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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
105/130

封印を解くとき

 ラザがいきました。

「どこいくんだ?」

「黙って来なさい」

 

 レニアスがラザに連れて行かれた先は、忌まわしい記憶の残る地だった。

 元ゲイアノーン第十七科学研究所地下第一実験施設。

 当時の面影はまるでないものの、地理的位置から推察すると、間違いない。


「来たね」

 

 どこからともなく声が響く。肉声ではない、温みのない機械合成声だ。


「来ましたよ」

「後ろの男は?」

「二十一公主転生体のひとりです」

 

 ラザの思いもがけない考察にレニアスはぎくっとした。

 そんなことは一言だって口にした覚えがないのにこれである。

 さすがに侮れない、ラザならではだ。


「なんと」

「この地下墓地を葬るには相応しい人選でしょう」

 

 皮肉を込めてラザが言い、マリメラ・ドルーシラの陰惨な笑いを誘うと、掌に二枚の金色のプレートを閃かせた。


「最長老と王弟から預かりました、主長の間のキー・プレートです。解放のパスワードを教えてください」

「パスワードは、シュイ。“光”という意味さ。発音に気をつけるんだね」

 

 ラザが“(シュイ)”ときれいに復唱する。

 ロスカンダル語独特の舌使いも問題ないようだ。


「リアリの監視衛星を解除してください」

「いいとも。そなたが主長の間を無事開けて、“盾”を発射させたらそうしよう」

 

 ここでレニアスは割っていった。


「ちょっと待て。そいつの件なんだが、登録者を俺に変更してくれ」

「君は引っ込んでいなさい」

「登録者の変更は不可能。これは聖徒殿主長に就任したものの義務ゆえ」

 

 却下は想定済みだったものの、無念さと怒り、憎しみめいたものすらこみ上げる。

 これ以上の問答は無駄です、というような顔でラザがひら、と手を振る。


「あとは任せましたよ」

「えっ。ちょっ、待てよ! ひとりで行かせられっかっての」

「ひとりで十分です。どうしてもついて来たければ、ここの始末をつけてから来なさい」

「それじゃあ遅すぎる!」

「いいんです」

 

 有無を言わせぬ強いまなざしは、死を覚悟し、尚も怯まぬ意志があることを告げていた。

 レニアスはぐっと拳を固めた。


「……わかった。あとでまたな」

 

 それには応えず、ラザはマリメダ・ドルーシアを仰いだ。


「主長の間に行きたいんですけど」

「私が送ってやろう。いって、そして我らの最後の務めを果たすのだ。第九十六代目聖徒殿主長ラザ・ダーチェスターよ」

 

 ラザの背を見送るという不本意な立場に追いやられたレニアスは、元凶たる空間をざっと探った。

 眼を留めたのは一枚の絵だ。

 懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 前世の仲間たち。

 忘れかけていた自分の――ナディザードの顔もある。

 レニアスは五指をひろげ、“力”をもってケースや台座ごと絵画を捻り潰した。

 それからリアリを捕捉していた監視衛星回路を切断し、両手をひろげ、掌に“力”の塊を凝縮させていった。

 凄まじい勢いで膨れ上がるエネルギー波に危険を嗅ぎ取ったマリメダ・ドルーシラが怯えた反応を示す。

 既にひとの身ではないものの、感情を失ったわけではないようだ。


「なにをされる」

「あんたがたは人選を誤った。ラザを“盾”の操縦者に選び、お嬢の命を狙うなんざ許せねぇ。九千年ぶりにやっと会えたってのに、また同じことの繰り返しになりそうじゃねぇか……くそったれ」

「なんのことだか」

「二人共、俺と同じ“超越者”の甦りなんだよ。あんたらは俺たちを守るつもりで仲間を犠牲にしてくれたってわけだ。聖徒殿主長だろうがなんだろうが、他の奴ならともかく、よりによってラザを。そのうえお嬢まで巻き込みやがって」

「お待ちを――」

「待たねぇ。死ねよ」

 

 レニアスの瞳が怒気に滾り、“力”が炸裂した。

 霊廟も棺も木っ端微塵に粉砕されてゆく。

 やがて黒い炎の波が縦横に荒れ狂い、代々の主長の脳幹に襲いかかる。

 失われた叡智により生きながらえていた九十五の声にならない悲鳴のすべてをも呑み込んでいった。



 ラザは再び聖徒殿主長の間の前にいた。


「ああ忙しい」


 と、不満をこぼしながら、空間をこじあけて、アレクセイ・ヴィトラが現れる。


「行ったり来たり、堪りませんね。早く王子のもとへ行きたいと言うのに」

「行けばいいでしょう」

「あなたを見届けるのも仕事なんです。まったく、なんの因果でエンデュミニオンの片割れともあろうひとが、よりによって聖徒殿主長に。もっと役に立つ場があるでしょうに、こんな貧乏くじをひいて。言っておきますが、私だって損な役目なんです。でもあなたは私の王子の恋路には邪魔な男ですし、いなくなればいなくなったで……」

「なにをぶつぶつ言ってるんです。邪魔です、どきなさい」

 

 ラザはアレクセイをしっし、と蠅のように追っ払い、壁面に両方の掌をあてた。

 ぼう、と壁の一部が明るみを増す。


「シュイ」

 

 唱えると同時に吸い込まれた。

 アレクセイはふーっと肩を落として頭を掻くしぐさをした。


「さぁて……一応、リュカオーンにも知らせませんとね……」


 怒涛の連続投稿――をかけたかったのですが、すみません、ね、眠い。

 続きはまた明日で。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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