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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第一話 城下町(カスバ)にて
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仮面の娘と危険な双生児

 少々長めになってしまいましたが、ご勘弁を。

 この物語は、タイトルが千夜千夜~などとちょっとアレですが、千夜一夜物語、俗に言うアラビアンナイトとはまったく通じるものがありません。ただ、中東風、あくまでも、ふう、という感じでお願いいたします。

 

 ロキスがローテ・ゲーテ国東側の入り口であるデメリ港に入港したとき、王都スライセンは金色の西日を浴びていた。

 商人や貿易商、船員や観光客で賑わう港町で、愛馬の検閲と入国手続きを済ませ、一路城下(カス)()へ向かう。

 

 途中、自分の服装が人目を惹くことに気づき着替えた。

 タウブと呼ばれるゆったりした長い着物にしようか悩んだ。

 結局、ファニッラと呼ばれる木綿のシャツとフータという輪になった丈の長いスカート状のものを腰から下に巻きつけた。

 シャツもフータも青い染料で染められたものを選ぶ。

 今年の流行色だそうで、フータの上にヒザームというベルトを装着した。

 かぶりものには、カフィエという白いキャップ。

 次に黒と灰色の幾何学模様のアフラームという四角布を三角形の二つ折りにしてカフィエの上にかぶり、二重になった黒い輪、イカールをはめこむ。

 お世辞にも着こなしはいまひとつだ。

 自分でもしっくりこないことはわかっていたが、ひとまず、雑踏に溶け込むことに成功したのでロキスは満足した。

  

 到着したときには、カスバは赤茶と紫の残照に沈みつつあった。

 芳しくも馴染みの薄い乳香の芳香がどこからか漂い鼻孔をくすぐる。

 竪琴の音色と艶っぽい恋歌があちこちから聞こえてくる。

 娯楽観光都市という看板を掲げるだけあって、ぱっと見だけでも遊戯施設満載。

 どこもかしこも土産物屋だらけ、観光客は目白押し、大道芸人や呼びこみ、物売りが多く、夜を間近に控えていると言うのに活気はまるで衰える気配がない。

 簡素なテント張りの市場はほとんど店じまいし、昼間とは別の顔があらわれつつあった。

 ロキスは夕陽を眺めながら、水煙草を吸う男性に声をかけて目指す店の場所を訊ねた。


「――アンビヴァレント? あんた、店の客かね? それとも家人の客かね?」

「家人の客です」

「それなら息子に案内させよう。セキム! お嬢さんのお客人だ。丁重にご案内して差し上げろ」

 

 まだ十代半ばくらいの少年が現れて頷く。

 ロキスの荷物を運ぶのを手伝ってくれた。

 

「通りを挟んだ向こうに見えるのが王都の治安を総括する軍司令部で、その先にある螺旋状の外階段のある(ジグラット)が治安監視塔です」

 

 そしてカスバでも王城が見える中心部にその店はあった。

 “アンビヴァレント”。

 意味を訊くと、セキムは簡潔に答えてくれた。


「愛憎表裏一体」

「……へー」

 

 建物は円形の三階建てで、テラコッタに白の漆喰が施され、ファサードには滅びの(ゼクト・ラーレ)と戦う双頭の巨人(ゾルベット・トール)の見事なレリーフが彫刻されていた。

 玄関前には鮮やかな色彩のモザイク・タイル。

 二本の巨大な大理石の柱が天を衝くように聳えている。

 白亜の支柱横には黄色と黒のふさふさした毛並みも見事な体長ニブレーマ(一ブレーマはおよそ一メートル)の砂漠虎のおきものが二頭、忠犬のようにびしっ、と待ての姿勢を保って置かれている。

 店の看板はない。

 代わりに、店名を彫った御影石の石板が玄関脇に据え付けられていた。

 ロキスはどれもこれも高そうだ、と思いながら少年に礼を言って別れようとした。

 だがそのとき、町中に甲高い笛の音が幾重にも連鎖して響き渡った。

 

 突然、ロキスの目の前で玄関扉がバンッと開かれた。

 中から黒の半仮面をつけ、真紅のタウブを纏い、真紅のベールをかぶって、黒い履物を履いた若い娘が飛び出して来る。


「あんた邪魔! 退いて! ――おいで、ライラ!」

 

