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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第七話 前世
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リュカオーン

 前世編です。多少、よみにくいかもしれませんので、細かく載せたいと思います。メンドクサイ方は、セリフだけどうぞ。笑。

      



 夜でも真昼の如く照り輝く首都ゲイアノーンの上空に、行く筋もの白い光が回転しつつ照射される。

 同時に静寂を切り裂く、余韻たなびく鋭い警報。

 身体の感覚を鈍らせるため放たれる、聴覚を破壊する音波攻撃。

 続く国家保安戦闘部隊の出動。


侵入者(スラージュ)発見!侵入者(スラージュ)発見!」

「“(ガラ・スラージュ)髪の侵入者”、現在位置、四千八番柱塔上空!」


 巨大な住居群を足元の遥か眼下に敷いて、追跡用の投光器の交差する光の帯の中央に、すらりとした体躯の若い娘がいた。

 夜陰に紛れるに相応しい全身黒一色の出で立ちで、赤い長い髪を夜風にたなびかせ、眩しそうに額に手を翳している。

 だが、その姿をとらえたのもほんの一瞬で、次の瞬間には消えていた。

 奪ったものと共に。


「だめです、消失!目標消失!(ガラ・スラージュ)髪の侵入者、見失いました!」

 

 この夜、娘が奪ったのは廃棄が決定された“気狂い能力者”九名。

 ひとでありながら、ひとでないもの。

 “能力者”。

 その烙印をおされ、異能の“力”をひとのために捧げるよう拘束、隔離され、貴重な労働力として使役されるだけ使役され、狂い、使いものにならなくなれば、廃棄される“もの”。

 ゲイアノーン、ひいてはロスカンダルの繁栄を根底から支える“もの”。

 それが彼ら、“隔離された者たち”である。


 人類と呼ばれる種がはじめの足跡をつけた時代、陸塊は北方大陸群と南方大陸群に分かれていた。

 そのうち、南方大陸群も一部がほぼ分離しており、そのため、一般には三大陸、三海に区分され、それぞれ名称がつけられていた。

 国家は大小取り合わせておよそ六百。

 大国と評される国は四十。

 中でも、ロスカンダルは栄華の頂点にあり、その首都ゲイアノーンは、あらゆる叡智を駆使し、技術の粋を惜しみなく注がれた、まさに最先端都市だった。

 十万人規模を収容する大型螺旋貝形住居がびっしりと立ち並び、交通網はなく、代わりに瞬間移動装置が完備され、使用される動力は高々と天に聳える何千万本もの柱塔から発信された。

 人々の生活に格差は少なく、治安もよく、行政も円滑、財政も安定、概ね国家の運営はうまく機能していた。

 一部の“もの”たちの、多大なる貢献のもとに。

 “能力者”たる、ひとならぬものの、犠牲のもとに。

 大黒星塔と命名された黒い円柱塔に“能力者”は収容された。

 彼らの仕事は、循環する星脈、即ち、惑星そのものから発生する元素を、自らを媒体として流用できる資源に変換するという作業で、抽出した資源はあらゆる現場で活用された。

 資源確保は都市機能を維持するためにも欠かせないもので、“能力者”は貴重な労働力として常に必要とされた。

 政府は“能力者”の数が不足しているとみると、人工増殖にのりだした。

 “能力者”は次々とクローン培養され、生産性は向上し、国力は格段に上昇した。

 一方で、“能力者”の不審死が相次いだ。

 原因は不明。

 原型が狂うと、クローン体も狂った。

 狂ったものは使用済みとして廃棄された。

 彼らに命があるとは、みなされなかった。


 娘と九人の“気狂い能力者”たちはゲイアノーンに一番近い湾の上を浮遊していた。

 真下にはチーテス海底谷と言われる深海が暗い大きな深淵の口をひらいている。

打 ち寄せる、小さな波。

 低音の海鳴り。

 夜明けはまだ遠く、海上は濃い闇に覆われ、雲間から時折射す月光の断片が波頭を白く鈍く照らし出す。


 タ ス ケ テ


 弱弱しい、だが、精一杯の絶叫が頭の中にこだまする。

 

 コ ロ シ テ


 死を目前にした哀願。“能力者”は、狂えばもう、あとがない。


 ワ タ シ ヲ カ イ ホ ウ シ テ


 娘は黙って前方に腕を突き出し、ちょっと手首を捻った。

 それで充分だった。

 娘の掌には彼らの“力”の核だけが塊として残された。

 娘はそれを腰に下げた銀糸で織った袋に納めた。

 袋のずっしりとした重みが、娘の心を苦しめた。


「リュカオーン」


 振り返ると、高い襟に袖と裾の丈の長い紫の上着に同色のズボンを穿いて、腰に長い帯を締め、ブーツを履き、左耳にだけ純正の銀輪をつけたエンデュミニオンがすぐ傍にいた。


「わざわざ迎えに来てくれたの?」

「終ったのか」

「ええ」

「帰るぞ」

 

 有無を言わさず肩を抱かれる。

 温かな、大きな手だ。不意に涙腺が緩み、涙がこぼれた。

 気配を察したエンデュミニオンの唇が寄って、柔らかな舌が眦を這い、涙を舐めとった。

 リュカオーンはくすっと笑った。


「あなた猫みたい」

「おまえは難しい女だ。泣いたかと思えばすぐ笑う。それを寄こせ、俺が預かる」


 エンデュミニオンが指差したのは腰に下げた袋だった。

 リュカオーンは首を横に振った。


「いいの。これは、いつか相応しいとき、相応しい場所に、私が葬ってあげたいの」

「そうか。だったらおまえがいいようにすればいい」

「……あなたのそういう個々の意志を尊重するところ、好きよ」

 

エンデュミニオンは無表情のままリュカオーンをひょいと片腕に抱き上げるなり、空間移動をした。彼もまた“能力者”であった。



 リュカオーンとエンデュミニオン。

 リアリと彼です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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