暗躍
短め。
同日、同時刻。
ローテ・ゲーテ国、第三六四代リウォード王の執務室に招かれざる訪問者があった。
「――そこにいるのは誰か」
「名乗るほどの者ではないですけど、一応お知らせいたしますか。ラザ・ダーチェスターです。別に命を頂戴しに参ったわけではないので騒がないでください。騒ぐなら殺します」
「何用だ」
「いくつか訊きたいことが。二十一公主とは実在したのですか?」
「ああ」
「では滅びの竜と双頭の巨人は?」
「そんなことを訊いてどうする」
「世界が滅びの危機に瀕した、その伝承は事実ですか?」
「事実だ」
「なぜ僕の父と母は王弟夫妻についているのです? 聖徒殿卒殿者を率いる立場の二人です、本来ならば最高権力者である国王夫妻につくのが筋でしょう。それがなぜ?」
「必要であったからだ」
「では千里眼はどこです? リアリに適当な予言を下して姿をくらましたそうじゃないですか。是非にもつきとめて撤回させたいので居所を知りたいのです。僕も目下捜索中ですが、教えていただけるのであれば、手間が省けるんですけど」
リウォードは沈黙を守った。
「まあいいでしょう。また来ます。今度は首を絞めてでも答えてもらいます。ああそれと」
唐突に放たれた八本のナイフがリウォードの両頬を掠めんばかりに飛んできて、後方の壁に鈍い音をたてて突き立つ。
「リアリに手を出さないでくださいね? あなたの息子にもよく言って聞かせてください。リアリは僕のです。誰にも渡しません」
そして現れたときと同様に侵入者は掻き消えた。
国王リウォードは下顎を拭った。
汗でびっしょりだった。
凄まじい殺気の嵐によくも耐えられたと思い、首筋を撫でる。
「さすがに聖徒殿主長に見込まれた男よ」
呟きは闇に呑まれた。
同情と憐れみと共に。
甘くない話ばかり。う、重。次、次いきましょう。
エルジュ王とリアリです。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。