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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
122/130

ひとという希望を未来へ

 いよいよクライマックスが近づいてまいりました。

 ”盾”の到着です。これで、”方舟”と対なるものがそろいました。

 皆、がんばれ! の巻です。笑。

 カイザは席についた。

 パスワードを入力し、ただちに“方舟”への直通回路をひらく。

 正面モニターの映像がすぐに切り替わり、“方舟”の操縦室が映し出される。


「こちらカイザ。コントロール・ルーム、応答せよ」

「こちらレベッカ。聞えているよ、どうぞ」

「レベッカ。よかった、あんたはちゃんと乗船したんだな」


 レベッカはくぐもった唸り声を咽喉の奥から発して、肩をすくめてみせた。


「不本意というか不承不承というか、遮二無二というか、なんというかだけどね」

 

 そう応えるレベッカの右斜め背後にはナーシルが後ろ手に控えている。

 カイザはクッと笑った。


「そうか。とうとうほだされたってわけだ」

「なんとでもお言いいよ」

「じゃ、祝福でもしておく。幸せにな。ついでに、皆の面倒も見てくれ。頼む」


 モニターの向こうでレベッカが溜め息をつく。


「ああわかった、わかった。任せておきな。あんたの分まで――リアリやラザの分も合わせてね、せいぜい仲よく暮らすことにするよ。ところで、外はどんなあんばいだい?」

「そっちからも見えるだろ。時間がない、はじめるぞ」

「“方舟”と“盾”が結合したら通信も思念波も届かないよ。なにか誰かに伝えたいことはないかね」

 

 カイザの脳裏をディックランゲアが掠めた。


 ――しかし、私はリアリ殿に必要な男だ


 カイザの脅しに屈せず、はっきりとそう言った王子の眼が忘れられない。


「……そこにディックランゲア王子はいるのか」

「いるよ。民を鎮めるのに尽力している。恐慌状態になっていないのはあの方のお力だね。もっとも、王子じゃなくて王におなりのようだけど」

 

 レベッカの操作で“方舟”の現在の様子が点々と映し出される。

 アンビヴァレントの皆がいた。

 父も、母もいた。

 王や王妃、王弟と王弟妃、アレクセイ、ハイド・レイド、カッシュバウアー、ゼレバーニス……それぞれが懸命に動いていた。

 そしてディックランゲアも。

 救急看護室にひしめく負傷した民の手をとって、ひとりひとりに話しかけている。

 落ち着いた物腰、あたたかなまなざし。

 あのときは認めがたかったが、いまなら認められる。

 ラザや自分とは違った意味で、奴もまた、リアリに必要な男なのだ。

 とりわけ、いまとなっては――。


「王子でも王でもいい。ディックランゲアに伝えてくれ。“方舟”はあんたのものだと。未来へひとという希望を残してくれと。俺たちはそのために命をかけよう」

「間違いなく伝えるよ」

 

 レベッカの声は震えていた。よく見れば、うっすらと涙目だ。


 ――九千年前の約束は果たされた。たぶん、また次も逢えるだろう。だからお別れはなしだよ。


 ――そうね。私たちが望めば、またきっと逢うこともできるでしょう。


 カイザより先にオルディハが応じた。カイザも続ける。


 ――未来で逢おう。それが限りなく遠い先のことでも、惑星が氷の眠りから目覚めたそのときに――


 カイザは回線を切断した。

 外に待機する仲間たちを一望する。

 リアリと同じく、覚悟を決めた眼だ。

 研ぎ澄まされた力が結集し、ふつふつと漲っているのが感じられる。


 ――“盾”を()ぶ。上空に到着次第、障壁を張ってくれ。二手に分かれた二重障壁がいい。


 ――まかせて。エドゥアルド、ルキトロスは“盾”を守って。ジルフェイ、ティルゲスター、ミュルスリッテ、クァドラーンは内部障壁を。イズベルク、スレイノーン、ローダルソン、マジュリット、サテュロス、ライズジェガールと私は外部障壁をつくるわ。意義のあるひといる?


 ――俺とマジュリットを交替しよう。その方が互いの力の相性がいいだろう。


 ――ああそうね。いいわ、じゃジルフェイが外でマジュリットは内にいって。


 等間隔をあけて、二重の円陣を組む。

 中央に“方舟”を据え、右上空にコントロール・ルームが浮遊している。

 その布陣を眺め、一度宙に注意を向けた。

 それから正面のモニター・パネルに現在の王城を映し、ロスカンダル語で“盾”に発射命令を出した。

 おもむろに、王城が揺れた。

 建物の天辺が割れ、頂点から底辺まで縦に亀裂が及ぶ。

 細かなひび割れが壁面にジグザグに奔る。

 二度目の振動で地面が盛り上がり、上下両方から華麗に崩れていく。

 距離があるにもかかわらず、ぞっとするような轟音が空気を鳴らした。

 そして同時に、凄まじい力が解放された。

 その煽りをくらう。自分たちと似て異なる波動を浴びる。

 悲鳴。雄叫び。苦悶。

 コントロール・ルームに隔離されているカイザでさえ、一瞬意識が遠のいた。

 

 能力者の力――

 

 完璧に練成されて“盾”を九千年もの永きに渡り守り続けてきたエネルギー。

 中核であった炉から放出されたいま、行き場を失い、方向性を見いだせないまま、濃密な気塊は熱と粘り気を帯びたままひろがり、あちこちでばちばちと放電をはじめた。

 不安定に澱む力は障壁の基礎をぶち壊した。


 ――博士が逝ったわ。

 ――ロキスもな。息子が一緒なら、慰められるんじゃねぇか。

 ――待て、俺たちの方が問題だろ。

 ――やりなおさないと。でも動けない。

 ――落ち着いて。態勢を立て直しましょう。


 とはいえ、痺れた身体が言うことを利かない。

 そうする間にも火花がより強く弾けはじめる。

 このままでは“方舟”に害が及ぶ。

 そうこうする間に鮮烈なる風をひいて“盾”が到着した。

 厳かな沈黙をまとい、優雅な曲線を描く卵型の青い球体。

 外殻は鈍く照り耀き、発動をいまかいまかと待ちわびているようだ。

 不運にも、大気に瞬間的に高温が発生、空気が膨張した。

 エネルギーを周囲に伝播させ、大規模な破壊をもたらす条件が整った、そのとき――。

 引き潮の如く、力の波が根こそぎ持っていかれた。

 それだけではなく、頭上を巨大な影が覆い、驚いた面々が見上げると、そこには総勢二十一体の(ゼ・フロー)竜が翼をひろげた恰好でいた。

 その眺めは壮大にして圧巻で、全員が息を呑んだ。


「リュカオーンだ」

「リュカオーンが呼び寄せたんだわ」


 歓喜に湧いたのも束の間で、使命を身に帯びた面々はすぐに自己回復を図る。

 興奮冷めやらぬ面持ちのまま、あるものは腕捲りをし、あるものは涙を拭った。


 ――エンデュミニオン、はじめていいわ。

 

 オルディハの合図にカイザはすべてのシステムがオール・グリーンを示していることを確認して言った。


 ――結合開始だ。


 あいにく、結合まで終了できませんでした。なんだかおさまりが悪かったので……じ、次回こそ、いきます。

 次話、リアリ・ラザ・カイザ、ひさしぶりに三人がそろうはず。の予定です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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