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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
119/130

さよならは告げない

 またひとつ、別れがありました。


 だが行く手を制するかのように一陣の強い風が吹いた。

 現れたのは白い一対の影。純白のタウブを優美に纏ったリアリが、聖徒殿主長たる証しの聖白に装ったラザを伴っている。

 豊かな金色の長い髪をたなびかせて、王家の碧青(ミルヒ・クレイスター)の瞳に意志の炎を纏ったその姿は、抑えた気迫にみちていた。


「どこにいくの」


 抑揚を欠いた無機質な声音に、その場にいた者たちの行動が押しとどめられる。

 リアリは腰に手をあて、地上に眼をやり顎をしゃくった。


「もう地表のあちこちで有毒ガスが発生しているわ。危ないから迂闊に降りない方がいいと思うけど」

「リアリ様、ラザ様」


 シュラーギンスワントの表情がかすかに安堵のため綻ぶ。

 ライラとマジュヌーンにいたっては小躍りしてリアリの足元にまとわりついた。


「いまお二人のもとに参ろうと思っていたんです」


 リアリは納得のいった顔で頷いて見せた。

 その肩をエイドゥー・エドゥが揺する。


「カイザはどこだい」

「“盾”のコントロール・ルームの中。追ってもむだよ。入れないから。それに、放っておいても現れるわよ。それより降下ポイントまで方舟を誘導したいの。皆、手を貸して」


 言ってリアリはラザの身体を持ち上げ、ふわっとライラの背に移した。

 それから両肘を軽く屈伸させる。

 首と肩と足首をまわし、身体をほぐすしぐさをして、息をひとつついたのち、頭を振って自嘲気味に笑う。


「九千年前――再会を誓ったときには、まさか本当にこんな場面を迎える羽目になるとは思っていなかった。ただ皆ともう一度逢いたかっただけなのに、どういう因果かこんなこんなはめになって……っはあ。できるなら、もっと普通のときに、他愛のない日常の中で笑ったり、怒ったり、泣いたりしながら、生きてみたかった……」

 

 でも、と続けてリアリは指先に力を集中させた。


「いまこのときに甦ることができて、よかったのよね。リュカオーンが――私たち全員が――命をかけて守ったものがむざむざと滅びるのをまのあたりになんて、したくない。みすみす死ぬつもりなんてないけれど、なにも出来ずに手をこまねいているなんて、もっといや。だから、私は私のやれることをやる。いまさら逃げても仕方ないもの。第一もう、逃げようがないし」

「逃げ場もない」と、ローダルソン。

 

 リアリはあはっと笑った。


「わかってるじゃない。じゃ、つべこべ言わずに協力して。文句ならあとで聞くから」

「うひっ。あとでって、何千年後だヨ?」と、スレイノーン。

「何千年後でも、逢えたときに」

 

 一瞬の沈黙。

 そして全員が破顔した。

 結局のところ、個々の意思を尊重しようという姿勢を保つよりも、こうして気のおける仲間と共に、力を尽くして最期の時を迎えることの方が喜ばしかった。

 リアリが笑いを引き取って”方舟”を指差す。


「まずはチーテス海底谷の真上まで無事誘導しないと。盾とはそこで結合するから――オルディハ、そっちの細かい指示をお願い。皆、頼むわね」

「あなたはどうするの?」

「小惑星衝突の衝撃波を押さえこむつもり」

「ひとりでなんて無茶よ!」

「ひとりじゃないわ。ラザがいる」

「だって――」


 オルディハはちら、と一瞥を向けた。


「彼は……その、エンデュミニオンの力をもっていないのでしょう?」

 

 リアリは微笑した。

 瞳が星の如くきらめく。


「大丈夫。ラザがいれば、なにも恐くないの。絶対無敵なんだから!」

「まあそうですね」

 

 とラザが真顔で言って、リアリの髪を一筋掌にすくい、くちづけする。


「少なくともあなたひとりで死なせやしません。僕も共に逝きます。夫でなくとも、それくらいならば許されるでしょう」


 オルディハは息を呑んだ。

 リアリとラザを交互に見比べて、口をあけては、噤んだ。

 この場にふさわしい言葉を紡げなかった。

 追及したい疑問は尽きなかったが、もはや状況は逼迫している。

 オルディハは眼を瞑り、祈りを込めて、リアリの両手をぎゅっと握りしめた。


「――気をつけて」

「そっちもね」

「あなたのこと、憎らしく思ったこともあったけど、好きだったわ」

「私も」

 

 二人はいったん抱き合って、離れた。


「じゃ」

「ん」

「……さよならは、言わないわよ?」

 

 オルディハとリアリはどちらともなくもう一度抱き合った。


「またね」

 

 短い再会の約束を交わして、視線を外した。

 今度こそ距離を置く。

 リアリは身を翻し、ラザを見つめ、次にライラについてくるよう合図して斜めに急上昇した。

 さまざまな色が渾然一体となってまだらに澱む空に一条の大きな軌跡を描いて、二人と一頭は消えた。


 うーわー! ものすごく久しぶりの掲載です。すみません、思った以上に間が空いてしまいました。なにせ、忙しくてー!! とってもとっても大変でー!! 踊りが、踊りが、祭りが、祭りがー!! でもやっとひと段落しました。

 それにしても、勘が鈍っていて、筆運びがとろいのなんの。

 次話、方舟と盾の結合、そしてカイザを迎えます。

 二ヶ月お休みしている間にもアクセス数が伸びて、六万近いですね。嬉しいことです。ありがとうございますー!!!

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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