23.謎の女性1
アレクシス様とのピクニックは、本当に楽しかった。
「素敵な時間だったわ」
あれから二日が経ったけど、今でも思い出すだけで胸がドキドキする。
また一緒に出かけたい。でも……。
アレクシス様には大切に想っている相手がいる。この騎士団に女性はいないから、街で暮らしている方かしら。それとも、王都に残してきた人がいるの……?
「……まさか私じゃ、ないわよね……?」
少しだけ……本当に少しだけど、もしかしたらそうかもしれないと考えてしまう。だってアレクシス様は、私にとても熱い眼差しを向けていたから。
「……考えたって仕方ないわね!」
もしそうだったらとても嬉しいことだけど。私たちは結婚するのだから、いずれわかるわ。
とにかく今は私にできることをやりましょう。
そんなことを考えながら今日も回復薬作りに励んだ。
アレクシス様のことを想いながら作ると、そんなに頑張らなくても上質な回復薬が出来上がる。
不思議だわ……。でも、心が弾んで、うきうきして、胸があたたかくなって、自然といいものが完成するのよね。それに、なぜか私の疲労も少ない。
夕食の準備が始まる時間まで回復薬作りを行って、私は魔法部屋を出た。
私に無理のないペースで回復薬作りをさせてもらっているとはいえ、王宮で働いていた頃よりも上質なものが負担なく作れている気がする。
「私はただのスペアなのに……本当に不思議だわ」
今日の夕食は何かしら。そんなことを考えながら、足取り軽く調理場へ向かっている途中。
アレクシス様の後ろ姿が目に入った。
背が高くて姿勢よく、がっしりとした肩幅。黒い髪と、黒い騎士服がとても似合っているあの後ろ姿は、間違いなくアレクシス様。
「アレクシス様――」
……あら?
思いがけずお会いできたことに嬉しくなって駆け寄った私は、その隣にスタイルのいい女性がいることに気がついて、ぴたりと足を止めた。
あの女の人は、誰……?
女性にしては背が高く、スラリとした美人。長くて艶のある赤い髪が本当に美しい人。
「モカ……!」
「あ……」
じっと見つめていた私に気づいたアレクシス様が、私を見てはっとした。
なんだか、見られたくなかったような、気まずい表情をしている。
「すみません……お取り込み中でしたね」
「あ……いや、違うんだ、この人は――」
女性と目が合うと、ふっと意味深に小さく笑われた。
私とは違って大人っぽい人で、切れ長の目はどこか隙がなく余裕を感じる。でもとても美しい人で、女の私でさえドキリと胸が鳴る。
「失礼しました、私、夕食の準備を手伝ってきますね」
「モカ……!」
二人がとてもお似合いに見えて、思わず逃げるように立ち去ってしまった。
私ったら……もしかしたら、アレクシス様と本当の夫婦になれるかもしれないと期待してしまったわ……。
あの人が、この間アレクシス様が言っていた、〝大切な人〟よね?
初めて見る人なのに、アレクシス様の隣にいることがとてもしっくりくる人だった。空気感というか、雰囲気というか……。きっとお二人は昔から親しい間柄なんだと思う。
なんとなくだけど、そんな気がした。これが女の勘ってやつかしら?
……でも、アレクシス様にはあんなに美人のお相手がいたのね。あの人とは結婚できないのかしら?
身分の違いとか……?
だから私と、愛のない結婚をするの?
「……」
胸がぎゅっと締めつけられる。とても苦しくて、涙が出そうになる。
いつの間にか私は、アレクシス様のことを好きになってしまったんだわ……。
***
「ああ……っまずい、絶対に誤解された……!!」
執務室に戻ってきた俺は、先ほどの状況に頭を抱えた。
「誤解だってちゃんと説明すればいいだろう?」
「しかし……!」
「モカちゃんは、ちゃんと話せばわかってくれるって」
まるで他人事のように(そうなのだろうが)、ソファに足を開いて座っているノア。
「俺が一緒にいってやろうか?」
「……いい。俺がちゃんと彼女と話す」
「おお。アレクも男らしくなったな」
「……」
ははははは! と男らしく、豪快に笑っているノアは、やはり他人事なのだろう。
まぁいい。しかし俺一人で説明して、彼女は本当に信じてくれるだろうか……。
「ノア、君はもう戻っていいぞ」
「ああ。そうするよ」
ソファに座ったままでいるノアにそう声をかけて、俺はすぐに誤解を解こうと、彼女がいるだろう調理場へ足を進めた。
「モカ」
「……アレクシス様」
「少しいいだろうか」
「……はい」
モカは、今日も夕食作りの手伝いをしていた。俺の姿を見て少し戸惑いの色を顔に浮べたが、ティモと目を合わせると、彼女はエプロンを外して俺に歩み寄ってきてくれた。
「――先ほどの女性のことだが」
人気のない落ち着いて話せるところまで少し歩き、早速本題に入る。
「わかっています」
「え?」
「あの女性はアレクシス様の大切な人ですよね? 大丈夫です。私は自分の立場もわきまえず、最近は少し調子に乗っておりましたね……。申し訳ありません」
しかし、やはりモカは誤解しているようだった。口元に笑みを浮べてはいるが、目元は笑っていない。それに、前で組んでいる両手が小さく震えているように見える。
「違う!」
「……?」
「あの人と俺は、まっっったくそういう関係ではない!!」
だから、思い切り否定した。
あの人が誰であるのか、俺の口から詳しく説明していいのかわからないが、とにかく信じてもらえるよう伝えるしかない。
「ですが、随分親しいようでしたし……」
「それはそうなのだが……それには訳があってだな」
そう。確かにあの人とは親しい。それは間違いない。
しかし、モカが思っているような関係ではない。
彼女が誰であるのか、はっきり言えたらいいのだが、俺の口からは言えない。
ああ、なんと説明すればいいんだ……!
「――アレク」
「!」
うまい説明が見つからず頭を抱えていると、今モカと話していた例の女性が入ってきた。