 ロキスは仰天した。

 おきものと思っていた砂漠虎が一声唸ってしなやかな動きでするりと脇を駆け抜け、娘にぴたりと寄り添った。

 娘は手にしていた手綱を慣れた手つきで胴体に装着し、軽やかにその背に飛び乗る。


「マジュヌーン、来い」


 更にもう一頭の砂漠虎が呼ばれて、やや娘に遅れるも同じ所作で背に跨ったのは、黒と灰色のかぶりものに黒と灰色のタウブを着た灰色の眼と髪の瘦身の男だった。

 娘と男は砂漠虎共々に対になって、人の往来激しい街路に出るや、ぎゅうぎゅうにひしめく住居群の壁をジグザグに蹴りながら、あっという間に屋根にあがり、そのまま文字通り空を駆って、姿を消した。

 ロキスは、衝動的にあとを追った。

  

 愛馬を操り、ひとびとの怒号を浴びながら、二人が姿を消した方面へ急ぐ。

 ロキスが二人に追いついたときには、既に決着がついたあとだった。

 表参道から中小路に入った住宅街の隅の一角にひとがたまり、中心に真紅の衣装の娘がいた。

 後ろ手に縛り地面に転がした男の胸倉を掴み、往復びんたを何発も食らわせ、しまいには胸をどついて足蹴にした。

 

「あんたね、このローテ・ゲーテで年寄りを敬い、子供を大切にできない人間の末路がどんなものかわかってんの? あちこち警告板もあるし、ちゃんと観光ガイド本にも掲載されているでしょうが。それなのに、じーさまを襲って怪我させて身ぐるみ剥いで恐喝したですって? 許し難いにもほどがあるわよ? ええ?」

「うるせぇ! どけよ、このブサイクがっ」

 

 場が凍った。

 だが、一瞬後に解凍される。


「……へーぇ、そういう態度なの」

 

 娘の一声途絶えないうちに、まわりが一挙に騒々しくなる。


「ブサイクだとお? このくそ野郎が、なんてこと言いやがるんだ」

「お嬢、俺たちに任せてくださいよ」

「そうね、丁重におもてなししてやって」

 

 娘は男に向かい、無情な調子で言い捨てた。


「これからあんたは剥かれて、鞭で打たれて、茹でて、炙られて、塩を塗って埋められる。渇ききるまで出られないからね、地中で自分の愚かさを反省しなさいよ。うちには拷問の達人が揃っているから指名はよりどりみどり、普通なら金を取るんだけど、あんたは献血で勘弁してやるわ。半分くらいは抜いてやる。あ、このばか気絶した。くっそ、仕方ないわね、誰か、司令部に捕縛の一報を入れてちょうだい。それからカイザのところまで運んでくれる? あとで寄るわ」

「お嬢、見知らぬ野郎がいますぜ」

 

 それが自分のことだと、ロキスはただちにわかった。

 視線がこちらに一点集中したのだ。

 娘が怪訝そうな表情を浮かべて首を傾げる。

 大の男を殴り飛ばし、足蹴にしたとは思えないほど、可憐なしぐさだった。


「あんた、さっきの。ついてきたの?」

「はあ、まあ、なんとなく」

「……へぇ。ライラの足についてくるとはやるじゃない。それで、なんの用? 仕事の依頼? 苦情? それとも暗殺? 決闘? まさか誘惑? 愛の告白じゃないでしょうね」

 

 最後のひとことに、その場にいたすべての男が殺気だった。

 露骨に懐や袖口に手を差し入れ隠し武器を取り出したり、腰の短剣をこれみよがしに引き抜く。

 威嚇のようでいて威嚇じゃないことは、退路を断たれたことで確定した。

 

「あー、待った待った。俺、怪しいものじゃないんだ」

  

 弁明は聞き流された。

 男たちは徐々に包囲の輪を狭めてくる。


「怪しくなくともお嬢に近づく野郎は殺す」

「ばらす」

「焼く」

「砕く」

「撒く」

 

