訪問者
長いので、わけました。
すみませんが、次話と続けてお読みください。
リアリが聖徒殿へ出かけた頃、ディックランゲア王子は溜まりに溜まった仕事を片端から片付けていた。
書類仕事はもとより、他宮への伝達、山のような面会者、諸外国よりの来客の歓迎式典、会議に次ぐ会議、定期教会訪問、定期孤児院訪問、貴族昼食会、そして相次ぐ見舞の訪問客への対処と礼と挨拶状の原文作成など、やることは尽きなかった。
「アレクセイ」
「なんでしょう、王子」
「私は休む」
「では私もご一緒します」
「おまえまで休んだら誰がこの山積みの定期報告書に眼を通すのだ」
「でも私だって王子とお茶を飲みたいです! いいじゃありませんか、ちょっとくらい」
王子は喚き立てるアレクセイ・ヴィトラの両肩に手を置いた。
「私が大事をとって伏せっていたあいだ、超人的に働いてくれたことに感謝する。私の代わりを務められるなど、他の人間には任せられぬことだからな。おまえだから許せたこと、おまえゆえにこなせたことなのだ。そうだろう?」
「もちろんです。王子のためなら私は骨身を惜しみません」
「頼もしい男だ。さすがは私の右腕だ」
「もちろんです! 私こそ、この私こそ、王子の右腕! 頼もしい右腕です!」
「ああそうだ。いまから私は少し抜けるが、あとを頼めるな?」
「お任せを」
「よし。では行ってくる」
しゃあしゃあと言いくるめて、王子は執務室を出た。
カイザ・ダーチェスターは絶対安静のレッテルをまだ貼られたままでいた。
だがおとなしくじっと休んでいる性分でも、またそれを許されるような立場でもなく、意識が回復してからこちら、王城の医務室には連日連夜ひっきりなしにひとが詰めかけていた。
定期報告と時事報告と決済、処分、仕事の受注、依頼状況、進捗状況、問題解決、懸念事項、途中経過、完了報告。
次から次へ、入れ替わり立ち替わり、出入りは尽きなかった。
加えて、長老連も集団で訪れた。
見舞いかと思いきや、説教がはじまり、それは延々と続いた。
しまいには「嫁をとれ」とはじまった。
「そちもいい歳なのだ。嫁の二人や三人いてもおかしくあるまい」
「そろそろ後継ぎをもうけなくては、万が一今回のようにそちがうっかりやられたならば、スラムは統率者を欠いてばらばらになるぞ」
「そうじゃそうじゃ。このたびは我々が老体に鞭を打って諸々の便宜を図ったが、今後のためにも早いとこ嫁と後継ぎは必要だろうて」
カイザが身動き取れぬことをいいことに、長老たちはカイザをここぞとばかりに攻め立てた。
まだまだ続きそうな気配にカイザは死んだふりでもしようかと真剣に考えはじめたとき、医務室に来客があった。
長い人生でいっぺんくらいは、やってみたいですね、死んだふり。
あれ? 一句詠んだ感じに似てるー。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。