手をつないで
甘っ。
ベタです。べたべたです。嫌いな方はご遠慮ください。
「それ、ひとつください」
ラザは買い求めたレモンの氷菓子をリアリにやった。
薄いガラスの器にレモン味の角氷が盛られている。
柄の長い木製のスプーンと一緒に、素直にリアリは受け取った。
「ありがと」
「先に一口ください」
「毒味?」
「味見」
リアリの肩を抱いたままのラザの口元へ、角氷をのせたスプーンを運ぶ。
朱の舌を覗かせて、ラザが氷を口に含む。
「どう?」
「まあまあです」
くすくす笑いながらリアリも氷を口に含む。
「冷たくておいしい」
「髪が」
肩からラザの手が離れ、リアリの髪を一筋梳いて、耳にかける所作をする。
ベールの乱れを直し、またやわらかく抱き寄せられる。
「この七日間、なにしていたの?」
「どうしてあなたを懲らしめたものか考えていました」
「懲らしめ……って、は? なんでよ」
「『なんで』? あなた、僕の目の前で他の男のためにあんなに取り乱しておいて、僕がなんとも思わないとでも?」
リアリは睨まれた恐怖から、眼を落とし、手元の氷をざくざく割った。
「だ、だって相手はカイザじゃない」
「たとえあなたがどんなつもりでも、弟でも不愉快です。相手がカイザでなければやってました」
「なにを」
「ちょっと、嫉妬のあまり無差別殺戮を」
思わず顔を上げる。
「……やめてね?」
聖徒の表の顔そのままに、聖人君子の如き静かな微笑みを浮かべたラザを、心底恐ろしい、とリアリは思った。
次があれば、やる。
確実にやる。
やるったらやるだろう。
この美しい危険な男に、二言はない。
どうたしなめたものか言葉に窮していると、ラザが通りすがりの花売りからローテ・ゲーテ国産の薄紅の薔薇を一輪買って、器用に細工し、リアリの髪に挿した。
「きれいです」
「……ありがと」
「見なさい。あなたがあんまりきれいだから、まわりの男たちの眼のもの欲しそうなこと。ああ苛々します。皆殺しにしてやりたいです」
「ちょっと」
「でもそんなあなたを僕が独り占めしていると見せつけるのは、いい気分です」
そして、ちゅ、と額に口づけする。
こんなことは日常茶飯事なはずなのに、不覚にもリアリはときめいた。
胸がいっぱいになって、切なさと苦しさに心臓がぎゅうっと縛られる。
「あのね」
「はい?」
「手をつないで歩きたい」
「は?」
珍しく、ラザがきょとん、とする。
なのでリアリは急に恥ずかしくなった。
「や、やっぱり、いい。やめる。ごめん、変なこと言って」
だが、素早く手をとられて、握り締められる。
「手ぐらい、いくらでも貸します。僕のすべてはあなたのものですから、遠慮なく言ってください」
柄にもなく顔が火照るのを感じた。
リアリは結ばれた手を見て子供のように笑い、嬉しさのあまり、身体を擦り寄せてラザの頬に軽くキスした。
「好きよ」
「……あなた、こんな往来で僕を煽ってなにをさせたいんです。まったく、どうしたんですか。今日のあなたはかわいすぎます。そんなに僕をおかしくさせたいんですか」
「だって、うれしいの」
リアリの脳裏をここ連日繰り返しみる夢が過ぎる。
こまかいところまで憶えていないのがまた癪に障るのだが、あまりいい夢でないことは確かだ。
不安。恐怖。孤独。寂寞。
そして、暗転――。
なぜかわからないが、漠然としたなにかが、近づいてきているような気がする。
「こうして、ラザがいて、普通に肩を並べて歩けることがうれしいのよ」
「僕はいつでもあなたの傍にいます」
「うん」
「氷、早く食べないと溶けますよ」
「じゃ、手伝って」
もう一話、デート編が続きます。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。