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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第七話 前世
47/130

オランジェ

 できましたら、次話と連続してお読みください。

「なぜ全員で食事をしない」

 

 それが第一声だった。

 中肉中背、髪と眼は明るい薄茶色、くっきりとした目鼻立ちに覇気のある眼をしていた。

 濃い緑色の長いマントを羽織って、同じ色のブーツを履いている。

 どことなく軍人色を思わせる振る舞いに、その場にいた数人が遠慮のない警戒のまなざしを向ける先で、このぶしつけな侵入者は、腕を組み仁王立ちの姿勢で演説をぶった。


「食事は家族全員でとる!基本だろう」


 リュカオーンはむっとして言い返した。


「家族なんていなかったから、基本なんて知らないわよ」

「では私が教えてやろう。朝はおはよう、夜はおやすみ、挨拶はきちんとする!互いを思いやり、慈しみ、助けあい、支え合う。ありがとうとごめんなさいはひととしてのたしなみであり、たとえ家族間と言えども礼を尽くすべきときは礼を尽くし、謝るときは謝る。そうすることで信頼関係を深め、絆の力を強めるのだ」


 リュカオーンと共に食事をとっていたエンデュミニオン、ゾルベットロー、ナディザードの三人の反応はまちまちで、押し黙り、様子見をし、反感を持って問い質した。


「あんた誰」

「私はオランジェ。独身、恋人なし、家族は両親と弟妹がひとりずつ、ディズーの出身だ。趣味は家事全般、得意は料理、疲れるから運動はあまり好きではない。今日からここで世話になる」


 それまで口を挟む余地のなかったジリエスター博士が、ここでようやく紹介した。


「彼は隔世遺伝の、それも後期覚醒型の“超越者”なんだ。これまでずっと“力”を使わずにいたため各機関の探知機のどれにもひっかからず、塔への隔離には至ってない」

「珍しいな」と、ゾルベットロー。

「珍しいね」と、ナディザード。

「そうなのだ。“方舟(ここ)”までくるのも紆余曲折があって――まあそんなことはどうでもよろしい。とにかく仲間がひとり増えたわけだ。よろしく頼むよ。オルディハ!君、彼の手助けをしてあげてくれないか」

「わかりました」と、オルディハ。

「うむ、よろしく。オランジェ、君が市井の民の中で肉親と共に暮らして得てきたものは貴重なものだ。ここにいる“能力者”のほとんど誰もそんな経験はない――君は皆が持ち得ぬものを持っていることになる。どうか惜しみなくそれを皆にも分け与えてほしい。そうだな、手はじめにさきほど指摘のあった『食事を全員でとる』ことをはじめてみようか」

 

 オランジェが来たことで、“方舟”の生活形態は一変した。

 まず、時間を決め、朝昼晩の食事を全員揃えてとることになった。

 これだけでも慣れるのに時間がいったが、そうすることで互いを面識する機会が増え、言葉を交わすことも増えた。

 口をきけば親しくなり、親しくなれば一緒に行動することも多くなる。

 個人で消化していた時間を他人と共有することで生まれる絆は温かく、面白みがあり、活気づいた。  

 “能力者”たちはこれまでになく、急速に、より深く打ち解けていった。

 更に、オランジェはあれこれとうるさかった。

 挨拶を基本として、食事の前には感謝の祈りを欠かさずに唱え、歯を磨け、風呂に入れ、掃除しろ、身体を動かせ、本を読め、趣味を持て、もっと外の世界に興味を示せと要求は尽きなかった。


 彼は口ばかりではなかった。

 身なりに無頓着なものをつかまえては整髪、着替え、化粧をし、暇で退屈を持て余しているものをみつけては花や野菜を育てさせる庭づくりを教え、音楽好きを集めては演奏会を開いた。

 料理講習会、朗読会、お茶会、ダンス・パーティなども頻繁に催した。

 定期的に全員を集め、手を繋ぎ、同調連鎖でひろくひろく、内宇宙を、外世界を旅した。

 

 彼は“力”の使用には消極的で、仕事以外ではほとんど自力でなんでもやり遂げていた。

 次第に、彼に倣うものが増えていった。

 無論、積極的に“力”を利用するものもいたが、両者の間に摩擦は起こらなかった。

 

 信頼関係が築かれつつあった。

 

 リュカオーンが“方舟”で暮らすようになって四年が経った頃、オランジェに愛を告白された。


 文字ばかり……。すみません。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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