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31.姉からの手紙

 バジリスクの件は、王宮へも報告された。辺境騎士団が力を合わせて討伐したこと、大きな被害は出なかったこと。また、私が聖女としてその討伐に一翼を担ったことも、アレクシス様は報告してくれたらしい。


 これで少しでも、辺境騎士団への悪い噂がなくなってくれるといいんだけど。


 そう思って過ごしていた、ある日。


「――モカ、君に手紙だ」

「手紙……? 誰からですか?」


 バジリスク討伐から数日が経ったその日。昼食を食べ終わった後、アレクシス様に呼ばれた私は彼の執務室を訪れていた。


「君の双子の姉、カリーナ・クラスニキ嬢からだ」

「……お姉様から?」


 カリーナから、手紙。なんて珍しいの……。

 これまでカリーナから手紙が届いたことは一度もない。

 私をここに追いやったのも彼女だし、私は必要ないと言っていた。

 もう私とは関わりたくないのだと思っていたのに……一体どうしたのかしら?


 カリーナが手紙を書くようなタイプにも思えない私は、一抹の不安を抱きながらもアレクシス様から手紙を受け取り、封を切った。


「……大変だわ」

「なんて書いているんだ?」


 手紙の内容に目を走らせた私は、心配そうに見守ってくれているアレクシス様の問いに、彼を見上げる。


「王都に魔物が現れたそうです。それで、回復薬が足りないと。カリーナ一人では回復薬を作るのが大変だから助けてほしい……私に帰ってきてほしいと、そう書かれています」


 アレクシス様に隠し事をする気はないから、正直にすべてお話しした。

 私は王宮に帰るつもりはない。

 でも回復薬が足りないのなら、王都を守っている騎士たちやそこで暮らす人たちが心配なのは事実。


「そうか……。王都に魔物が現れたというのは俺たち騎士団にも知らされた。実は、バジリスクを討伐したと知ってか、辺境騎士団にも応援要請が来た」

「そうだったのですね」

「今更勝手なことだ」


 アレクシス様は苛ついたご様子だ。

 それもそうよね。辺境騎士団が助けを求めたときはまったく力になってくれず、見捨てていたというのに。

 今になって〝助けてくれ〟というのは本当に勝手だわ。


 でも、やっぱり民に罪はない。


「俺たちが覚醒したのは君のおかげだと思っている」

「……」

「だからどうしたいか、君の意見を聞こうと思った」


 決定権があるのはアレクシス様だし、いくら団長様でも、お城からの応援要請を断ることなんてできないと思うけど……。


 それでも私に相談してくださるなんて。


「私は……王都に、カリーナのもとに、行きたいです」

「君がとても辛い目に遭っていたのはわかっている。姉によりこの地に追放されたのだろう? それに、この件の指揮を任されているのは君の元婚約者、ヴィラデッヘ殿下だ」


 やっぱり。ヴィラデッヘ様が今でも軍事の指揮を任されているのね。

 私が作った回復薬を辺境騎士団に送らなかったのも、彼らを見捨てたのも、すべてヴィラデッヘ様の判断ということ――。


「それを聞いて、尚更行かなければならないと思いました。それに私は聖女です。罪のない王都の人々を助けなくてはいけません」

「……わかった。俺もともに行く」

「ありがとうございます」


 アレクシス様は私がそう言うと、わかっていたのかもしれない。小さく息を吐いたけど、その口元には笑みが浮かんでいるように見えた。


「だが、無理だけはしないでほしい。それに君は俺の婚約者だ。殿下のもとには帰さない」

「わかっています。私が好きなのは、アレクシス様だけですから」

「モカ……」


 彼の手を握ってそう伝えると、アレクシス様は安心したように私を抱きしめた。


「本当は少しだけ、不安なんだ。もし殿下に「やり直したい」と言われたら、君が俺のもとからいなくなってしまうのではないかと」

「大丈夫ですよ。私が王都に帰るのはほんの一時的なものですから」

「……そうだな」


 バジリスクを倒したときのように、何か力になれるなら。

 王都の人たちを救って、またアレクシス様と一緒にこの地に帰ってこよう。


 それからカリーナとも、話をしなければ。


 そう覚悟して、私は王都へ発つ準備を急いだ。


 辺境騎士団の呪いが解け、再び〝最強の騎士団〟と呼べるほどの力を得たとはいえ、ヴェリキーの地にも十分な人数の騎士を残し、私とアレクシス様とノアさん、それから数人の騎士団員とともに、王都へと発った。




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