 ロキスは自分が殺されて、切断されて、火葬されて、骨を木っ端みじんにされて、灰を撒かれるところを想像した。ちょっと気持ち悪くなった。

 娘に眼をやる。

 すらっと背が高い。

 細身だが、華奢ではなく、胸もあり腰もくびれて、全体的にメリハリがある。

 顔は半仮面のせいで美醜の判別がつけがたいが、瞳はいままでみたことのない美しい碧青で、長い髪は甘い金色、肌は砂漠国家の住人にしては不可解なほど白い。

 男たちの血気逸った態度からしても、おそらく美しいのだろう。


「さっさと素性を言った方が身のためだと思うけど? この町の連中は気が短いのよ。おまけに手も早いしね。有言実行が信条だし、下手に隠し立てしてもいいことないわ」

 

 傍に従える砂漠虎の頭を撫でながら、娘は言った。

 成り行きを面白がっているようで余裕がある。

 そして堂々たる悪辣な雰囲気が妙に相応しい。

 ロキスはくっと笑った。

 どうも想像とかけ離れていたが、間違いない。

 彼女がそうだ。

 この時代の担い手のひとり――逃れられない過酷な宿命のもとに生まれたひとりなのだ。


「あんた誰」

「俺はロキス・ローヴェル」

 

 ロキスは笑いをおさめて名乗った。


「あんたの語学教師さ」

「明日来る予定の?」

「そう。船の航行が順調にいって一日早く着いた。いきなりで悪いかなとも思ったんだが、さっそく寄ったら、あんたが飛び出して来たから――なにかまずいことでも起きたのかと。俺は役にはたてなかったけど、ま、無事でなによりだよ」

 

 すると、娘の態度が慎ましく、恭しいものに変わった。


「皆、待って。そのひと、父のお客人だわ。ロキス・ローヴェルさん、さきほどは失礼な口をきいて申し訳ありません。娘のリアリ・ダーチェスターです。ようこそローテ・ゲーテへ。お迎えもできず、すみませんでした」

「いや、俺こそとんだ挨拶になってしまい申し訳ない」


 言って、ロキスはリアリの手を取り、軽く抱き寄せて左右の頬にキスをした。

 その瞬間、背後から鋭く風を断つ異音がして、ロキスは振り向いた。

 六本のナイフが飛んでくる。

 咄嗟に背にリアリを庇った。

 同時に灰色の眼と髪の男が素早く動き、抜いた短剣で、飛来したナイフをすべて叩き落とす。

 ロキスがひとまず安堵したのも束の間のこと、空気が物々しく、冷たく、重く、ぴん、と張りつめた。

  

 そこには夕闇に溶けるように佇む二つの影があった。

 

 どちらも完全な八頭身で、頭上に薄紫の陰影を射した雲の切片と夜の帳を頂いている。

 ひとりは聖徒(ビリー・ヴァ・ザ・リア)殿の真っ白な聖服聖帽を着用していた。

 くるぶしまで届くほど長いサーキュラー・コートにウィンド・カフス、高い襟、ぴったりと閉じられた前身頃は鋭角的で、左胸に青い糸で巨人の眼の紋章が施されている。

 目深にかぶる帽子にも、鍔に同じ紋章がある。

 どこか、滑空する燕を思わせる出で立ちで、とても聖職者には見えない。

 もうひとりは黒いカフィエ、アフラーム、イカールをかぶり、黒いタウブを纏い、黒いヒザームを締めて、腰に佩いた剣の鞘も柄も黒、黒い履物を履いている。


「――ラザ! カイザ!」

 

 ロキスの腕の中のリアリがびっくりしたようにそう叫んだときには、その場にいた他な者は不道徳者を連れてクモの子を散らすように解散した。

 あとには、ロキスとリアリ、灰色の眼と髪の男と、砂漠虎が二頭残るのみだった。

 

 大股に近づいてきた白い聖徒と黒の衣装の男の顔を見て、ロキスは軽く眼を瞠った。

 聖徒の方が白い眼帯で左眼を覆ってはいるものの、二人の男の顔はまったく同じつくりだったのだ。

 一卵性双生児、それも、とりわけ女性が好む柔和さと冷淡さを兼ね添えた顔だ。

 明灰色の眼に明灰色の髪、聖徒の方がやや長めでひとつに束ねている。

 最初に口を利いたのは、邪悪に瞳を怒らせた聖徒の方だった。


「リアリを放しなさい。殺しますよ」

「お嬢を放せ。ぶっ殺すぞ」 

  

