幸せのかたち
ちょっと更新が遅れてしまいました。
この小話は甘味なしです。
「――行かないで」
悲痛な叫び声を上げて、リアリは目覚めた。
息が切れる。
いやな夢だった。
胸が潰れるような悲しみ。
誰かが、離れていく夢だった。
だが現実は、家族と家人にぴったりと囲まれていた。
「どこにも誰も行きません。皆います。本当です」と、ベスティア。
「本当だぜ、お嬢。こっち見ろよ。みんな無事だって」と、グエン。
「そうですとも。あれしきのことでくたばるようなやわな奴は“アンビヴァレント”にはおりません。仕返しの準備もばっちりです」と、ナーシル。
「ちょっと怪我しただけですよぉ。お家はぺしゃんこに潰れちゃいましたけどぉ、それは、これから皆で大報復をしかけて、犯人が誰だろうと、メッチャクチャのグッチャグチャのムッチャクチャにしてやるんで、お嬢様は見物でもしててくださぁい」と、パドゥーシカ。
「無事でよかったよ」と、ロキス。
だが、肝心の顔が見当たらなかった。
リアリの無言の問いに答えたのは義母ルマだった。
「……ラザとカイザがね、あなたが眼を覚ました時にひとりでは寂しがるからって、皆をここに集めたのよ。そのくせあなたに怒られるといけないからって、自分たちは仕事に出かけてしまったわ。そろそろ、一度顔を出すと思うけど」
リアリはふっと笑った。
「いつも通りね?」
ルマもふっと笑う。
「そうね」
「私もいつも通りがいいわ」
ライラとマジュヌーンが人波を掻きわけて頭を摺り寄せてくる。
リアリは二頭の砂漠虎に手を伸ばし、そっと撫でた。
「起きるわ」
「ゆっくりね」
鈍い頭痛。
シュラーギンスワントに支えられ上半身を起しただけなのに、身体が悲鳴を上げていた。
庇われてさえこれなのだ、庇ったカイザやラザの苦痛はどれほどのものだったろう。
あの崩壊の際、王子がまず庇ってくれた。
その王子ごとカイザが庇い、更にラザが庇ってくれたのだ。
そうでなければこんな軽傷で済むはずがない。
部屋の隅に、王弟リーハルト、そして義父のキースルイとディックランゲア王子がほぼひと固まりでこちらの様子をうかがっていた。
リアリはそちらを見て口をひらいた。
「私はリアリ・ダーチェスターです。他の名前はいりません。私の家族はここにいる皆で、私の居場所は家族のもとで、私の幸せは皆と共にいることなのです」
リアリはラザとカイザを思った。
二人とも、王城へなど私を慰留させたくなかったはずだ。
でも、私を信じてきちんと話し合う機会を与えてくれた。
二人はいつものように帰ってくるだろう。
そのとき私もいつものように迎えてあげたい。
おかえりなさい、と。
リアリは肩で息をついた。
手を出す。
ベスティアが水の入ったグラスを差し出してくれる。
これを飲み干して、真っ向から王弟を睨み据えた。
「……でも、あなたさまが本当に私の血縁者であるなら、簡単に許してはくれませんよね」
すみません、長かったので、一度上げました。
続きます。
よろしくお願いいたします。
安芸でした。