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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
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兄弟

 ラザとカイザ。ふたりでひとりのエンデュミニオンです。

 

 ラザは物珍しそうに狭い空間の内部を見まわした。

 聖徒殿主長の間は、ラザが入ると同時に光源が点いた。

 中の様子は全くなじみのないもので埋め尽くされていた。

 機器類ははじめて眼にするもの、そうでないもの、いずれにしろ、操作などはまったくお手上げである。


「僕にどうしろと言うんですかね」


 中央に席があった。

 仕組みの不明な脚のない円卓と、背凭れが長い肘掛け付きの椅子。

 傍にいって見ると、円卓はただの板でなく、盤上装置が設置されている。

 また椅子にも肘掛けに差し込み式の装置があり、よく見ると、背もたれ部分のほぼ中央に金色のプレートが一枚嵌めこまれている。

 ラザがそれに手を伸ばしたそのときだった。


「兄貴」

 

 振り向くと、すぐ眼の前にカイザがいた。


「触っちゃだめだ」

 

 肩を掴まれ、横にちょっと押しやられる。

 カイザの手が金色のプレートを無造作に外し、肘掛け部分の装置にカチリ、と嵌めこむ。

 ヴィン、となにかが作動し、すべての機器類の照明がついた。


「間に合ってよかった。ひでぇよ、兄貴。俺をひとりでおいていくなよ」

「どうしてここにいるんです」

「どうもこうも、兄貴だけに任せられっかっての。こっちは俺の領分なの。ったく、無茶するぜ、なんにも言ってくれねぇんだもんなー」

 

 カイザは盤上装置に掌を翳し、遺伝子解析が済むのを待った。

 その間にも、空いた片手で浮遊式の音声入力装置を呼び出し、入力言語を現在使用語からロスカンダル語に設定変更する。


「なんだか久しぶりだよな。兄貴、ちょっと痩せたんじゃねぇの? ちゃんと食ってる?」

「ひとの心配より自分の心配をしなさい。ひどい顔色ですよ」

「あー、ちょっとここんとこ忙しくてさ、寝てねぇの。だから兄貴が巻き込まれているのも、気づくの遅れちまった。どっかの奴に、傷めつけられたり、変な真似されなかった?」

「僕がそんな屈辱を黙って受け入れるとでも?」

「ははっ。そりゃそうだ」

 

 笑いながら、カイザは天井から下りてきた脳波感知装置を額に軽く締め、左手首に超電導調整機、右手首に星力制御装置、鼓膜に通信機をそれぞれ身につけていった。

 内壁に設置された複数のスクリーン・パネルには装備の様子が順番に投射されていく。

 が、それより早くカイザの支度は完了した。


「なにをしているんです。僕は君を身代わりにするつもりはありませんよ」

「兄貴より俺の方が向いてる。ここは俺に任せてくれって」

「だめです」

「もう遅い」

 

 カイザはロスカンダル語で始動の指令を出した。

 突然、浮上する。

 パネルのひとつに聖徒殿の最上部が水平に切り離された様子が映し出される。

 そして外壁が削ぎ落とされて、たちまち銀色に光る球体が輪郭をあらわにした。

 カイザはシステムがオール・グリーンであることを確認した。


「このコントロール・ルームは既に俺の制御下にある。他の誰も操作できねぇ」

「カイザ、それは僕の務めです」

「いいや、これは俺の役目だ」

「……これがなんなのか、知っているんですか」

「……知っている。たぶん、兄貴より詳しいぜ」

「知っていて、なぜ」

「兄貴を見殺しになんてできねぇよ」

 

 ラザとカイザは真っ向から対峙した。

 先に口をきいたのはカイザだった。


「……ついさっきなんだ。ラザが“盾”の操縦者だって知ったの。まずい、って思ったよ。これ造ったの博士で、あ、いや、俺たちの知り合いで、天才なんだけど用心深くてさ、この装置のことも、ごく一部の人間しか知らされていなかったんだよ。まさか聖徒殿の管理下にあるなんて、思ってもみなかった。ましてや兄貴が乗り込む羽目になるなんて――」

「僕も君がここへ来るとは思いませんでしたよ。いえ、正確には、誰も入れないはずなんです。番人が僕以外の入室は許可ならないと、そう言っていましたから」

 

 それに、一度動かしてしまえば、あと戻りもできない。

 ラザの表情がより険しく強張った。

 だがカイザは屈託ない笑顔を見せた。


「ラザと俺は同じだから」

 

 嬉しそうに言って、カイザは懐から掴みだしたものをラザの手の中に押しつけた。


「俺はこのために双子で生まれてきた気がする。ラザが兄貴でよかった。ラザの弟でよかったよ。リアリを頼むな」

「待ちなさ――」


 否応もなかった。

 カイザの“力”でラザはそのまま外に移動させられた。


 双子設定は、この瞬間のためにありました。

 色々な伏線を次々に消化中ですが、あともう少しあります。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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