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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第四話 我儘に、我がままに
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デートのお誘い

 ちょっと長めですね。

「“アンビヴァレント”を再開するわよ」


 リアリの一言で「待っていました!」とばかりに、ナーシル、グエン、パドゥーシカ、ベスティアは欲の突っ張った、計算深い目になった。


「全体的な指揮はナーシル、任せるわ。パドゥは補佐を。私はもうちょっとだけ身体があかないけど、カイザの様子を見て復帰するから。それまで準備万端に整えてちょうだい。頼んだわ」

「はい。派手にやって、いいんですよね?」

 

 ナーシルの眼が商魂に燃える。


「いい。好きに使えって言ったのは王弟殿下よ、好きにさせてもらおうじゃないの」


 リアリは鼻を鳴らして言った。凶悪な顔をしているのが自分でもわかった。


「それから、皆しばらく単独行動は控えて。(カスバ)下町に変な連中が出入りしているって報告が続いているのよ。怪しいのを見かけたら、できるだけ大勢でとっ捕まえてちょうだい。あ、それと、レベッカもひとりで買い物とか行かせないで。ナーシル、あんた必ずついていって、荷物持ちでも護衛でもなんでもしてよ」

「言われずとも」

 

 涼しい顔でナーシルは引き受けた。

 だがグエンなどは、にやにやしながら、肘でナーシルをどついている。

 

 結局、なし崩し的にダーチェスター一家が王城で寝起きをするようになって、六日が経った。

 出血多量で一時危篤まで陥ったカイザとエイドゥを除いては、“アンビヴァレント”のメンバーは完全復帰し、リアリの号令通り、営業再開に向けて着々と準備を進めた。

 

 リアリは三日三晩、医術師レベッカの助手を務め、不眠不休でカイザとエイドゥの看病にあたった。

 加えて、非常に不本意ながらも、王子ディックランゲアの要請により、二十一カ国中第一位の国、ルクトール、エルジュ王の面倒もちょくちょく看ていた。

 カイザとエイドゥの怪我の顛末を知る皆は激怒したが、リアリは我慢した。

 なぜならば、裏取引をしたからで、ラザの王城での猟奇的犯行を不問に付すというのだから、仕方なかった。

 また、それを頼んできた王子も不満がありそうで、渋々やむなくといった様子から推し量れば、王子もまたエルジュ王の押しに負けたのだろう。


 そんなこんなで、この六日間、リアリは大奮闘だった。

 そして倒れるように睡眠を貪り、また例の夢を見て叫びながら眼を覚ましたとき、冷たい寂寥感にみまわれた。

 ふと、気づけば。

 ラザともうずっと会っていない。


 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)

 主神ナーランダーを奉る本神殿と巡礼者たちのための屋外広場、清めの泉、歴代の聖徒の中でも誉れ高き偉人たちの聖墓廟、そして聖徒のための宿舎で構成されている。

 一般の巡礼者たちの立ち入りは、特別な祭礼月を除いては屋外広場以外は原則禁止されている。

 無論聖徒の宿舎も同様で、きちんと申請をしなければ面会は出来なかった。

 リアリは宿舎の手前に設けられた休憩所で申請が通るのを待っていた。

 

 どうしても一目会いたい。

 

 ラザが聖徒の上一位になってある程度の自由が利くようになってからは、出張や遠征などで遠出するとき以外は、少なくとも日に一度、ときには何日も、時間の許す限り一緒にいてくれた。

 七日も無連絡で一度も顔を出さないなんてなかったことだ。

 なにかあったの?

 それとも、怒っているのかもしれない……。

 ここ最近の環境の変化、状況の変化、立場の変化は劇的で、いまだリアリ自身ついていっていない感があるのだが、ラザにしてみればおもしろくないことの連続だったに違いない。

 怒り狂うあまり、不貞腐れて、拗ねて、悩ましげに引きこもっているのかも知れない。

 だが。

 もしそのどれでもなければ。

 ラザはなにをしているのだろう?

