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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第三話 黒い嵐
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予期せぬ展開

 王弟登場。

 問題発言あり。

 ディックランゲア王子は俄かに陽が射した空を眩しそうに見上げたあと、光の中のリアリをじっと見つめた。

 黙っていれば、神がかり的に美しい。

 だが、黙っていないのがリアリで、むしろ、外見よりも中身の方が魅力的だということを、もはや直に知る身だった。


「この石塊は、君のものだ」

「あ、そう。くれるの? だったらやっぱり名物決定ね。エイドゥをこき使ってやるわ」

「くっ、はははははは! いや、そうではない。これはいまは眠っているが、石竜(ゼ・フロー)だ。主に必要とされるとき以外はこうしてただ眠る習性の古代生物なのだ。主に呼ばれて眼を覚ますと石化が解ける。もうずっと永きにわたって城の地下壕で眠っていた。この石竜(ゼ・フロー)の名は、『アッシュ』。主は、二十一公主がひとり、ジリエスター公だ」

「それ、王子の捜しているひとじゃない。みつかったの? え、いえ、待って。この石、生きてるの? 生き物なの、これで? え? あれ? でもその名前って私が言わされた名前じゃない」

「君以外にも、候補者全員に同じ言葉を言ってもらったのだ。だが反応したのは、君の呼びかけだけだ」

「――ちょっと待ってよ」

 

 王子は待たずに告げた。


「封印は解かれた。君だ。君こそがジリエスター公の再来――新たなる二十一公主だ」

「迷惑」


 リアリはきっぱりと言い切って、急にぐったりした。

 ラザの腕の中で小さく丸まって、半眼を閉じながら、口だけもぐもぐと動かす。


「私、忙しいの。世界平和のために働くとか、したくない。英雄だの救世主だの、なりたくない。面倒くさい。第一、そういう危険で大変なオツトメは王家の方々がやるべきでしょ。王子なんて適役じゃない。なんのために高い税金払っていると思っているのよ。国民を守るのが王族の仕事なんだから、か弱い一般市民に頼るなんて真似しないで、しっかりしてよね。こっちは働き損でがっかりなんだから……ああ眠い。疲れた。もうダメ。謹んで、私は辞退するから、せいぜいガンバッテネ……」

 

 うとうとと、リアリは猛烈な睡魔に逆らわず眠ろうとして、ばちっと目覚めた。           本能の命ずるままに袖口からナイフを両手に閃かせつつ、ラザの腕よりするりと逃れて臨戦態勢をとる。

 熾烈な殺気の塊は真正面より現れた。


「ラザ、副主長だ」

 

 どこからともなくレニアスがラザの背後に就いて囁く。


「カイザ、囲まれたよ。僕は君を護るけど君は僕を護らなくていいからね」


 いつのまにかカイザの傍にはエイドゥが控えている。

 そしてリアリの両脇には二頭の砂漠虎ライラとマジュヌーンがぴったりと付き添って、斜め前にはシュラーギンスワントが抜き身の剣の如く従っていた。

 あっという間に白い聖服聖帽に青の刻印の聖徒に包囲された。

 これに陽炎も加われば、ざっと千余名。

 ラザとカイザのオトモダチを呼び戻し、味方にして対抗しようにも数では押し負けている。

 殺伐とした空気がよぎる中、まっすぐにリアリの前に進み出てきたのは四十がらみの華のある、端正な容貌の、政務宮の藍色の執務服をしっくりと纏い最高責任者である四つの金証を有した人物だった。


「リーハルト様」

「やはり城でじっとなどしていられなくてな。少し時期が早まったが、よいだろう」

「……は」

「そちたち夫妻には感謝しておる。いずれあらためて礼をしよう」

「それにはおよびません」


 言って、キースルイとルマは神妙な面持ちで跪く。

 リアリもまたはっとした。その顔に見覚えがあったのだ。

 王弟、リーハルト。

 ローテ・ゲーテにおける事実上の執政者。

 噂では、危ない橋ほど渡りたがる性分で、できるだけ関わり合いにならない方が得策だという。

 その王弟リーハルトが聖徒を多勢に無勢引き連れて現れたのだ。

 理由など、知れている。


「……ラザ、カイザ、退いて」

「いやです」と、ラザ。

「俺も」と、カイザ。

「だめ。さっき言ったばかりでしょ、王族を敵にまわさないで。ここは私に任せてちょうだい」

「あなたに庇われるなんていやですよ、恰好悪い。だいたい、あの程度の身内を始末するなど僕には造作もありません。ほら」

 

 ラザは合図ひとつしなかった。

 が、呼応したように、包囲していた聖徒のちょうど半数が仲間割れを起こして残る半数に刃を向けた。 長老の老翁にも幾人かが飛びかかって懐剣の切っ先を喉笛、延髄、アキレス腱を狙い定められている。


「……ちょっと」

「僕、味方が多いんです」

「やめさせなさい。聖徒の相討ちなんてみたくないからね。カイザも、ひそかに裏の連中を動員させているでしょう。止めて。なんなの、もう。まだこんなに明るいうちからおおっぴらにしかけてくるなんて頭がおかしいとしか思えない。って、言いたいところだけど、ラザ、あんたのせいなのよ」

「僕?」

「とぼけないで。あんた、今朝王城で何人殺したと思っているの」

「ささやかすぎて憶えていません」

「ささやかなんて数じゃないでしょ! もういい。いいから黙って下がってて」


 有無を言わさぬ剣幕で双子の兄弟を威嚇して、リアリはナイフをしまい、軋み、悲鳴を上げる身体を押して、速やかに王弟リーハルトの前にいって跪こうと身を屈めたのだが、とどめられた。

 代わりに、顎をしゃくられ、顔を覗きこまれる。

 そして突然、腰を抱きあげられて、たかいたかいをしながらぐるぐると振り回された。


「リ・アリゼーチェ!」


 王弟リーハルトは感極まったように叫んだ。


「私の娘!」


 あと小一話で一区切りです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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