独占欲
続きは夜に載せます。ありがとうございました。
「君が好きだ」
オランジェは、普段の彼からは想像もつかないような仏頂面でリュカオーンの部屋まで訪ねて来て、そう告げた。
部屋にはエンデュミニオンもいたのだが、オランジェは怯まなかった。
「君が欲しい。君を愛したい。君に愛されたい。エンデュミニオンとは別れてくれ」
エンデュミニオンは無言でリュカオーンの腰に腕をまわし、中にさらって扉を閉めた。
オランジェは諦めなかった。
応答通話口で彼はなりふりかまわず叫んだ。
「君が好きだ、好きだ、好きなのだ、リュカオーン。どうしても君が欲しい。なにがなんでも欲しい。いますぐに欲しい。私はもう耐えられないのだ。君が他の男のもので――エンデュミニオンの腕の中で眠り、愛されることが、もう心底嫌だ、我慢できない。我慢ならないのだ。こんなに――こんなに君を好きな男は私だけだ。私が一番深く君を好きだ。それなのにどうして、君は私のものではないのだ。君の好きな男が私ではないのだ」
リュカオーンはエンデュミニオンに眼で詫びて、彼の腕からすり抜けると、再度扉を開けた。
オランジェは泣いていた。
膝をつき、顔を手で覆って見苦しくも誠実に嘆きを涙に代えていた。
「君に触れたい」
嗚咽が悲鳴のようだった。
「だが、触れられない。君は私のものではない」
「……あなた、いつもなにかにつけて、私と喧嘩ばかりしているじゃない」
「それは君がエンデュミニオンだけを頼りにするからだ」
「私、エンデュミニオンとは別れないわよ」
「これほど私が望んでも?」
「だって私がエンデュミニオンと別れてしまったら、彼が誰か他の女のものになるわ。そんなこと許せない。絶対にいや」
「私のことは愛せない?」
「愛しているわ」
リュカオーンは言った。
低く屈み込み、オランジェの頭を優しく撫でた。
「いままで言わなかったけど」
オランジェの手がはたと落ちた。
彼は茫然とリュカオーンをみつめた。
「ひどい顔」
リュカオーンはぷっと笑って、オランジェの眼の上にそっと唇を寄せた。
「あなたの温かみのある性格が好き。誰も毛嫌いせず一生懸命皆のことを考えてくれる心が好きよ。口うるさいけど、それが優しさだってわかっている。ひねくれたところもあるけれど、嘘はつかないし、嘘をつくときはきちんと理由があるときだけだって知っている。
“力”が嫌いで本当は普通のひととして生きていきたいことも、肉親を大事に思っていて時折遠くから様子を窺っていることも、ここの皆が安心して居心地よく暮らせるように揉め事の仲裁や和解に一役買っていることも知っているわ」
リュカオーンは微笑みながらオランジェから離れた。
「……それから、あなたが私を好きなことも、いつも見ていてくれたことも、知っている。ありがとう」
オランジェが我に返った。
「私を愛していると言ったな?」
「言ったわ」
「でも、私のものにはならない?」
「ならないわ」
「わかった」
オランジェはすっくと立ち上がった。
「要は、エンデュミニオンより私の傍にいたいと思うようにさせればいいわけだ。よし、覚悟しろ。これから何年かけてでも君を振り向かせてみせる。いつか、私のものになりたいと、言わせて見せるぞ。皆、応援頼む!」
わあっと声が上がった。
いつのまにか騒ぎを聞きつけて、背後に人だかりができていた。
仲間たちの声援と野次が飛び交った。
ひとは、一度に何人までを好きになれるのでしょうね?
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。