 リアリは焦燥感にかられた眼で白亜の壮麗な本神殿を見上げた。

 かすかに祈祷の唱和が聴こえてくる。

 溜息が洩れる。

 視線を屋外広場へと流す。

 純白の石畳が敷き詰められた広場には早朝の透けるように柔らかな光が射して、きらきらと輝いている。

 既に厳かな振る舞いの巡礼者の人波が広場を埋めはじめ、聖徒でも下位の者が本神殿の周囲の清掃や泉の管理などのため忙しく動き回っていた。

 見るともなくそれらの様子を見ていると、不意を衝かれた。

 顔を覆っていた半仮面を外されたのだ。


「他の男をそんなに熱心に見ないでください」

「――ラザ」

「どうしました?あなたがここへ来るなんて珍しいですね。シュラはどうしたんです?」

「正門前でライラとマジュヌーンの面倒をみてもらってる。獣は中に入れないから」

「それで、ひとりで?」

 

 ラザの眼が剣呑に光る。

 リアリは負けじと言い返した。


「大丈夫よ、私だって子供じゃないわ。丸腰でも不用心でもないし、私のナイフの腕は知っているでしょう?」

「だめです。僕といるとき以外は決してひとりにならないでください。ただでさえ、いまあなたのまわりは色々と騒々しいのだから。僕は心配なんです。あなたがこんなふうに無防備だと、おちおち仕事もしていられません。いつまた変な男に手を出されたり、さらわれるかと思うと気が気じゃない。リアリ、聞いているのですか」

「聞いてるわよ。あの……仕事だったの?ずっと仕事で、だから、顔を見せなかったの?」

「まあそうです。僕がいなくて、寂しかったですか?」

「なによ。にやにやして。私、心配したんだから!」

「あなたが愛している男は誰なのか、再認識してもらえました?」

「そんなのラザだけよ。昔からずっとあんたひとりだわ。知っているくせに」


 ラザはリアリの頬に手をあて、軽くキスした。

 温もりも、吐息も、キスの癖も、いつものラザのものだった。


「さて、ではデートにでもいきますか。どこか行きたい場所などあります?僕、食事がまだなのでどこかでおいしいものでも食べましょう。どこがいいです?」

「え、ちょっと、呼び出しておいてなんだけど、あんた仕事の途中じゃないの?」

「あとまわしです。いいんです、別に。僕、このところ忙しくて忙しくて忙しくて忙しくて。ちょっと働きすぎです。休みます。あなたと食事して、デートして、一休みして、それから帰ります。レニアス!いますか」

 

 いつのまにか休憩所の隅に待機していたレニアス・ギュラスが現れた。

 相変わらず、眼帯の上から黒いサングラスをかけている。


「ここにいるよ」

「一緒に来なさい。でも僕とリアリの邪魔をしないように。いいですね」

「わかった。けど、お嬢の半仮面なんで外すわけ?俺、うっかり直視したらやばいんだけど。いまもぎりっぎり、崖っぷち。もうなんでもいうことききたくて苛々してきた。くそっ。背筋がざわざわする」

「あっち向いてなさいよ。でもそうね、仮面を剥ぐなんてどうしたの?いつもは絶対に人前で取るなって口うるさいくせに」

「心境の変化です。僕と一緒のときは仮面を外していてください。あなたが誰のものなのか、万人に知らしめたいんです。あなたに手を出せばどうなるか、誰を敵に回すことになるのか、はっきりさせておきましょう。というわけで、今日はこれ、僕が預かっておきますね。で、どこに行きます?」

「いいけど……じゃあ、スイランのお店で食事してから、鳥類緑園でも行きましょうよ」

「いいですよ」

 

 ラザの腕がリアリの肩にまわされ、軽く抱き寄せられる。

 そのぬくもりと、ラザの匂いにほっとする。

 何日ぶりかで心休まる感じがした。


「そうだ、ねぇ、あんたヒューライアーって赤ずくめの魔法使い、どうしたの? 簀巻きにしてさらって、そのあとは? ルクトール王がそろそろ帰してほしいって言ってるんだけど、まさか殺してはいないわよね? 私、止めたわよね? 拷問はこっぴどくやってもいいっていったけど、殺しはだめって、言ったわよね?」

「一応、生きていますよ」

「よかった」

「条件次第では帰してやってもいいです。まあ、こんな野暮な話はあとです。せっかくのデートに無粋ですよ。さて、では行きましょうか」


 デート、続きます。というか、間に一話、挟まるかも。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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