08.下級回復薬だけど
「――もうこんなに作ったのか?」
「はい。これは下級回復薬ですが」
その日の夕食後。私は食堂に集まっている騎士たちに、小瓶に入れた回復薬を渡していった。
「本当に作ってくれたんだな……」
「そんなにすごいものではないですけどね」
アレクシス様は相変わらず驚いている。
でも私は一応聖女なのだから、下級回復薬を作ったくらいで偉そうにはできない。
「栄養ドリンクだと思って、よかったら飲んでください」
「……」
皆さんは、これが本当に聖女の回復薬なのかと疑っている様子。互いに顔を見合わせて、「どうする?」というような顔をしている。
それも仕方ないわよね……。私はまだここに来て日が浅いから、皆さんからの信頼を得ていない。
騎士のような高位の方が、知らない女が一人でこっそり作ったものを簡単に口にしないのは、当然のこと。
どうしたら信じてもらえるかしら……。
「せっかくだから、いただきます」
そう悩んでいたら、最初に回復薬を飲んでくれたのはノアさんだった。
彼は一緒に薬草を採取した人だし、これが本当に回復薬だと信じてくれたのね。
「……すごいな、本当に疲れが消えた」
くっと、小瓶に入った回復薬を一気に喉へ流したノアさんは、一呼吸置いてそう呟いた。
ノアさんに続いて回復薬を飲んでくれたのは、いつも一緒に料理を作っている騎士たち。
彼らにも、少しは私を信用してもらえたのかもしれない。
「……確かに、疲れがなくなったぞ」
それを聞いた他の騎士たちも、おそるおそる、という具合で回復薬を飲んでいく。
「……本当だ、身体から力が溢れ出るようだ」
「これが、聖女様の回復薬」
「まるでぐっすり眠った後のように爽快な気分だぞ!」
「そうそう、さっきまでの疲労感がまるでない!」
仲間が元気になっていくのを見て、その場にいたみんなが回復薬を飲んでくれた。
まだこの場にいない方もいるし、なんとなく、全体を覆っている暗いオーラのようなものが消えたわけではないけれど……。
疲労が回復したのなら、本当によかった。
「ありがとうございます、モカさん!」
「よかったわ……でも皆さん、今夜もちゃんと睡眠を取ってくださいね」
「……あなたが聖女様というのは、本当だったんですね」
その中で、一人の騎士がぽつりと口を開いた。
彼は朝食担当の騎士。私がここに来たばかりの頃も朝食作りをしていたけれど、とても疲れていて、苛ついていた。
「俺はあなたのことを誤解していました。聖女様は俺たちを見捨てたのだと……でもあなたは違う。いつも一生懸命料理を手伝ってくれるし、手際もとてもいい。あんな動き、これまでも聖女として忙しく働いていなければできない」
「俺もです……。初日に冷たい態度を取ってすみませんでした」
「俺も、無視してすみません」
彼を筆頭に、一部の騎士たちが謝罪の言葉を口にして私に頭を下げた。
「いいえ! いきなりやってきた私をすぐに信用できないのは当然のことです。どうか顔を上げてください!」
「こんな俺たちのために回復薬を作ってくれるなんて……本当にありがとうございます」
彼らは感謝してくれるけど、これまで本当に大変な思いをしていたのは事実。
王宮にいながら、聖女でありながら……私は彼らの助けになるようなことが何もできなかった。
だからこれからは、彼らのために私にできることを精一杯やらなければ。
「団長、本当に素敵な人がお嫁に来てくれてよかったですね!」
「……ああ」
騎士たちが元気になってわいわい騒ぐ中、アレクシス様だけは険しい表情で私をじっと見つめている。
「アレクシス様も、よかったらどうぞ」
「……なぜだ」
「え?」
「頼んだわけでもないのに、なぜこんなことをしてくれた? 望みがあるのなら、聞くというのに」
「望み……」
アレクシス様の金色の瞳が、鋭く私に向けられる。アレクシス様は、私が見返りを求めて回復薬を作ったと思っているのかしら?
「私はただ、皆さんに元気になってほしいと思っただけです。働き詰めの大変さはわかりますし、私は一応、聖女なので」
「それは、どういうことだ?」
「聖女の務めは、国のために頑張ってくれている方たちの力になることです。私は辺境騎士団を癒やしてやれと言われて、ここに来ました」
これまでの労働は本当に辛かった。国のためと思って頑張ってきたけれど、もう限界だった。
王宮での聖女の務めは姉一人で十分だと言われて、私はアレクシス様に嫁ぐために辺境の地へやってきた。
ここは危険な場所ではあるけれど、これまでの状況に比べたらまさに天と地ほどの差がある。アレクシス様は私を気遣ってくださる優しい方だし。
もう十分休ませてもらったのだから、聖女としての役目は果たさないと。
「ですから、これくらい当然のことです」
そもそも、まだ下級回復薬しか作っていない。これからちゃんと、上級回復薬も作らなければと思っているくらいなのに、これくらいで感謝されて調子に乗ってはいけないわ。
「それは、君の本心だろうか」
「はい」
「では君は、王宮にいた頃も聖女としての役目をまっとうしていたと?」
「そのつもりです」
「……そう、か」
私の答えを聞いて、アレクシス様は視線を落とした。
そして何か考え込むように黙ると、ふと席を立って、もう一度私を見つめた。
「ありがとう。今回のことは君に心から感謝する。今日はゆっくり休むといい」
そう言うとアレクシス様は回復薬の入った小瓶を握りしめて、ノアさんとともに食堂を出ていった。




