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25.辺境騎士団の呪い1

 その日、アレクシス様に夕食に誘われた。


 いつもは騎士団の皆さんと一緒に食堂で食べるのだけど、今日はアレクシス様のお部屋で、二人きりで食事をしようと。


「――美味しいですね」

「ああ、君が料理を手伝ってくれるようになってから格段に美味しくなったが、今夜は特に美味しく感じる」

「作ったのはほとんどティモさんたちですけどね」


 二人きりの室内で、アレクシス様と向かい合って。


 みんなで楽しくとる食事も好きだけど、こうしてアレクシス様と会話しながらゆっくりとる食事も、私にとっては素敵な時間。


 ……アレクシス様も、少しでもそう思ってくれていたら嬉しい。


 でも、アレクシス様はお忙しいはずなのに、こんなにゆっくり食事を楽しんでいていいのかしら……?

 それとも何か、どうしても私に話したいことがあるとか……?


 どうしてもそわそわしてしまう私は、時折ちらちらとアレクシス様に視線を向けた。


 いつも思っていたけれど、アレクシス様は食事の所作も完璧で、とても美しい。

 社交の場に出る機会はあまりなくても、この若さでヴェリキー辺境伯の爵位を継いでいる方なだけあって、幼い頃から一流の教育を受けてきたのだと思う。


 私も一応子爵家の娘として淑女教育は受けたし、聖女として登城してからはヴィラデッヘ様の妻になるため、厳しい教育を受けた。

 それでもアレクシス様の動作は、一つ一つが惚れ惚れしてしまうほど美しい。


「――モカ」

「はい……っ!」


 そんなことを考えながらアレクシス様に視線をやっていた私は、ふいに名前を呼ばれて跳ねるように返事をしてしまった。


 つい大きな声を出してしまったわ……! はしたなかったかしら!?


「君に、伝えておきたいことがある」

「……はい」


 なんだろう。

 おかしな反応をしてしまった私を気に留めず、アレクシス様は真剣な表情で私を見つめた。


「その前に、知っておいてほしいのだが」

「はい」

「俺たち……辺境騎士団には、呪いがかけられている」

「……え?」


 以前にもそう言っていたけれど、それは噂されている、比喩的なことではないの?


 アレクシス様のあまりに真剣な表情に、私はごくりと息を呑んだ。


「今から四年ほど前――この地をとても恐ろしい魔物が襲った」

「恐ろしい魔物……」

「バジリスクという、伝説級の魔物だ」

「バジリスク……」


 知ってる。私も聖女としての勉強をする中で、たくさんの魔物の話を聞いた。

 直接見たことはないけれど、バジリスクとは蛇のような見た目の大きな魔物で、強力な毒を放つと言われている。


 でも、おかしい。四年前なら、私は既に聖女として王宮にいた。けれど、ヴェリキーの地にバジリスクが出たなんて、知らない。

 それほど恐ろしい魔物が現れたら、聖女が派遣されてもおかしくないはずなのに。


「やはり君は知らないのだな」

「はい……。申し訳ありません」

「いや、君のせいではないだろう。だが、俺たちは城に応援を要請した。もちろん、聖女の回復薬も要求した。しかし、助けは来なかった」

「……そんな」

「討伐はできなかったが、なんとか俺たちの力だけで奴を追い払うことはできた。しかし、犠牲も大きかった」


 そう言って、アレクシス様は一度目を伏せた。犠牲とは、つまり――。


「あの戦い以来、この騎士団は変わってしまった。父と母も、民を守るために犠牲となった」

「…………」


 ぎゅっと握りしめた拳を震わせて、アレクシス様は怒りを堪えるように静かに言った。


 過去を思い出しているんだわ。きっと私では想像もつかないような、壮絶な戦いがあったのだろう。


 そして、そのせいで前辺境伯であるアレクシス様のお父様と、お母様は――。


「お力になれず、申し訳ありません……」


 私がここに来たばかりの頃、アレクシス様が「王宮や聖女に期待はしていない」と言っていた理由がわかった。

 誰のことも信用していないというような威圧的なオーラを放っていた理由も。


 アレクシス様はどんなに辛かっただろう。そして、私たちのことがどんなに憎いことだろう……。


「君が謝ることではない。もし君が知っていたら、必ず力になってくれただろうと、俺にはわかる」

「ですが……」


〝知らなかった〟なんて言い訳は許されない。

 それなのに、私にとても優しくしてくださったアレクシス様を思うと、胸が押しつぶされそうになる。


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