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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第五話 望み
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夢の知らせ

 カイザとエイドゥです。



「なんだ、ここにいたのか」

 

 カイザはリアリを最長老宅まで送り届けたあと、店に寄り、急ぎの仕事をわけて指示を与え、その足でエイドゥの工房へ赴いた。

 だが留守だった。

 自然と、足が向いた。

 そして思った通り、そこにいた。

 カイザが声をかけると、エイドゥは振り返りもせずに「うん」と言った。

 アンビヴァレント跡地、いまは瓦礫は取り除かれ、巨大な卵型の石塊が残されているのみだ。

 エイドゥは芸術家の魂が刺激されるのか、熱心に、執拗に、ぺたぺたぺたぺたと石の表面を撫でまわしている。


「この石はスバラシイね」

「どのへんがだ」

「生きているんだよ、本当に」


 カイザは、ふ、と揶揄するように笑った。


「脈でもあるのか?」

「うーん、いま、脈は聴こえないけどね、でも生きてる。間違いないのさ。なんたって、この僕の診断だからね。それに――」

「それに?」

 

 カイザの眼にきつい光が灯る。

 声の調子がやや研ぎ澄まされる。

 エイドゥがおもむろに立ち上がり、膝を払って、腰を伸ばす。


「変だね。僕はこいつらが群れて飛び交っているのを、見たことがある気がする」


 二人揃って石塊を見上げる。

 だが石塊は無論、微動だにしない。


「……頭が、な」

「うん?」

「俺は、頭が少々やられちまった。おまけに、身体もおかしい」

 

 エイドゥは飛び上がった。

 飛び上がって仰天して、カイザを横に抱きかかえたものだから、カイザもぎょっとした。


「なっ、てめぇ、なにを――」

「病院! 医術師! そうだ、レベッカがいたね!」

「違う! いいから、おろせっ」

「なにが違うんだい」

 

 カイザは遮二無二エイドゥの腕を振りほどき、冴え冴えと猛り狂う眼で睨んだ。


「お・ま・え・はぁ……」

「いたたたたた。爪、爪が首に食い込んでいるよ。絞まる、絞まるよ、カイザ」

「……ったく、このくそばか。ひとの話は最後まできけ」

「聞くとも。なんだい。頭が変になって身体がおかしいから、どうするっていうんだい」

「店をしばらく休む」

「じゃ、僕も休むよ」

「手を貸せ」

「いいよ」

 

 カイザは口をへの字に曲げた。

 眉間に皺が寄る。


「……簡単な決断だな。仕事はいいのかよ」

「簡単だよ、僕は。仕事は好きさ。寝食忘れるほど好きさ。そりゃ大好きさ。でも君の頼みを断るほどじゃあない」

 

 エイドゥは「それに」と、続けた。


「僕もだいぶ変なのさ」

 

 カイザはエイドゥと拳を突き合わせた。

 既視感。

 互いに。

 記憶の底辺に揺れる影。


「それで、なにを手伝うんだい」

 

 カイザは自分のこめかみを抑えるしぐさをした。


「俺の中の俺がな、うるせぇんだよ。なにかが来るって――」


 続きをエイドゥが継いだ。


「ははあ、わかった。船だろう。船を造りたいんだ、そうだろう?」

「ああ。なんでわかった?」

「僕も夢に見るからさ」


 カイザの表情が険しくなる。

 エイドゥの顔も当惑気味に歪んでいる。


「とっておきの悪夢だね、あれは」



 エルジュ王の出番、持ち越し。すみません。

 次話、ラザと国王。

 次次話、エルジュです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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