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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
124/130

小惑星大衝突

 最後の最後の最後まで、ラザは変わりませんね。笑。

 リアリがちょっとかわいいです。

 こんな非常時にまで好き好き言われるなんて、女冥利に尽きるというもの。

 どうぞおたのしみください。

 

 空は紫紺に染まりつつあった。

 まだ陽は落ちていない。

 だが辺りは厚く垂れこめた雲の重みで暗く翳り、不穏な気配を漂わせている。

 さきほどまで続いていた微震もぴたりとやみ、いま、風も絶えた。

 方々でぶつかりあい、砕け散り、螺旋を描いていた星力もまた、小康状態だ。

 恐ろしいまでの静寂。

 リアリは細く細く呼吸を整えた。

 いま、この手の中には膨大な量のエネルギーがある。

 少しでも気を抜けば、制御を失った力塊は荒れ狂い、惑星をとことんまで痛めつけるだろう。

 大気にみちている星力とどんな連鎖反応を示すかは不明 だが、おそらくは破壊の限りを尽くすに違いない。

 我を失った“能力者”の顛末は、嫌と言うほど見てきた。

 そして狂ったものを救うすべはひとつしかなく、リュカオーンは、闇の中で同胞の命を奪ってきたのだ。

 そして最後に残されるのは、力の“核”。

 当時リュカオーンが大切にしていた命のかけら。

 いつか相応しいとき、相応しい場所に葬ってあげたいと思っていた。

 結局はエンデュミニオンの手で、星に還されたのだけれど。

 この“核”を使って、エンデュミニオンは“道”の起点をおさえた。

 彼ひとりの力に加え、更に多くの力が添えられたことで、より深い位置で“道”をこしらえることができた。

 九千年もの長い歳月を持ちこたえることができたのは、そのためだろう。

 そしていままた、同じ力がある。

 いや、それを遥かに凌ぐ力だ。

 剥き出しの力は魂と同義語だ。

 “核”石と化したものより、比べものにならないくらいの高次元のエネルギー体だ。

 長くはもたない。

 だが、“盾”が“方舟”と一緒にチーテス海底谷に沈むまでは、なにがなんでも、もちこたえてみせる。


「リアリ」


 リアリは宙に浮遊し、東の方角を向いていた。

 金色の髪をたなびかせ、前に両腕を差し出して、直立不動の姿勢を保っている。

 エイドゥー・エドゥが予知視で示した小惑星墜落地点。その規模。

 そこから導き出された災厄被害指数はとても手に負えるものではない。

 “超越者”が何人首を揃えようともたちうちできそうもなかった。

 だが、力の方向性を曲げることは、できる。

 防御障壁の型しだいで、衝撃波をいくぶんはやりすごせるだろう。

 直撃を食らわないだけでもかなりましなはず。

 既に点は打った。

 あとは線を結び、バリアを張るのみ。

 チーテス海底谷を軸として、スライセンを覆うだけのごく狭い範囲だが、高出力で力を維持し、硬度を保つにはぎりぎりの領域だ。


「リアリ」

 

 ラザの二度目の呼びかけで、リアリは我に返った。


「え? ああ、なに?」

 

 ラザはライラに腰かけて真後ろにいるはずだが、振り返ることができなかったので、その表情は読み取れない。


「触ってもいいですか」

「あんたに触られると、気が散るんだけど」

「無理強いしてもいいんですけどね」

「やめて。じゃあ……そっと抱いてよ?」

 

 後ろから腕が伸びる気配がして、優しく抱き寄せられる。

 脇腹を長いしなやかな指でおさえられ、背に吐息と共にラザの額が預けられた。

 くすぐったさと、あたたかさで、じんわりする。

 

「どうしたの?」

「別に。ただ、あなたを実感したかったんです」

 

 リアリはクスッと笑った。

 どうしたことだろう。

 気が散るどころか、勇気百倍、余裕さえ生まれてしまう。


「いま、“方舟”と“盾”が接合するところよ。もうすぐカイザに会えるわ」

「そんなにカイザに会いたいんですか」

「会いたいわ。なによ、あんただってそうでしょ」

「それはそうですけど、あんまりあなたが真剣だと妬けます。弟といえど許し難いですね」

「本気で凄まないでよっ。だって、た、楽しみなんだもの」

「なにがです」

 

 リアリは口ごもった。

 この状況下にありながら、なんて緊迫感のない会話だろうと思えば尚更だ。


「……あんたたちふたりからの、求婚」

 

 ぼそっと呟く。

 顔に血が昇る。

 羞恥で死にそうだ。

 不意に、うなじにやわらかいものが押しあてられて、びくっとする。


「ちょっと!」

「なんです」

「舐めないでよ! 気が散るって言ってるでしょうが」

「だってあなたの後ろ姿が美しいから、なんだか癪で」

「なに言ってんの、あんた」

「あなたを好きだと言っているんです」

 

 おもむろにライラの背に立ちあがったラザの手が、がっちりと肩を押さえこみ、真上から瞳を覗きこまれる。

 額にかかる前髪がさらっと揺れた。

 その奥で明灰色の切れ長の美しい眼に、冴え冴えと強い光がきらめいて、そのまま僅かに細められる。 甘さの滲んだまなざしは、罪深いほど、色っぽい。

 薄い唇がひらく。


「僕は」


 だが邪魔が入った。

 リアリははっとして天空を仰いだ。

 それは一瞬の出来事だった。

 惑星の大気圏を一気に喰い破って、星脈を千々に引き裂き、雲間を紅く焦がしながら、金色の炎の塊が光跡もあざやかに流れた。

 その直前直後どちらか定かではない間合いで、稲妻の如く勢いで斬り込むように素早く一頭の(ゼ・フロー)竜アッシュが現れ、その巨大な翼に囲われるのと、レニアス・ギュラスとエイドゥ・エドゥーのふたりが目前転移してきて、腕をひろげ、ラザとリアリをその背に庇うのが同時だった。

 リアリは咄嗟にすべての力を放出、点を線で繋いで一気に防御障壁を張り巡らせ、ラザの真上に覆いかぶさった。


 凄まじい大衝突が起こった。

 白い光芒が惑星を何周にも駆け巡り、地表は陥没、衝撃波で陸上生物の大多数が死滅した。

 また海上に発生した大津波は大陸全土をくまなく席捲した。

 それに付随して大地震、大陥没、地盤隆起、地盤沈下が連鎖的に起こり、更に海底火山、及び活火山が次々に噴火した。

 火柱がそそり立ち、華麗に岩石を撒きつつ、熱波が雪崩を打った。

 次に炎の海がひろがり、大量の熱は雲を呼び、大雷と大雨をもたらした。

 天と地は、風と火と水の猛威にさらされた。


 一気に書き上げたかったのですが、少し長くなりそうだったので、一区切り。

 カイザ、出せなかったな。

 

 さて、いよいよ、次話あたりが最終話となりそうです。まあ私のことだから、ちょっと延びるかもしれませんけど。予定では、最終話と、エピローグ一話、です。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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