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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
104/130

大号令

 ラザ、独壇場です。

 聖徒殿(ビリー・ヴァ・ザ・リア)屋外広場。

 篝火が焚かれ、闇の中に白亜の本神殿がぼうっと幻想的に浮かび上がる。

 普段は人気のないそこに、聖服聖帽を着用し、眼帯を外した、全聖徒及び全陽炎が集結した。

 口を閉ざし、びりっと緊張したまま直立不動しながらも、瞳は興奮冷めやらず、じりじりとした面持ちで待っていた。

 

 黒い口を開けた本神殿から、聖徒の正装に身を包んだ聖徒殿主長が現れた。

 長い影を引き、無音の優美な歩みで皆の正面に進む。

 頭上には煌々と輝く黄色い月、青白い星海。

 風を受け、たなびく明灰色の髪。

 玲瓏と佇む姿は美しく、闇を斬るような凄絶な気配が、これから下されるであろう命令の重大さを物語っていた。


「聖徒殿主長ラザ・ダーチェスターの名において、最終号令を発します。いまこのときをもって、原初の大義の第一目的――即ち、ローテ・ゲーテ王家並びにその民の守護につくこと、そのために骨身を惜しまぬこと、全員が徹底して任務を遂行しなさい」

 

 ラザは一旦言葉を切って、王城の方角、その闇の向こうをみつめた。


「まもなく、この地は災厄に見舞われます。このままでは、多くの命が失われることでしょう。僕たちの使命は、ひとりでも多くの民を逃がすことです。

 いままで――国益の名の下に国内外問わず幾万の人命を奪ってきましたが、その(あがな)いです。心置きなく励んでください。

 聖徒の名を翳して導くもよし、陽炎の恐怖で従えるもよし、手段は問いません。

 そして破局がはじまったら、君たちも逃げるんです。生き延びなさい。無駄死には許しません」

 

 空恐ろしいほどの気迫のこもった静寂が返答となって、一陣の風を起こした。

 びゅおうっ、と螺旋を描いて渦巻き、宙の彼方へと吸い込まれていく。


「明日の夜明けと共に行動を開始します。各自、鎮魂祭にて下見した場へ赴き、申し合わせ通り、各々個別宅を手分けして誘導してください。海岸線側は海へ、砂漠側は陸路へ。怪我人・病人、赤ん坊や妊婦、幼児のいる家庭は王城へ。そこで王の指示があるはずです」

 

 ラザは黒指輪を掲げ、鋭く一瞥を巡らせた。


「ナーランダーの加護は我らにあり! 聖徒の威信にかけて最終使命を全うすることをここに誓い、解散!」


 決別の一礼を奉じて聖徒の群衆が闇夜に散ってゆく。

 あとに残ったのは上一位のみ。

 どの顔ぶれも一騎当千の兵である。


「君たちは王城へ。王家の方々を守りなさい。おそらくは民を残して城を離れたがらないでしょうから、時間を見計らって強制退去させてください。制限時間は、明日の正午。力づくでかまいません。どんなことをしても守るんです。それが歴代主長の願い、本当の僕たち聖徒の存在意義です。全員、今日までよく務めました。あとひと働きです――頼みましたよ」

 

 冷酷冷徹、傍若無人を貫いてきたラザ・ダーチェスターの言葉とは思えないひとことだった。

 居合わせた者は狼狽し、ついで発奮し、自然と膝を折り、恭順の姿勢を示す。

 クナウド、ハートレー、ミザイアの三名が「お守りいたします」とラザの傍を離れたがらなかったが、敢え無く却下された。

 口惜しげに、ハートレーが俯く。


「では――なにぶん、お気をつけて。主長(ギャスリィ)、我ら永劫あなたさまに忠誠を誓います」

 

 ラザは解散を命じ、身振りでレニアスのみ招き、踵を返した。



 次々に、場面展開します。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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