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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第一話 城下町(カスバ)にて
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家族団欒

 とりあえず、顔みせということで、皆勝手にしゃべってます。

 


 “アンビヴァレント”は三階が住居部分になっていて、食事は居間で、お客と家族全員でとるのが決まりなのだと教えられた。


 食事前の歓談の席で、ロキスは“アンビヴァレント”の主人であるキースルイ・ダーチェスターとその妻、ルマ・ダーチェスターに挨拶を済ませた。

 そしてあとを、娘リアリが引き取った。


「紹介します。“アンビヴァレント”の受付嬢でべスティア・ノーチェ、支配人のナーシル・グラトリエーレ、仲裁人でグエン・アルヒスタ、経理担当パドゥーシカ・アートです」

「ベスとお呼びください。わたし、はっきり申し上げて、リアリ様にぞっこん惚れぬいておりますの。そこのところ、よろしくお願いいたします」

「ナーシルで結構でございます。私、時間厳守、時間厳守、時間厳守をモットーにしております。お客様にも徹底していただきたいものです。守れなかった場合、鞭と長槍と鍋を用意させていただきます。どれをお選びになられてもよろしいですが、少々痛い目をみますので、ご覚悟のほどを」

「グエンだ。あー……俺、ひとの顔を憶えるの苦手なんだよなぁ。もし間違ってばっさりやっちゃったら悪いな、ごめんな、すまんが諦めてくれ」

「パドゥーシカ、パドゥで結構です。わたくしお嬢様とお金のためならば労苦を厭いません。ええ、もうなんでもします。狼藉者の折檻や不届き者の成敗などは、喜んでやります。ええ、そりゃもう悦んで! ね、お嬢様! わたくし頑張っておりますわよね!」

「……」と、リアリ。

「……」と、ロキス。

 

 間。


「どうも。ロキス・ローヴェルです。えー、しばらくよろしく……」

 

 あまりよろしくしたくない連中を前に、ホンネはともかく、タテマエとして、ロキスは棒読みで挨拶を終えた。

 リアリは次にいった。

 カイザと押し問答中のラザの後ろに隠れるように、だが、しっかり、ちゃっかり、居場所を確保している男を引き摺り出す。


「レニアス、挨拶して。サングラスは外しなさい」

「え。いや、でも」

「ローヴェルさんは大丈夫」

「……わかったよ」

 

 男も聖徒だった。

 双子の兄弟より僅かに背は高いのだが、姿勢が悪い。

 せっかくの白い聖服のかもし出す清冽な印象が半減してしまっている。

 なにより、眼帯をつけている上に、更に黒いサングラスをかけていた。

 あれでは前が見にくいだろう、とロキスが思ったとき、男はそれを外しながら顔をあげた。


「どうも、俺、レニアス・ギュラスと……ぎゃーっ」


 絶叫。

 踵を返して猛然と逃げ出した。

 止める間もなく、壁に激突。ものすごい音をたてて、ひっくり返った。

 一瞬、なにが起こったのかわからず、ロキスは唖然としていたが、慌てて走り寄った。


「だ、大丈夫か」

「――あ。だめよ、近づかないで!」

「え?」

 

 リアリの注意は遅かった。

 不意に腕を掴まれたので、ロキスは視線を戻した。

 大の字にのびていた男が、やにわにむっくり上体を起こし、ずい、とロキスに迫った。


「……きれいだ……」

 

 瞬きのない眼で凝視され、ロキスは怯んだ。


「な、なんだって?」

「……ヤバイ。なんでも言うことをききたくなる……!」

「は?」

「俺はあなたさまの下僕です! さあ、なんなりとご命令を!!」

 

 容赦なく、殴り倒したのは双子兄、ラザだった。


「……まったく、見境のない」

 

 そして足蹴にしながら、


「いつまで転がっているんです。いいかげん起きなさい。殺しますよ」

「……お嬢、ひでぇよ。大丈夫って言ったじゃねぇか。俺、信じたのに……」

「リアリのせいではありません。君がおかしいのです。その偏執狂を治しなさいと百万回は言っているでしょう。なんとかなさい、なんとか。危なくて連れて歩けないじゃありませんか」

「治せるものなら治したいけどさあ、治らねぇんだってー。見捨てないでくれよー。ラザに捨てられたら、俺、なにするかわからないぞ? 置いていかれてもなにするかわからねぇ。だからさ、危なくても連れて歩いた方が賢明だって。な?」

「『な?』じゃありませんよ。僕は足手まといな男はいりません。いざとなったら叩き斬ります。美形恐怖症のくせに、美形を見たら奴隷化するだなんて、めんどくさい。君が僕に絶対の忠誠を誓っていなければいますぐに殺してやるものを。ああ、苛々します……」

「兄貴ができないなら、俺が殺してやるよ! タダで!!」


 カイザはうきうきと短刀を引き抜き、振りかざした。

 ラザの返答を待たずに、一気に襲いかかる。たちまち、取っ組み合いの喧嘩がはじまる。

 リアリはロキスを安全圏に避難させた。

 この態度からすると、どうやらいつものことらしい。


「騒々しくてすいません。彼がレニアス・ギュラスです。ラザの金魚のフン……じゃなかった、オトモダチです。あとカイザのオトモダチもいるんですが、今日は仕事があるみたいでこれないようなので、また明日にでも紹介しますね」

 

 そして、賑やかこの上ない夕食の席で、ロキスはあたたかく迎え入れられた。


 ご飯は家族全員そろって食べる派です。うちもそう。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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