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千夜千夜叙事  作者: 安芸
第三話 黒い嵐
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行かないで

 連続投稿になります。

 

      

「――行かないで」


 悲痛な叫び声を上げて、リアリは目覚めた。

 すぐ傍に、心配そうな二つの同じ顔があって、リアリはほっとした。


「ラザ、カイザ」


 リアリの額をラザの手が優しく愛おしげに撫で上げる。


「……大丈夫ですね?」


 リアリはラザのやわらかな甘い微笑に応えるように笑みを返した。


「いまから仇を取ってきます。待っていてください。シュラ、見張りを。リアリに近づく者は抹殺なさい。カイザ、行きますよ」

 

 固く握られていた両手が解かれる。

 朦朧とした意識の中でも温かなぬくもりが離れたことを寂しく思った。


「お嬢、寝てろよ。すぐ戻るから」


 リアリは微かに頷いてまた眼を閉じた。

 瞼が重い。身体がだるい、重い、痛い。

 不意に指を舐められた。

 薄く眼を開けると、ライラとマジュヌーンがまとわりついていた。

 リアリは砂漠虎二頭をゆっくりと愛撫しながら、シュラーギンスワントに訊ねた。


「……ラザとカイザは怪我しなかったの?」

「ラザ様は打撲と裂傷、カイザ様は軽い脳震盪で少し失神されておりましたがあのご様子ですとたいしたことはなかったものと思われます」

「他の皆は?」

「さいわい、死者はおりません」

「よかった」

 

 深い安堵の吐息をついて、リアリは天井を眺めた。

 素晴らしい天井画が描かれている。


「……ここはどこなの?」

「王城です」

 

 そこで、「王子は?」と訊きかけてはっとした。


 ――仇を取ってきます。


 リアリは飛び起きた。

 途端に強烈な眩暈と吐き気に見舞われる。


「止めなきゃ」

 

 リアリはかけられていた正絹の掛け布をのけた。

 その小さな動作さえ、腕と肩に痛みが走る。

 寝台から、足を下ろす。

 さいわい、骨は折れていないようだ。

 だが全身打撲なのだろう、どこもかしこもひどい痛みだった。


「ライラ、お願い、ラザのところへいって」

「いけません、リアリ様。安静にしていてください」

「王子が殺されるわ。襲撃者がなんであれ、ことの元凶である以上王子も必ず狙われる。止めないと――私でなければ止められない――ライラ、いって!!」

 

 リアリはシュラーギンスワントの手を振り払い、ライラにしがみついた。

 ライラは一声雄々しく唸ると、家具を蹴散らし、部屋を飛び出した。

 廊下は御影石細工で幅が広く、朱色の絨毯が敷かれていた。

 左右に道がのびていたがライラは迷わず右に進んだ。

 そこに一体目の死体があったからだ。

 一気に走り抜け、階段の踊り場で二体目の死体に遭遇する。

 白亜の大理石の手摺つきの階段を飛ぶように駆け下る。

 途中、三体目、四体目、五体目の死体を見る。

 ライラは迷うことなく死体を目印に追っている。

 血の臭いの強烈な方角へと引き寄せられるように。

 マジュヌーンがシュラーギンスワントを乗せて後ろに追いついた。

 シュラがいかにも気懸りそうだ。

 リアリは歯を食いしばった。

 吐き気がした。痛い、苦しい、頭が割れそうだ。

 だけど、いま倒れるわけにはいかなかった。


 ――僕はあなたのためならば世界中殺して歩いてもかまわない。

 

 そう豪語したラザのことだ、城中殺して歩くくらいはなんでもないのだろう。

 ラザは、王子の所在を知らない者を斬って捨てている。

 欲しい情報を得るまでこの殺戮は続いているはずだ。

 ライラの巨体がふわ、と浮く。

 着地は滑らかで、反動はさほどない。

 もう数えるのもばかばかしいほどの死体を見送って、着いた先は、地下だった。

 地下壕は崩壊していた。

 なにかが遮二無二飛び出したような痕跡がある。

 いまは空っぽだ。

 そこではじめて生きている人間に会った。


「王子はどこにいるの」

「こ、こちらにはもういらっしゃいません。カ、カスバの商業地区で、昨夜大変な騒ぎがあって、そちらに視察に――」


 あとは聞くまでもなかった。



 流血沙汰になりました。

 次話、緊迫しています。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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