すべての原典に眼を通してみて、思いたち、古い順に並べてみた。

 すると、一番古いと思われるそれと他では、二十一公主の扱いが違っていた。

 一番古い原典では“滅びの(ゼクト・ラーレ)”を封じたのは“力あるひとびと”で二十一公主は新しき世界を創造した英雄であるとされている。

 他は二十一公主がそのどちらの役目も担ったと記されている。

 おそらくは訳者の力量不足からくる誤訳なのだろうが――もしも、これが意図的なものなのだとしたら? そこに隠された秘密とはなんなのか。

 王家が、リアリが、どう関わるのか。

 直感で、ラザは自分も無関係ではいられないと察していた。

 聖徒殿は王家の懐剣。

 王家のために王家がゆえに王家がために存在する組織。

 その筆頭である聖徒殿主長(ビリーヴァ・ザ・リア・ギャス・レイ)が俗世との縁をすべて絶ち、代々、連綿と守り続けるもの。

 それはいったいなんなのか。

 ラザはヒューライアーの沈黙を許すつもりはなかった。


「あなたがルクトール王の側近中の側近だということは調べがついています。ヒューライアー公主というのはあなたの祖先ですか? あなたはその末裔では? どうなんです? あなたの知っていることを話しなさい。それが解放の条件です」


 ちょっと長いので、三分割ほどに。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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