夢の知らせ
カイザとエイドゥです。
「なんだ、ここにいたのか」
カイザはリアリを最長老宅まで送り届けたあと、店に寄り、急ぎの仕事をわけて指示を与え、その足でエイドゥの工房へ赴いた。
だが留守だった。
自然と、足が向いた。
そして思った通り、そこにいた。
カイザが声をかけると、エイドゥは振り返りもせずに「うん」と言った。
アンビヴァレント跡地、いまは瓦礫は取り除かれ、巨大な卵型の石塊が残されているのみだ。
エイドゥは芸術家の魂が刺激されるのか、熱心に、執拗に、ぺたぺたぺたぺたと石の表面を撫でまわしている。
「この石はスバラシイね」
「どのへんがだ」
「生きているんだよ、本当に」
カイザは、ふ、と揶揄するように笑った。
「脈でもあるのか?」
「うーん、いま、脈は聴こえないけどね、でも生きてる。間違いないのさ。なんたって、この僕の診断だからね。それに――」
「それに?」
カイザの眼にきつい光が灯る。
声の調子がやや研ぎ澄まされる。
エイドゥがおもむろに立ち上がり、膝を払って、腰を伸ばす。
「変だね。僕はこいつらが群れて飛び交っているのを、見たことがある気がする」
二人揃って石塊を見上げる。
だが石塊は無論、微動だにしない。
「……頭が、な」
「うん?」
「俺は、頭が少々やられちまった。おまけに、身体もおかしい」
エイドゥは飛び上がった。
飛び上がって仰天して、カイザを横に抱きかかえたものだから、カイザもぎょっとした。
「なっ、てめぇ、なにを――」
「病院! 医術師! そうだ、レベッカがいたね!」
「違う! いいから、おろせっ」
「なにが違うんだい」
カイザは遮二無二エイドゥの腕を振りほどき、冴え冴えと猛り狂う眼で睨んだ。
「お・ま・え・はぁ……」
「いたたたたた。爪、爪が首に食い込んでいるよ。絞まる、絞まるよ、カイザ」
「……ったく、このくそばか。ひとの話は最後まできけ」
「聞くとも。なんだい。頭が変になって身体がおかしいから、どうするっていうんだい」
「店をしばらく休む」
「じゃ、僕も休むよ」
「手を貸せ」
「いいよ」
カイザは口をへの字に曲げた。
眉間に皺が寄る。
「……簡単な決断だな。仕事はいいのかよ」
「簡単だよ、僕は。仕事は好きさ。寝食忘れるほど好きさ。そりゃ大好きさ。でも君の頼みを断るほどじゃあない」
エイドゥは「それに」と、続けた。
「僕もだいぶ変なのさ」
カイザはエイドゥと拳を突き合わせた。
既視感。
互いに。
記憶の底辺に揺れる影。
「それで、なにを手伝うんだい」
カイザは自分のこめかみを抑えるしぐさをした。
「俺の中の俺がな、うるせぇんだよ。なにかが来るって――」
続きをエイドゥが継いだ。
「ははあ、わかった。船だろう。船を造りたいんだ、そうだろう?」
「ああ。なんでわかった?」
「僕も夢に見るからさ」
カイザの表情が険しくなる。
エイドゥの顔も当惑気味に歪んでいる。
「とっておきの悪夢だね、あれは」
エルジュ王の出番、持ち越し。すみません。
次話、ラザと国王。
次次話、エルジュです。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。