 二人は絶対零度の声でそう告げて、揃ってロキスを見下ろした。


「あ。ち、違うの」


 慌てた様子で、リアリが身動ぎし、ロキスの腕を振りほどく。

 聖徒の左腕が一瞬にして伸びてリアリの腰をさらい、がっちりと抱え込んだ。


「どこのどなたか知りませんが、リアリは僕の恋人です。勝手に触らないでください。不愉快です。不愉快極まりないです。ええ、不愉快ったら不愉快です。極限です」

「そうだ。お嬢に手ェだすなんざ許せねえ。兄貴、始末は俺に任せろよ。煮て焼いてばらして食ってやる。いや、臼で粉に挽くのもいいな。どっちがいい、兄貴?」

「ラ、ラザ、カイザも、落ち着いて。ね?」

「落ち着いていますよー? 久しぶりの帰省なのにあなたはいないわ、カイザもいないわ、誰もいないわ、出迎えもないわ、事情はわからないわ、訊けば、警笛に呼ばれて飛んで行ったというので、わざわざ迎えに来てみれば、挙句この仕打ち。よくも他の男にあんな真似を許したものです。でも僕は落ち着いています。ひと暴れしたいくらい余裕があります。さすが僕です」

「さすが兄貴! 余裕だな! 余裕がある兄貴は恰好いいぜ! 俺なんてお嬢が変な男に尾けられながら出動したって聞いたからさあ、仕事放っぽりだして慌ててあとを追いかけたのはいいけど、間に合わなかったし。変な奴に変なことされる前に止められなくてごめんなー。お嬢もごめんなー。俺、役立たずで。でも存在抹消は得意だから! きっちり跡形もなく消してやるから!」

「だから、落ち着けって言ってんの! このひと、うちのお客人よ。さっきの抱擁は単なる挨拶、ね? ね?」

「ああ。そのつもりだったんだが、すまん、気に障ったのならもうしない」

「ほら! ね、もうしないって言っているし、許してあげて」

「いやです。許すなんて項目は僕の辞書にありません」

「兄貴がいやなら俺もいやだ。第一、温情なんて兄貴に似合わねぇよ」

「そうです。僕にそんなものありません。ただ、僕が、この僕が、我慢してあげてもいいです。リアリ、あなたに免じて耐えてあげてもいい。本当は殺したいですが殺しません。本当はなぶり殺したいですがしません。本当は八つ裂きにして苦しめて殺したいですがしません。どうです? 僕はエライでしょう? 優しいでしょう?」

「エライぜ! 優しいぜ! さすがに兄貴だぜ! 俺なら絶対殺す。なにがなんでも殺す。兄貴がここにいなかったらいちもにもなく殺す。ぶっ殺す。ってゆーか、殺したい」

「待ちなさい、カイザ。それはリアリの返答しだいですよ。ね、リアリ」

「……なにをさせようって言うのよ」

「お帰りなさいのキスをください」

「……ここで?」

「別にいいでしょう。僕はいつでもどこでもかまいません」

「私はかまう」

「俺もかまう。だって、それ、兄貴にだけだろ? 俺は? なあ俺は?」

「カイザは、頭でも撫でてもらいなさい。それ以上はたとえ弟でも許しません」

「え、それ、ライラと一緒の扱いじゃん……くっそ、でもまあいいや。撫でてくれ、お嬢」

 

 ロキスは色々な意味で口出しができなかった。

 リアリは諦めたように溜め息をついて、身を屈めた黒装束の図体のでかい男の頭を撫でたあと、聖徒に向きなおった。


「……キスだけよ?」

「ええ。続きはあとでしましょう」


 なにをだ。

 と、ロキスは突っ込みたかったが、どうも自分の生命がかかっているらしいので、やめておいた。

 リアリの手が聖徒の男の顔を優しく包み、ちょっと背伸びして、唇を重ねると、男はそのままリアリをひょいと腕に抱きあげた。


「じゃ、帰りましょうか。カイザ、行きましょう」

「ちょっと待ちなさいよ。露骨に無視するんじゃないの。子供じゃないんだから、ラザもカイザもきちんと挨拶してちょうだい」

「僕には関係ないです」

「俺もない」

 

