24.謎の女性2
「あ……」
アレクシス様が先ほどの女性のことを私に説明しに来てくれた。別にそんな必要はないのに。アレクシス様は律儀な方なのね。
そう思っていたら、例の女性もやってきて、アレクシス様を愛称で呼んだ。
私よりも背の高いその女性を見上げたら、ぱちりと目が合った。
やっぱり、とても綺麗な人。何度見ても、本当に美しい人だわ……。
女性は私と目を合わせて口元に小さく笑みを浮べた。あまりの美しさにどきりと鼓動が跳ねた私は、さっと目を逸らしてしまう。
アレクシス様は気まずそうな表情をしている。
私と二人きりで話しているところを見られて、気にしているのかしら。
「すみません、私はもう、アレクシス様と二人で会ったりしませんので――」
「やっぱりちゃんと言えてないんだ」
だから私から身を引こうと思ったら、女性が溜め息をつきながら言った。
「そうだろうと思って、来てやったぞ」
「え――?」
けれど私には、その、女性の割に低い声と男らしいしゃべり方に聞き覚えがあって、耳を疑った。
「ごめんね、モカちゃん。こいつは俺のことを気にしてくれているんだ」
「……ノア」
「えっ……ノ、ノアさん……!?」
「そう。俺だよ。びっくりした?」
「どういうことですか……!? え、ノアさん、女装? え???」
改めてじっくり顔を見つめてみると、確かに面影がある。綺麗にお化粧をして、女性物のドレスを着て、髪を下ろしているから、いつもと全然印象が違うけど。
……でも、この人はどう見ても女性。
「俺ね、実は女なんだ」
「ノアさんが、女性……?」
「正確に言うと、身体だけ、だけど」
「あ……」
「幼馴染ってこともあって、アレクに嫁ぐよう言われてここに来たのは事実。でも、いくらアレクでも男と結婚するなんて嫌でね。まぁ、偽装結婚すればよかったのかもしれないけど、アレクの将来まで巻き込みたくなかったから、こうして男として、ここで騎士になったというわけ」
「そうだったのですね……」
そういえば、アレクシス様にはそんな噂があった。アレクシス様に嫁いできた女性が、恐怖に耐えられず自害してしまったと――。
その女性とは、ノアさんだったのね。生きていたんだわ……よかった。
ようやく状況を理解した私は、アレクシス様がその噂を否定しない理由もなんとなく察した。
ノアさんが今、男性として生きていることを公にしないためだ。
副団長であるその実力は本物だろうし、きっと並大抵ではない努力をされたんだと思う。
「それにしても、どうして女性の姿に……?」
「ああ、これは騎士団を辞めて実家の家業を継げと言われた部下のために、仕方なく婚約者のふりをしてやったんだ」
「なるほど……」
「本当は好きな相手がいたらしいが、振られたからと、泣いて頼まれたよ」
「それは、なんと言いますか……」
気の毒だよね。と言いながら、ノアさんは溜め息をついていつものように髪を結い上げた。
「でも、あのときアレクと偽装結婚しなくてよかったと、今では心から思うよ」
「?」
「ノア、もういい」
意味深なことを口走ったノアさんだけど、アレクシス様が割って入ると、何かを察したように小さく笑った。
「それじゃあ、俺は着替えてくる。またね、モカちゃん」
「はい」
そのままノアさんは去っていったけど、最後まで女の私でもドキドキしてしまうくらい、美しかった。
「……」
「……」
再び二人きりになったところで、私はアレクシス様に向き直る。
「ノアさんがまさか女性だったなんて、驚きました」
「黙っていてすまない」
「いいえ! ノアさんのために本当のことが言えなかったんですよね? それに、男性でも女性でも、ノアさんはノアさんですし」
「ああ……あいつはあの姿になるのは好きではないのに、誤解を解くためにわざわざ着替えずに来てくれた。いい奴だ」
「はい」
本当にそうだわ。それに、お二人の絆の深さが伝わってくる。
「すぐに信じることができなくてすみません」
「いや、君は何も悪くない!」
「でも、ほっとしました」
「……それは、どうしてだ?」
「え?」
つい本心をこぼした私に、アレクシス様が追求する。
「俺とノア……あの女性との間に何もないとわかって、君は嬉しかったのだろうか?」
「……」
そう、私はアレクシス様に他の女性がいなくて心底安心している。でも、それをアレクシス様に伝えていいのかしら? もしかして、彼を困らせてしまう……?
「その、つまりそれは、君は俺のことを――」
「そうだわ! そろそろ戻って夕食の準備をしないと……! すみませんアレクシス様、それでは、また!」
焦ってしまった私は、つい一方的にそう言い切って、アレクシス様の顔を見ずに調理場へ走った。
思わず逃げてしまった……。
でも、今私の顔は真っ赤になっていると思う。
こんな顔をアレクシス様に見られたら……アレクシス様のことが好きだと言っているようなものだわ。
「ああ……もう」
熱くなった顔を手のひらで覆って、先ほどのアレクシス様の眼差しを思い出す。
でも、あの女性の正体がノアさんで、本当によかった。
私は、アレクシス様のことが好き……大好き――。
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