団欒、その夜
ちょっと、短め。
名前のつけかたは、全然、中東風じゃありませんね。すみません。
ローテ・ゲーテの室内装飾は優美で華麗、享楽的かつ頽廃的。
金銀針金細工の家具、幾何学模様、ベルベットの織物、複雑な絵画を刺繍した絨毯、たくさんのクッション、ランプ、そして乳香の薫りと、 眼も眩みそうな豪華絢爛たる世界で緻密に構成されていた。
食事時には家族全員が集う居間は、きらびやかに飾り立てられ、たっぷりとした空間がある。
いまは、遅い夕食を終え、さっさと解散したあとである。
訊けば、ローテ・ゲーテの風習で、食事後はそうなのだという。
ロキスは居間でただひとり、三階の窓辺に半身を寄りかからせて、眼下の淡く灯る夜のスライセンを眺めていた。
「……ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」
音もなく、気配もなく、煙のように現れて、適度な間合いをとって床に跪いたのは、この家の主人とその細君であった。
「キースルイ・ダーチェスター並びに、私の妻、ルマ・ダーチェスターにございます。遠路はるばるようこそお越しくださいました」
「……語学教師とは、またなんとももっともらしい口実を設けたな」
「いけませんでしたか」
「理由はなんでも。ただ俺が傍にいられればいい。ときに、あの娘は幾つになった」
「十九です」
「若いな。双子の倅は幾つだ」
「二十三です」
「その若さにしては、相当、血にまみれているな」
ロキスの無機質な眼が、キースルイに向けられる。
キースルイは微動だにせず、冷やかに微笑した。
「ここはローテ・ゲーテ、闇に生きる者たちの専属国家です。手を汚していない者などただのひとりだっていやしません」
「それにしても、尋常じゃないぞ。特に兄の方は。稼業はなんだ」
「聖徒、即ち、暗殺を主に生業としております。依頼さえあれば、世界中どこへでも行きます」
「聖職者のふりをしてか?」
「ふりではありません。れっきとした神官職に就いております。暗殺は裏の顔です」
「では弟は?」
「この町で調達屋を営んでおります」
「それは聞いた。だがそんなに流血沙汰の絶えない商売なのか?」
「蛇の道は蛇、調達と称して、色々と面倒な絡みがありますので」
ロキスは間をもたせた。
かすかに、艶やかな竪琴の調べが聴こえてくる。
「対面のときは近い」
固い沈黙のまま座す夫婦に、ロキスは告げた。
「心して待ってくれ」
さくさくさく、さくさくさく、といきたいのですが。
どうかなー。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。