 リアリが、大の男二人に睨みをきかす。その迫力はそんじょそこらの小娘のものではない。 

 どすの利いた声といい、眼つきの悪さといい、実に堂に入っている。


「あるでしょ。第一、うちに滞在してもらうのよ。はじめの挨拶くらいして。あなたもよ、シュラ」

 

 灰色の眼と灰色の髪の男は脇に片膝をついて頭を垂れた姿勢で下がっていたが、リアリの要請にあっさりと従った。


「シュラーギンスワント・ゲイドと申します。リアリ様の護衛です」

「この二頭の砂漠虎はライラとマジュヌーンです。少し小さい方がライラです。むやみに触ると食べられますので気をつけてください。さ、二人が最後よ。挨拶」

 

 双子の男たちはどちらもいやそうに、不承不承、渋々、と言った感じでロキスをじろっと見て口をひらいた。


「ラザ・ダーチェスターです。聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)に出仕しています。あなた、うちに泊まるそうですが、リアリにおかしな真似をしたらみじん切りにして鍋に放り込みますので、いいですね。――どうです、リアリ? 僕は心のひろい恋人でしょう? あなたに不埒な振る舞いをした男に、親切に警告までしてやるなんて、なかなかできることじゃありませんよね?いいですよ、褒めてくださって」

「エライよ! すげぇよ! やっぱ兄貴は最高に優しいぜ! な、お嬢!」

「あーはいはい、エライエライ」

「だよなあ! よし、じゃあ俺もびしっといくぜ。俺はカイザ・ダーチェスターだ。花街で調達屋をして稼いでいる。お嬢は俺の宝物だから、触るなよ。あと、ラザは俺の兄貴だから、触るなよ。――どう? 俺、ちゃんと挨拶しただろ? エライだろ? 褒めてくれてもいいぜ?」

「あーはいはい、エライエライ」

「俺はロキス・ローヴェル。よろしく。……あんたたち、全員兄妹なのか?」

「私は養女です。だからダーチェスターを名乗ってはいるけれど、二人とは血の繋がりはありません」

「ああ、なるほど。ところで、俺、迷惑だったら、他に宿をとってもかまわないが」


 ロキスは平和的解決が望める提案を謙虚に申し出た。だが、


「だめよ! 父に怒られるわ。無理を言って来てもらったのはこちらなのに」

 

 と、即座に一蹴されてしまう。


「ぎゃあぎゃあうるさくてごめんなさい。でも、二人とも私の言うことはきいてくれるから、寝首を掻くような真似はさせないし、できるだけおとなしくさせるので、うちに来てください。お願いです、ローヴェルさん」

「リアリのお願いですよ? 断るなんて無礼な真似、しないでくださいね?」

「お嬢の頼みだぞ。きくよな? な? な?」

「だから、それをやめろと言ってんのよっ。脅迫禁止! 睨むのも禁止! もちろん暴力も金銭懐柔もだめっ! ローヴェルさんになにかしたら――」


 放っておくとまだまだ続きそうなので、ロキスは片手を上げて制した。


「じゃ、遠慮なく世話になるよ。それから、俺のことはロキスでいい。俺は、あんたたちをなんて呼べばいいんだ?」

「名前でかまいません」

「だめです」

「そうだそうだ」

「うるさい」

 

 ただひと声でラザとカイザを黙らせて、リアリは言った。


「さあ、皆でうちに帰りましょう」


 昔、アラビアを旅行した時に、その風土に酔いました。イスラム建築、生活、習慣、宗教観。なんて美しいのだろう、と感動して、いつか中東風の物語を書きたい、と思い、ようやく手をつけることができました。

 が、なぜでしょう。出来上がったプロットは、私自身予想外のもので。

 その組み合わせと言ったら、なんでこんなになるの? 

 自分の頭の中が信じられない……おかげで、先は揺れることが確定しています。

 どうか願わくば、最後までお付き合いいただけますように。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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