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千夜千夜叙事  作者: 安芸
最終話 滅びなき光
102/130

聖徒殿主長の間へ

ラザとリーハルト対決の図です。笑。伏兵はアレクセイ。

 聖徒(ビリー・ヴァ・ザ・リア・ギャスレイ)殿主長の間。

 聖徒(ビリー・ヴァ・ザ・リア)殿の最上階にあるとされながら、辿りつく階段がないことで知られている。

 王弟リーハルトは番人アレクセイ・ヴィトラに案内されて、開かずの間の前に立った。

 ほどなく、レニアス・ギュラスに連れられて、ラザ・ダーチェスターが姿を現す。

 以前会ったときよりも数倍凄みを増していた。

 聖徒の白い聖服聖帽、サーキュラーコート、眼帯はなく、胸には双頭の巨人(ゾルベット・トール)の眼を象った金証四つが揃い、黒と金の徽章入りの指輪が禍々しいきらめきを放っている。


「相変わらず美形だな、君は」

「無駄口を叩いている暇があるなら、とっととその手の中のものを僕に渡しなさい」

「おまけにせっかちだ」

「殺しますよ」

「私を殺せば娘が悲しむ」

 

 ラザの片目がぴくりと痙攣する。

 リーハルトは意地悪く微笑した。


「君には一度きちんと礼を言わねばと思っていてね」

「礼?」

「我が娘をずいぶん手厚く手荒に愛しんでくれたそうじゃないか。それこそ幼少のみぎりより、あんなことやこんなことやそんなことやどんなことまで叩き込んで、ああも性根の据わった、ふてぶてしい――もとい猛々しい娘になった」

「おまけにきれいでかわいいんです」

「きれいでかわいいのは私の娘だからだ! 君の手柄ではないっ」

「磨いたのは僕です」

 

 しれっとラザは一刀両断した。

 その意味するところを汲み取って、リーハルトはぶるぶると震えた。


「……私は断じて君に『お義父上』とは呼ばれたくない」

「僕もあなたに『息子』と呼ばれるつもりはありません」

 

 両者平行線のまま、間があった。

 アレクセイは退屈そうに欠伸をし、レニアスはハラハラしていた。

 激昂するあまり、こめかみから眉間にかけて青筋を幾十もたてていたリーハルトの面相が、不意に相好を崩した。

 同時に緊迫感も和らぐ。


「君のことは気に喰わないが……感謝もしているのだ。娘が元気で幸せそうなのは、君や、君の家族がずっと支えてくれたからだろう。娘を愛してくれてありがとう。妻の分まで礼を言う。どうかこれからも、よろしく頼む」

 

 リーハルトが距離を詰め、ラザを軽く抱擁した。

 レニアスはぎょっとしたが、ラザは殴り倒すことをしなかった。


「さて、肝心のものを渡そうか。長老から預かったものがあるだろう? 見せてくれ」

 

 ラザは首から下げていた小さな布袋を取り出した。

 中から一枚の金色のキー・プレートをつまみ出す。


「これを」

 

 リーハルトより差し出されたのは、二枚目のキー・プレート。


「両方を壁面に」

 

 ラザは二枚のキー・プレートを同時に白壁に押しあてた。

 すると、光の粒子から成る筒状の遺伝子解析装置が一機出現し、全身を包まれた。

 やがてそれもおさまると、アレクセイが安堵の表情を浮かべて言った。


「これで認証確定が終わりました。あとは前主長マリメダからパスワードを訊き出してきてください。それを使えば、中に入れます」

「中にはなにがあるんです」

「入ればわかります」

「僕が拒んだら?」

「この期に及んで駄々をこねるんですか? いいですけど、リアリ嬢には監視衛星がついたままですし、たとえそれを外しても、“盾”が動かなければ“方舟”もガラクタ同然、人類は滅亡。そんなの、リュカオーンが――リアリ嬢が、認めないと思いますけど」

 

 レニアスが拳を用意しながら前に進み出る。


「黙って聞いてりゃ、アレクセイ、おまえラザを脅迫するのか」

「事実を言ったまでです。ちなみに、あなた以外の入室はもはや許可なりません。それに一度動かしてしまえば、あと戻りもできないので、もし他にやることがあるならば先に済ませてきたらどうですか。残された時間は少ないですけどね」

 

 ラザがひらりとコートの裾を翻す。


「レニアス、来なさい」

「えっ。え? え? ど、どこに」

「一度聖徒殿へ。それからマリメダ・ドルーシラのもとへ行きます」


 全エピソード回収の巻、開始です。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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