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27.バジリスク

 騎士団城砦の裏にある巨大な森――その名はツォルンの森。

 魔物が住まう森で、奥に進むと帰ってこられなくなると言われている、魔の森。


 ノアさんの話によると、森を偵察中の者がバジリスクの鳴き声を聞いたのだとか。


『あの声を忘れるはずがない。間違いなく、あの魔物(バジリスク)が現れた』


 その方は慌てて戻ってくると、ノアさんにそう告げたらしい。


 討伐の準備を済ませてすぐに発った騎士たちの後を追うため、私はアレクシス様と同じ馬に乗り、ノアさんらとともに森の奥へ向かった。


 アレクシス様の表情に、かつて見たことがないほど緊張の色が浮かんでいる。ノアさんも、他の騎士たちも……。深刻な表情で手綱を握っている。


 アレクシス様に抱えられるような形で乗馬していることにはもちろん緊張したし、近すぎる距離にドキドキしてしまったけれど、今はそれどころではない。


「瘴気が強くなってきたな……無理をせず、体調の優れない者はすぐに退くように!」

「ハッ!!」

「モカ、君も平気か?」

「はい。私は大丈夫です。それに回復薬も持ってきました。皆さんも、何かあったらすぐに飲んでください!」


 これまで私が作っておいた上級回復薬は、それぞれに渡してある。予備の分もあるので、何かあったら迷わず口にするよう、アレクシス様からも伝えてもらっている。


 馬に揺られながら、私は散々「無理はしないように」と言い聞かせられた。


 辺境騎士団を襲ったバジリスクは、太い木々を一瞬でなぎ倒すしっぽを持ち、石をも砕く鋭い牙に、剣を溶かす毒を放つらしい。


 更に、〝奴の瘴気を浴びれば生気を奪われる〟


 アレクシス様はぎり、と奥歯を噛みしめながらそう続けた。


 騎士団にかけられた呪いの正体は、バジリスクの瘴気ということかもしれない……。


「今度こそ、この手で奴を倒してみせる……!!」


 アレクシス様も、ノアさんも、騎士団の皆さんも。もちろん私だって、気持ちは同じ。誰も傷ついてほしくないし、そんな危険な魔物は絶対に放っておけない。


 私には剣は使えないけれど、聖女として私なりの戦い方があるはず。


〝――どうかお願い。みんなを守って――〟


 胸の前で手を組んで、私は心からの祈りを捧げた。




「――止まれ!」


 しばらく走ると、やがて木々が枯れているところに出た。瘴気も一層濃くなってきたのがわかる。


「……近いぞ」


 耳を澄ますように黙り込み、何かに集中しているアレクシス様に、私も神経を研ぎ澄ませた。


 とても大きな魔物の気配が近くにある。


 ……これは――。


「あっちです!」

「よし、行くぞ!」

「ハッ!!」


 私が一点の方向に指を向けると、アレクシス様の合図で再びみんなは駆け出した。


 間違いない……! 前方から、感じたこともないような大きな魔力を感じる。

 とても恐ろしい魔物がいるのが、全身で感じ取れる。


「あれは――!」


 そして、その魔物の姿はすぐに現れた。

 高い木々から頭一つ飛び抜けている大きな顔は、まるでドラゴンのようにも見える。

 大蛇のようなうねうねとした巨体は頑丈そうな鱗に覆われた皮膚をしており、赤く光る目と刃のように鋭い牙。


 その姿は、まさに〝蛇の王〟そう呼ぶに相応しかった。


「団長――!!」


 近くには先に討伐に向かっていた騎士たちがいて、私たちに気づくと声をかけてきたけれど。


「大丈夫か!? 怪我をしている者は下がれ!!」


 馬から落ち、肩から血を流して動けずにいる者が数名いる。


「大変!!」

「モカ……!」


 私は急いで馬から飛び降りると、転びそうになる身体を踏ん張ってその方のところまで走った。


「大丈夫ですか!? すぐにこれを飲んでください……!!」

「モカさん……」


 そして、肩から提げていたバッグの中から、回復薬の入った小瓶を取り出し、彼に飲ませる。


「……ありがとうございます、傷が治りました」

「よかった……!」


 苦痛に顔を歪めていたけれど、すぐに落ち着きを取り戻していく騎士に、ほっと胸を撫で下ろす。


「下がっていろ! 彼女を頼む!!」


 けれど、安心するにはまだ早い。すぐそこに、バジリスクがいる。

 アレクシス様の呼びかけにはっとして立ち上がると、彼は既に弓を引いて矢を放っていた。


〝シャァァァァ――!!〟


「……っ!」


 アレクシス様が放った矢が腹部辺りに命中すると、バジリスクは頭に響くような奇妙な鳴き声を発した。


 聞くだけで頭が痺れるような感覚が襲う。


「くそっ……!」


 続いてノアさんや他の騎士たちも、矢を放っていく。数本が命中したけれど、致命傷にはならないバジリスクは、怒ったように赤い目をギラギラと光らせて騎士たちに巨大なしっぽをぶつけた。


「うわっ!?」

「……!!」


 避けきれなかった者たちが、馬ごと弾き飛ばされる。


「大丈夫ですか!?」

「うう……」


 よかった、息はあるわ!


 急いで彼らに回復薬を飲ませようと駆け寄るけれど、その直後に聞こえたアレクシス様の焦ったような大きな声。


「モカ――!!」

「……!」


 振り返ると、私目がけて大きな口を開け、鋭い牙を剥き出しにしているバジリスクがすぐそこにいて。


「…………!!」


 このままでは私も一緒にいる騎士も、やられてしまう……!


 そう思って身構えた直後。


「アレクシス様……!」

「……っ」


 誰よりも早く剣を抜いたアレクシス様が、高く飛んでバジリスクの喉元に剣を突き刺した。


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